古川雄大、「べらぼう」で自身と真逆の“陽キャ”に挑戦!反響の大きさに驚き「疎遠だった友人から連絡」

古川雄大、「べらぼう」で自身と真逆の“陽キャ”に挑戦!反響の大きさに驚き「疎遠だった友人から連絡」

 横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で、自身とは真逆の“陽キャ”北尾政演(まさのぶ/山東京伝)役に挑んだ古川雄大。そんな古川演じる政演の多面的なところが描かれるという8月3日放送・第29回「江戸生蔦屋仇討」を前に、劇中劇で“ブサイクな役”に挑戦した撮影の裏側や、政演役において試行錯誤したアプローチ方法、大河ドラマ初出演の反響などを語った。

自身とは真逆の“陽キャ”役への挑戦

 大河ドラマ第64作「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は、江戸時代中期、貸本屋から身を興して書籍の編集・出版業を開始し、のちに江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎(横浜流星)の物語。古川が演じるのは、板元・蔦重を振り回す北尾政演(のちの山東京伝)。演出からは「べらぼう一の陽キャ(陽気なキャラクター)でいてください」という指示があったという。自身とはかけ離れた役柄に、どう向き合ったのだろうか。

 「当初は、北尾政演は「色男」と呼ばれていた人物と伺っていたので、もう少しセクシーなイメージをしていたのですが、演出からは“一番陽キャでいてください”と言われました。調べてみると、今で言う“パーティーピープル”のような存在だったらしくて。当時のチャラさや陽気さをどう表現しようか悩みましたが、きっと今よりもっとストレートに表現していただろうと考え、底抜けに明るく、まっすぐに表現していこうと決めました」

 いざクランクインし、自身のできる最大限の“チャラさ”で臨んだが、演出からは「もっとチャラくていい」とダメ出しが。自身を「根が暗い」と分析する古川にとって、それは大きな挑戦だった。

 「演出からいただいた“今は何も考えず、女性のことだけ考えていていい”という一言が大きなヒントになりました。ただ単に明るいだけでなく、その背景に何か高揚しているものがあるからこそ、陽気さやチャラさにつながるんだなと感じました」

 政演の陽気さを象徴するシーンとして、第22回「小生、酒上不埒(さけのうえのふらち)にて」に出演した芸人・クールポコ。の決め台詞「な~に~」を披露し、視聴者を驚かせた。一見アドリブにも思えるが、実は演出からの提案だったと明かす。

 「アドリブじゃないんです(笑)。演出の深川(貴志)さんから“ここで、言ってくれませんか?”と。台本にはなく、リハーサル中にご本人に内緒でやりましょう、という感じで。結果的に、その後に(ネタを)盗んで揉める展開の伏線になっていたようで、そうだとしたら、深川さんの先見の明に脱帽しました」

つけ鼻で挑む劇中劇と、秘められた苦悩

 底抜けに明るく見える政演だが、物語が進むにつれて、その内面に秘めた戯作者としての苦悩が描かれていく。特に第29回は、彼の人物像が深く掘り下げられる重要な回になったという。

 「僕も台本を読むまで知らなかったので、“え、こんな人だったの?”と驚きました。蔦重さんからヒントをもらいながら、一人ではなく皆で作品を作っていくことで成長する姿が描かれます」

 この回では、政演が作った物語を自身で演じる「劇中劇」が大きな見どころだ。色男として名を馳せる政演が、なんと“ブサイクな役”を演じる。約1週間「つけ鼻」の特殊メイクで過ごした収録期間中は、ユニークな出来事が多発した。

 「つけ鼻は、メイクさんと相談しながら、どんどんブサイクにしたくなってしまって(笑)。鼻をつけたままNHKの食堂に行ったりしたのですが、会う人会う人、鼻の話から会話が始まるんです。桐谷(健太)さんにあいさつした時、僕だと気づかれなかったみたいで、後で聞いたら“鼻の大きいエキストラの人が来た”と思っていたそうです(笑)」

 ゼロから1を生み出すクリエイターの苦しみ。それは、アーティストとしても活動している古川にとって、深く共感できる部分だったようだ。

 「何もないところから、生み出す作業はすごく苦悩することだと思います。僕も作詞作曲をする中で、その難しさを感じています。この人のエッセンスをもらいたい、何かいいものを上手く使ってみたい、という気持ちはすごく共感できました」

森下脚本への信頼と、大河がくれた思いがけない影響

 本作の脚本は、2023年放送のドラマ10「大奥」(Season2)でもタッグを組んだ森下佳子。古川は、その脚本に全幅の信頼を寄せている。

 「森下さんの脚本は、人物の描き方がすごく深い。演じる側も疑問を感じることなく、すっと役に入っていけます。史実の中にフィクションを織り交ぜて人物をさらに膨らませるバランス感覚も素晴らしいです」

 連続テレビ小説「エール」(2020)では、ヒロイン・音(二階堂ふみ)の声楽の教師・御手洗清太郎役として出演。キレキレのセリフで自身を“ミュージックティーチャー”と呼ぶキャラクターは、大きな話題を呼んだが、今回の“陽キャ”政演役も同様だ。

 「毎回NHKさんには良い役をいただけることに本当に感謝しています。特に朝ドラや大河ドラマは反響が大きくて。地元の母が銭湯に行くといろんな人から声をかけられるそうです。あと、疎遠だった友達からも“大河出るんだって?”と。おかげで連絡をとることができました(笑)」

 自身を「根が暗い」「怒られる側の人間」と分析する古川。だからこそ、誰からも愛される政演のキャラクターには特別な思いがあるという。

 「羨ましいですね。彼は何をしても結果的に憎まれない。僕は昔から上手く立ち回れないタイプなので(笑)。変なことを言っても憎まれずに可愛がられる人って、すごくいいなと憧れた時期がありました。政演はまさにそういう人で、人の懐にスッと入っていける。自分にはない要素なので、演じていて楽しいです」

 初めての大河ドラマの撮影現場は、緊張感とともに、大きな充実感をもたらした。

 「初日はやはり緊張しましたが、『大奥』の時と同じチームなのは助かりました。『大奥』の時から感じていましたが、本当に徹底的にこだわって作る、妥協のない現場です。衣装、メイク、かつら、所作指導の先生方など、全ての専門家が作品への愛情を持っていて、一つのものを皆で作っている。そんな座組に参加できて本当に良かったと思っています。自分にとっての糧を得られるという期待感の中、日々収録に臨んでいます」

 「つったじゅうーさーん」とやってくる陽気な仮面の下に隠された、繊細なクリエイターの魂。そして、時代の大きなうねりの中で、蔦重という稀代のプロデューサーと出会い、どう自身の才能を開花させていくのか--。古川が体現する北尾政演の人間味あふれる魅力は、確実に作品に彩りを加えている。(取材・文:磯部正和)