「べらぼう」風間俊介、大反響の「目が笑っていない」顔の裏側語る 「デフォルトの顔がちょっと怖いんだと思います」

「べらぼう」風間俊介、大反響の「目が笑っていない」顔の裏側語る 「デフォルトの顔がちょっと怖いんだと思います」
横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で目利きの地本問屋・鶴屋喜右衛門を演じる風間俊介。劇中では蔦屋重三郎(横浜)の道を阻む存在として描かれていたが、風間演じる鶴屋のトレードマークと言えば不敵な笑み。29日放送の第25回では蔦重との関係が大きく変化すると共に、それは彼の笑みにも表れる。この回を軸に、風間が時に視聴者を戦慄させてきた笑みの裏側を語った。
大河ドラマへの出演は、「西郷(せご)どん」(2018・橋本左内役)、「麒麟がくる」(2020・徳川家康役)に続いて3度目となる風間。「べらぼう」で演じる鶴屋喜右衛門は、史実では山東京伝など若い才能を見いだしプロデュースするなど、蔦重とともに一時代を築いた人物。のちに柳亭種彦作の「偐紫田舎源氏」、歌川広重の「東海道五拾三次」(「保永堂」と共同)などを生み出す。劇中では江戸市中の地本問屋のリーダー的存在であり、新参者の蔦重(横浜)と対立関係にあった。
鶴屋は蔦重が市中の本屋の仲間入りをすることを許さず、蔦重の行く手を阻む存在として描かれてきたが、風間は両者の関係をこう振り返る。
「蔦重は直感だったり、気持ち、人との縁、思いみたいなものを大事にしている人。対して鶴屋は培った伝統を重んじ、商人として気持ちだけでは動けない部分が多々あるキャラクターだと思うんですよね。蔦重が一代で始めて、しかもややイレギュラーなスタートを切っている本屋さんだからこそ可能なフットワークの軽さだったりとか、伝統に縛られないイノベーションっていうのを羨ましく、妬ましくも感じている。でも、自分の立場としてはそれは認めるわけにはいかないという対立は面白いと思いました。この『べらぼう』が本当に素晴らしいと思うのが、現代人、特に働く人たちも共感できるビジネスのバトルが描かれているところ。そのなかで、互いに自分にないものを持つ2人が対立する構造が面白い」

これまで蔦重の仲間入りを拒んできた鶴屋だが、蔦重は吉原細見、錦絵、青本と次々に事業を成功させ、その勢いはますばかり。第20回では、見下してきた蔦重と肩を並べる展開に。蔦重が営む「耕書堂」が出した朋誠堂喜三二(尾美としのり)の本「見徳一炊夢(みるがとくいっすいのゆめ)」が、大田南畝(四方赤良/桐谷健太)の批評本での番付で一位に輝き、市中の本屋が蔦屋との取引をしたいと言い出した。鶴屋はこれを認めざるを得なくなるのだが、この際の鶴屋と蔦重の対峙は大いに話題を呼んだ。
「この場面では、台本上に鶴屋が番付を読んでいるところに蔦重がやってくることは書かれているのですが、鶴屋がその番付をどうさばくかというのは書かれていなかったので、どうするのがいいのかかなり迷いました。パタンと閉じて蔦重の目の前に置くのか。“読んではいたけれど別に気にしていません”というニュアンスですね。それとも隠すのか。隠すっていうのはある種、負けなんですよね。どちらでも成立しますが迷った挙句に、後者を選びました。自分が負けた番付を見る姿を蔦重に見られたくないという気持ちです」
この場面では「此度はお仲間のうちに認めていただきありがとうございました」と頭を下げる蔦重に、鶴屋は「確かに市中の本屋がそちらと取引するのは勝手と認めましたが、うちが取引するかは別の話です」「私は蔦屋さんが作る本など何一つほしくはない」と手厳しい言葉を返しながらも、笑顔は絶やさない。かねてから視聴者の間で「目が笑っていない」と語り草になっている鶴屋の笑顔を、風間は「ある種の武器」と見ているという。
「僕はある種の武器、武装みたいなものだと認識しています。社会的にある程度の地位についた人たちっていうのは、弱みをあまり見せてはいけないと強いられる部分があると思うんですよね。自分を相手より大きく、余裕があるように見せて商談を優位に進めていくための武器として備わっていったものかなと。僕、黒目が大きいらしく、そもそもデフォルトの顔がちょっと怖いんだと思うんですよね(笑)。感情を宿さない目をしながら口角を上げることで、新しい怖さが生まれたと言いますか。視聴者の方に“目が笑っていない”と言われましたが、自分でもそう思いました(笑)」
いわば偽りの笑顔が定着していた鶴屋だが、第25回「灰の雨降る日本橋」では、いまだかつてない笑顔を見せる。浅間山の大噴火により江戸に灰が降り注ぎ、蔦重は通油町(とおりあぶらちょう)の灰の除去のために奔走し、そこで鶴屋と共に勝負を繰り広げる。たまった灰を桶に入れて店の男たちがリレーのように受け渡し川に捨て、早く終えられた方が賞金を得られるというもの。競争は大いに盛り上がり、終盤、鶴屋は蔦屋のある一言に笑みをこぼす。
「(笑顔について)これまでとの違いは意識していましたね。監督が“それだとちょっと強すぎるかも”とおっしゃったので、抑えようと思ったんですけど、蔦重と一気に雪どけする回だったので、吹き出しちゃうみたいな笑いにしました。なおかつ、この灰捨て競争の撮影がかなり大掛かりで時間が限られていて、差し迫った状況でもあったので、心が赴くままにやらせていただきました。視聴者の方には“もう裏はないみたいな感じにしてるけど、鶴屋のことだから実際はそんなことないでしょ”と思われるかもしれませんが(笑)、自分としては全然違う笑い方をしているつもりです」

さらに、この場面では常に優雅なたたずまいだった鶴屋が全力疾走する。「高めの下駄で走ったのでめちゃくちゃ痛かった」という風間だが、この下駄にも鶴屋のキャラクターがにじんでいるという。
「この時、鶴屋が歯が高めの下駄を履いているんです。店がすぐそこなんだから一度戻って走りやすい履物に替えればいいのに(笑)。それは、“やる気を出していると思われたくない”ことの表れなのかなと(笑)。例えば、さっきまで革靴を履いていた人が競争の場でスニーカーに履き替えて登場したら、やる気出してるな~って思われそうですよね。鶴屋からすると“別に勝敗にこだわってません”みたいな感じなんだけど、いざ走り出したら、絶対負けたくないっていう(笑)。珍しく汗をかき、灰をかぶり、駆けずり回るっていうのは、普段は伝統だったりとか、自分はこうあらねばならないっていうものに縛られているけれど、心の奥底にはそれを破りたい衝動がきっとあるんだろうなと思いました」
鶴屋に対する反響について、風間はこう語る。
「僕としては、役ってそれぞれカテゴライズはあったとしても、全員違う人間なので、全部違うものだと思ってやらせていただいているのですが、30代は人に寄り添う役が多くて、40代でまたヒールというか、何かを抱えているような役が続いたときに、世の中の反応が二極化するんです。“こんな悪い人、珍しいですね。全然イメージになかった”とおっしゃる方と、“風間は今までさんざん悪い役やってたし、そんなにイイ人のイメージないけど”といったふうに、ジェネレーションギャップが生まれる。まさに役者冥利に尽きるというか、観てくださる方の反応が一番面白いなと。僕自身は与えられたキャラクターを全うしたいという気持ちだけなんですけど、ちょっと自信にもなるんです。ああ、どちらもちゃんとできていたのかな、どっちも印象を残せていたのかなって」
そうチャーミングな笑みをたたえ、楽し気に語っていた。(編集部 石井百合子)