『鬼滅の刃』無限城編は何がすごいのか 驚異的ヒットにふさわしい理由【ネタバレなし】

『鬼滅の刃』無限城編は何がすごいのか 驚異的ヒットにふさわしい理由【ネタバレなし】

 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(以下『無限城編』)が驚異的なヒットとなっている。公開初日の7月18日から3日間で興行収入55億2,429万8,500円、祝日を含む4日間で興行収入73億1,584万6,800円を記録した。これは日本歴代興行収入第1位の前作『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(以下『無限列車編』)を上回るペースだ。いったい本作の何がすごいのか。ネタバレなしで考えてみたい。

ストーリーは原作に忠実

 本作で描かれるのは、鬼舞辻無惨の本拠地「無限城」に送り込まれた主人公・竈門炭治郎をはじめとする鬼殺隊と鬼たちとの壮絶な死闘である。吾峠呼世晴による同名の原作漫画においては、全体のクライマックス三部作の序章にあたる。

 ストーリーは驚くほど原作に忠実だ。セリフ一つひとつまで再現されており、原作漫画を読んだ人なら、次に画面で何が起こるのか手にとるようにわかるだろう。それでもこれだけ多くの人が魅了されている理由は、原作のストーリーの良さとそれを最大限に活かすアニメの品質の高さ、この2点に尽きるのではないだろうか。

ダイナミックな戦闘シーン

 まず圧倒されるのは、ダイナミックな戦闘シーンだ。原作では省略されていたアクションも、アニメでは登場人物の激しい動きとスピード感のある移動、「呼吸」をはじめとする剣術や技の鮮烈なビジュアルなどがしっかりと描きこまれている。

 また、物語の舞台となる無限城のビジュアルも圧巻の一言だ。どこまでも広く、内部の空間・構造が常に生き物のように変化し続ける無限城の様子を、3DCGを駆使して見事に再現してみせた。緻密で、奥行きのある無限城の中をキャラクターたちが縦横無尽に駆け回り、戦い続ける映像が出来上がった。ぜひ没入感の高い劇場で体験してもらいたい。

声優陣の好演

 どんなに激しいアクションと緻密な背景画があっても、登場人物の感情が見えなければ意味がない。本作では鬼と対峙する炭治郎、我妻善逸、胡蝶しのぶ、冨岡義勇らの怒りや哀しみなどの感情が存分に表現されている。

 絵をはじめとする演出の力も大きいが、やはり重要になるのが声優による演技だ。なかでも、童磨を演じた宮野真守と猗窩座役の石田彰の演技は特筆に値する。宮野は物腰が柔らかいのに捉えどころがなく残忍な童磨を心底恐ろしく不気味に演じ、石田は強さを追い求めて弱者を憎む猗窩座のさまざまな感情の変化を演じきってみせた。どちらも本作の重要な登場人物であり、それを見事に表現した両者の演技だった。

本作が伝えていること

 高品質なアニメによって描かれるのは、炭治郎、猗窩座ら登場人物のそれぞれの持つストーリーとバックグラウンドだ。激しいアクションの合間に、次々と彼らに関する回想が挟まる構成になっている。なぜ彼らは憎むのか、なぜ怒るのか、なぜ戦うのか。回想によって物語の解像度が高まり、登場人物への感情移入は深まっていく。

 先述したとおり、本作は『鬼滅の刃』全体のクライマックスの序章にあたるが、登場人物の説明やこれまでのダイジェストなどは大胆に省略している。それでも観客が作品に没入できるのは、登場人物の背景がしっかりと描きこまれているからだ。

 ストーリーの起承転結がはっきりしていた『無限列車編』と比べると、『無限城編』はアクションと回想が繰り返し押し寄せる独特の構成だと言える。その分、登場人物の心情がダイレクトに観る者に伝わり、感情を揺さぶっていく。

 「強さ」を追い求めることだけが大切なものを守る手段になるのか? 大切なものを失ったとき人はどう生きるのか? 強くなった者の役割とは何なのか? 作品の中で問いかけられるものが胸に響くからこそ、『鬼滅の刃』は多くの人を魅了する。原作の持っていた物語の力を、圧倒的なクオリティーのアニメによって増幅しているのが『無限城編』なのだ。(文:大山くまお)

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は全国公開中

※鬼舞辻無惨の「辻」は点一つのしんにょうが正式表記

※7月28日追記:初出時から記事内の情報を一部変更しております。