くら(浅田美代子)の「銀幕の向こうに行ってみとうなってね」…まさか“第18回の一言”が伏線だった!【あんぱん第69回レビュー】

『あんぱん』くら役・浅田美代子さん 写真提供:NHK
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第69回(2025年7月3日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
東京に行きたいメイコ(原菜乃華)に
よく響く声で雷を落とす釜次
「あんぱん」第68回の世帯視聴率が17.8%(関東地区)と大躍進。後半戦のはじまりに幸先がいい。
メイコ(原菜乃華)がごきげんで「リンゴの唄」を口ずさんで帰宅すると、釜次(吉田鋼太郎)と羽多子(江口のりこ)が彼女を心配そうな目でじっと見つめる。彼女が東京に行こうとしていることを止めようとしているのだ。
家族に内緒で蘭子(河合優実)にお金を借りようとしたにもかかわらず、あっという間に家族中に知れ渡っていた。とりわけ猛反対なのは釜次。よく響く大きな声で問いただす。まさに雷という感じ。
ほのかな夢が摘まれそうになったメイコは家出してしまう。
羽多子が心配してのぶ(今田美桜)に電話をかける。その頃、のぶは夕刊の代わりに月刊誌を作ることができるようになって夢が再び膨らんでいた。
メイコが家出と聞いて心配で、せっかくの月刊誌会議に身が入らない。気を利かせた東海林(津田健次郎)が家出人の取材にいってこいと粋なはからいをする。
おそらく乗換駅なのだろう、のぶは高知駅で待ち伏せしメイコを探してみたが見つからない。とぼとぼと帰宅すると、メイコが大きな風呂敷に包んだ荷物を担いで立っていた。勇んで列車に乗ったものの不安になって高知駅で降りたという。

『あんぱん』第69回より 写真提供:NHK
銀幕に憧れていたくら(浅田美代子)
伏線は第18回に敷かれていた
メイコはラジオで聞いた「のど自慢」に刺激を受け、予選を受けるために東京に行く決意をしたのだ。
旅費を渡したのは、蘭子ではなく、くら(浅田美代子)だった。冒頭、釜次がメイコを問い詰めているとき目を反らしていた。第68回のラストでメイコと蘭子の話を立ち聞きもしていた。
「あの子は昔のあてなが」
メイコが消えた家でくらは釜次たちに語っていた。若いとき、高知で映画を見て、京都の撮影所に行って映画俳優を目指そうと夢見たときがあった。
くらははじめて心のうちに秘めていたことを語りだした。
「銀幕の向こう側にどういても行ってみとうなってね」
「あてができんかった冒険、メイコにしてほしがったがよ」
清水の舞台から飛び降りるように京都の撮影所に行っていたら……。専業主婦として家のなかにずっといた彼女がそんな思いを抱えていた。
「おなごいうんは大胆なことを考えよるにゃあ」と参ってしまう釜次。このひと、まったく奥さんのことを知らなかったのだなあ。こうやって多くの女性は夢を諦めて家庭で夫や子どもに尽くす日々を送るのである。
くらはそんなかすかな夢をほんの少し漏らした回があった。
第18回。そこでくらは文化的興味のあることを見せていたのだ。
そのとき千尋(中沢元紀)のことを「ゆくゆくは御免与町のゲーリー・クーパー」とくらがメイコと語っているのだ。当日、ゲーリー・クーパーの出る映画『昼下がりの情事』がBSNHKで放送されていたので、それに掛けたセリフかと思いきや、くらが映画好きであることを表すセリフだったというわけだ。
当時まだテレビもなく、娯楽もあまりなさそうで、ようやくラジオが家に来たくらいだったのに、専業主婦のくらが急にゲーリー・クーパーと言いだしたのが不思議だった。でも映画が好きで、お嫁に行く前は時々、映画館にでも行っていたのかもしれないと思わせるセリフだった。実際、高知にも大正時代から映画館があったようだ。

オーディションで3365人中
圧倒的“ヒロイン”だった原さん
さて。のぶの家に羽多子が心配して訪ねてくる。連れ戻そうとする羽多子にメイコは、仕事のあるのぶや蘭子と比べて、自分には何もなく、宙ぶらりんでふわふわしているように引け目を感じていたことを語る。
自分はみそっかすだと卑下するメイコに羽多子は、戦争のせいだと慰める。仕事はないし、嫁にいきたくても男性が戦争で少なくなって相手がいないと悲観するのぶ。健太郎(高橋文哉)への思いはどうなった? 相手にされていないと諦めたのだろうか。
「うち戦争のせいにするのはいやや。日本が負けたきってうちまで負けてしまうがはいやや。何かに挑戦してみそっかすの自分を変えたい。いっぺんでええき心が震えるようなことをしてみたいがよ」
くらにお金を返して、高知で働き、自分で旅費を作って東京に行くと言うメイコ。意外にもしっかりしたことを考えていたメイコに羽多子も打たれた。
メイコの夢は叶うのか。これまであまり出番のなかったメイコがにわかに動き出した。
メイコを演じる原菜乃華は、河合優実と同じく、ヒロインオーディションを受けていた。
オーディションは書類選考、ビデオオーディション、グループオーディション、最終カメラテストから成っていて、倉崎憲チーフプロデューサーは、最終オーディションで河合のことが印象に残ったと語っている。原のことはグループオーディション。
「グループオーディションにおける自己紹介の時、周りの人からどう言われますかという質問に『サムライです』と言ったんです。『ストイックだからかと思います』みたいな理由で。それが面白いなぁと思いました。
いわゆる朝ドラヒロイン、ザ・朝ドラヒロインみたいな明るくて天真爛漫なところは、原さんが3365人の中、圧倒的で、朝ドラにはひとりはこういう人がいてほしいという存在です。実際、現場も彼女がいると明るくなりますし、芝居も達者で、天真爛漫でみんなに愛されるようなメイコのキャラクターにぴったりでした」
フォトギャラリー
主なシーンより

第14週(6月30日〜27日)
「幸福よ、どこにいる」あらすじ
高知新報に戦後初の女性記者として入社したのぶ(今田美桜)は、初日から取材現場に出され圧倒される。翌日から闇市で取材した記事を書いては、東海林(津田健次郎)に何度も突き返されるが、ようやく初めての記事が朝刊に載ることが決まる。そんな折、のぶは夕刊の編集局員となり…。一方、嵩(北村匠海)は健太郎(高橋文哉)と共に、廃品回収した雑貨を売っていた。ある日、ガラクタの中にあったアメリカの雑誌を手にした嵩は、最先端のデザインを見て久しぶりに心が躍る。
連続テレビ小説『あんぱん』
作品情報

連続テレビ小説「あんぱん」。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語です。
【作】中園ミホ
【音楽】井筒昭雄
【主題歌】RADWIMPS「賜物」
【語り】林田理沙アナウンサー
【出演】今田美桜 北村匠海 江口のりこ 河合優実 原菜乃華 高橋文哉 鳴海唯 倉悠貴 津田健次郎 浅田美代子 吉田鋼太郎 ほか
【放送】2025年3月31日(月)から放送開始