俳優・芳根京子の魅力の原点 6年ぶりの舞台出演も迫る
現在放映中のドラマ『波うららかに、めおと日和』で主演を務める俳優の芳根京子さん。“きゅんが致死量”と話題沸騰だが、彼女の魅力はその愛らしさだけではなく、思わず目を離せなくなる演技力の高さだろう。これまで受賞した数々の賞が、それを裏づける。実に6年ぶりとなる舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』への出演も決まった今、“俳優・芳根京子”が人をひきつけてやまない理由を5つのキーワードから探る。
俳優・芳根京子の魅力の原点 6年ぶりの舞台出演も迫る
“意識して、自分と向き合う時間を作る”
人から注目を浴びる場所に立つ人は、オーラの輝きが違うと言われている。
芳根京子さんも、そのひとりだ。場に立つだけで、空気の流れが変わる。よく色でオーラを表すが、芳根さんなら“真珠のような虹色を持つ白”というのがぴったりくる。癒やしをもたらすような透明感のある白がベースで、役柄によって多面性を見せるさまが、光によって内側から異なる色がにじみでる真珠に重なるからだ。
「とにかく、お仕事、お芝居が大好き。趣味は何ですか?と聞かれることがありますが、お芝居が趣味の1つになってしまっていますね」
芳根さんは、そう目を輝かせながら語る。
ところが、昨年、心境の変化があり、初めて1ヶ月の長期休暇をとった。
「好きではあるけれど、ときにはお芝居とは距離をとって、自分の時間をしっかりと確保する大切さに気がついたんです。自分と向き合って、インプットする時間というのでしょうか。それまでは、あまりに仕事が好きなので、お休みはいらないと思っていたほどでした。でも、お芝居をしていると、正直、自分自身の生活や人生が二の次になってしまう瞬間がある。自分の心に余裕がないなあと。そこで、思い切ってお休みをもらうことを決めました」
素の自分が行きたい場所へ出かけて、会いたい人に会う日々。その時間の積み重ねが、芳根さんの魅力の層を厚くした。
「休暇中はいろいろなことを自分で決めて行動しました。そういった特別な1ヶ月が終わった後、なんだかとても心が満たされた感覚になったんです。出演させていただく作品に向き合ったときにも、一層集中できる感覚があって。お休みがプラスになったなと実感しました。もちろん、今も仕事は大好きなまま。でも、大好きだからこそ、長く続けるためには、自分の時間もしっかりと楽しまないとと思うようになりました」

“なんてことのない日常の中に幸せを見つける”
仕事もプライベートもともに充実させることの大切さに気がついた芳根さん。では、プライベートの時間をどのように楽しんでいるのだろうか。
「最近は、贈り物でいただいた南部鉄瓶にはまっていて、長く愛用できる日用品を育てる喜びを味わっています。普段は、自分で食事を作って食べたり、明るい時間にお風呂に入ることが好き。もう少し余裕があれば、友人や家族と食事に行くことも。旅行など非日常の時間もよいですが、こういったなんてことのない日常に私はすごく幸せを感じます。もっというと、身近な幸せを大切にしたいなと思って過ごしています」
幸せの法則の1つに“足るを知る”という言葉がある。若くして彼女が、それを体得したのは、ある作品がきっかけだった。
「『Re:リベンジ-欲望の果てに-』というドラマに参加させてもらったのですが、極論として生きていれば幸せじゃないかという思いに至ったんです。私の役は、妹が心臓病で亡くなってしまう姉という役柄。演じる中で、さまざまな葛藤がある3ヶ月を過ごしました。そのときに、生きているだけで幸せだと気づいたんです」
このドラマとともに、生きている幸せを感じる風景として満開の桜が心に刻まれているとも教えてくれた。
「ちょうど、スタジオに缶詰になってシリアスな場面を撮影した後、外に出たら目の前に満開の桜が広がっていたんです。しみじみと桜の美しさや儚(はかな)さが心に入ってきました。監督と毎年桜が咲いたら思い出すねと言ったシーンも思い出されます。今年の桜の季節に、偶然にその監督とスタジオでお会いする機会があったんです。ふたりで、この季節が巡ってきましたねという会話を交わして。もう満開の桜が見れたから、今年は幸せだみたいな気持ちになりました。
リベンジは、それだけ命の重さや尊さを感じさせてくれたもので、満開の桜はその象徴のようなもの。日常の幸せに心を寄せるもとになった大切な作品です。そう思うことで、たくさんの幸せに巡り合うこともできました。たくさんやらなければならないことがあり、余裕がないときにこそ、小さな幸せを自分から見つけに行きたいと思っています」
“受動より、自分から動く”
世の中には、鑑賞に喜びを感じるタイプと、自ら動くことに喜びを感じるタイプがいる。芳根さんは、おしとやかで控えめな印象が強いが、意外にも後者のタイプである。
「昔から、ピアノやフルートをやっていたこともあり、インタビューでどんな音楽を聴きますか?と聞かれることも多いのですが、私は聴くよりも、自分の手を動かす方が好きですね。お芝居を観ることも好きですが、自分で演じる方がもっと楽しい。役に影響を受けて成長できたと思うことが多く、普通に生きていたらできない職業を疑似体験できたり、ありえない環境に飛び込ませてもらえることもありますし。学生時代から、机の上で学ぶ科目よりも実技がある科目の方が得意。私は、自分で体を動かして体験するのが好きなんだなあとつくづく思いますね」
自分で動くことが好きだからこそ、多種多様な役柄を実にナチュラルに自身の中に取り込んでしまう。NHK朝の連続テレビ小説『べっぴんさん』で10代から老年期までを演じきった姿が記憶に残っている人も多いと思う。
「当時19歳だったので、皆で年を重ねる演技を楽しんで取り組みました。とくに、孫が生まれて、おばあちゃんになった時代が面白かったです。あるとき、監督に自分の子供と孫の違いは何かを教えてもらったんです。『たぶん、それは責任の大きさだと思うよ』と。すごいヒントをいただいて、腑に落ちた演技ができたんだと思います」
1つ1つの人との出会いを大切にし、好奇心を持って、素直にアドバイスに耳を傾ける。この素直な積極性が幅広い演技を可能にし、活躍の場を増やしているのだと思う。そして、最初の質問から、変わらずに輝いていた瞳が次に向かっているのは6月に始まる舞台だ。

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“チャレンジする心を忘れない”
舞台のタイトルは『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』。昭和30年代を背景に、中井貴一さん演じる映画監督と5人の女性たちとの関係が描かれる。中井さんのモデルは昭和の巨匠・小津安二郎。芳根さんの役は、中井さん演じる映画監督が実の娘のように可愛がっている、撮影所近くの食堂に勤める看板娘だ。
「実は、舞台出演は6年ぶり。前回の舞台は、濃密でやりきったという気持ちが強かったので、しばらく遠ざかっていましたが、2年ほど前から、また舞台に挑戦してみたいという気持ちが湧いてきました。チャレンジしなければいけないという気持ちと、プレッシャーを同時に感じています」
そのプレッシャーを跳ねのけて、参加を決めた理由は監督と共演者だった。
「行定 勲監督には、女性を美しく描かれている作品が多いので、初めてご一緒させていただくのを楽しみにしています。中井さんも初めての共演ですが、本当に優しい方なので、二人のシーンをどう一緒に演じていけるか楽しみです。そして、キムラ緑子さんがいらっしゃるのが本当にうれしいです。6年前の舞台で母娘で共演した経験もあり、緑子さんがご一緒なら安心できると思いました。まだ舞台経験は3回目。最近は、ドラマの現場で自分が最年長ということが増えていますが、今回は、頼りになる先輩方が多いので、皆様の胸を借りて、精一杯努力をしたいと思います」
久しぶりの舞台への意気込みを伺って、芳根さんに改めて、舞台の醍醐(だいご)味を教えていただいたところ、こう返ってきた。
「映像は1回にかけるというやり方。舞台は、毎日同じお芝居をするという違いがあります。生だからこそ起きること、皆で作り上げる空気感が楽しみ。舞台で起きることを、ちゃんと受け止めて、刺激を受けながら、勇気をもっていろいろとチャレンジしたいと思っています。台本がどう裏切られていくか、心温まるシーンが多いので、1ヶ月かけて自分の心がどう動いていくかにもワクワクしています。前回は、台詞を間違えずにやりきることで精一杯でしたが、今回は前回よりも成長した姿で皆様をお迎えできればと思っています」
“周囲の人へ感謝する”
今回、役柄の上で中井さんとの関係性は“恩人”。では、芳根さんにとっての恩人を一人あげるなら、誰になるのだろうか。
「難しい質問ですが、感謝をしているのはデビューから7年間ついてくれたマネージャーです。10代の頃は、大げんかをしたこともありましたが、大人になってから『人を怒るって、すごくエネルギーがいる。目をつぶる方が楽』だということがわかったんです。当時は理解ができませんでしたが、本気で怒ってくれたあの一言でやる気になりました。人としてのベースができ、ちょっとやそっとではへこたれないメンタルができたのも、あのとき厳しくしてくれたからだと今は心から感謝をしています。
この舞台では、日常の小さな出来事を丁寧に描いていて、感謝を表す台詞もよく出てきます。日常で感謝を表すことは重要なことではないでしょうか。以前、ドラマの撮影である監督から、私の演技に対して『最高のプレゼントをありがとう』と言っていただけたことがありました。それが励みになり、求められたことは120パーセントで返したいと思うようになったんです。今度の舞台は、参加させてくださった監督や共演者の皆さま、いつも応援していただいている皆さまへの恩返しでもあります。絶対面白くなる自信がありますので、ぜひ足を運んでいただけるとうれしいです」
photos: Tomoko Hagimoto styling: Inomata Maiko(TRON) hair and make-up: Inomata Maiko(TRON) text: Rica Ogura
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