コメダと双璧「老舗チェーン」全国展開しないワケ

外国人観光客が殺到するコンパルとは?, 昭和20年代の雰囲気をそのまま残す、クラシカルな空間, 創業者が研究を重ねてたどり着いた、“熱々のアイスコーヒー”, 月2万食売れる、名古屋名物・エビフライサンド, テイクアウト可能、老若男女に愛されるお土産

コメダと双璧をなす老舗喫茶店「コンパル」をご紹介します(筆者撮影)

出張先でご当地グルメを楽しみたいけれど、個人店は選びづらい――そんな時に頼れるのがローカルチェーン。本連載では、出張者目線で人気ローカルチェーンを紹介。
第15回は東海エリアを拠点にするフリーライターの山田智子が、喫茶王国・愛知を代表する老舗喫茶店「コンパル」を紹介する。

一時期、名古屋駅を歩いていると、外国人観光客からある店までの行き方を頻繁に聞かれた。「ここに行きたいのですが……」と差し出されたスマホを覗くと、目的の場所は「コンパル」。知っていれば徒歩で2、3分の場所なのだが、名古屋駅の地下街は迷路のように入り組んでいる。初めての人には地図があっても難しい。英語は得意ではないのだが、あまりにたびたび聞かれるので、コンパルへの道順は説明できるようになった。

【画像を見る】コンパルの店内や、名物「エビフライサンド」に「熱々から注ぐアイスコーヒー」はこんな感じ。

外国人観光客が殺到するコンパルとは?

外国人観光客が目指すコンパルとは“喫茶王国・愛知“を牽引してきたローカルチェーンの喫茶店のことだ。47都道府県に1000店舗以上を構える「コメダ珈琲店(以下、コメダ)」のような全国的な知名度はないものの、中京エリアではしばしばメディアに登場するコメダと双璧をなす存在。戦後間もない昭和22(1947)年の創業で、歴史は1968年創業のコメダよりも長い。

【画像を見る】名物「エビフライサンド」に「熱々から注ぐアイスコーヒー」はこんな感じ。【クラシカルでレトロな店内の様子も】

店舗は名古屋市内のみに7店舗(筆者が道を聞かれたメイチカ店は駅前再整備にともない閉店中)。東京など県外への出店オファーもあったそうだが、各店の食材を作るセントラルキッチンの配送範囲外には決して出店せず、クオリティを守ってきた。どの店舗も地下鉄の駅から近く、最も近い栄西店は東山線の改札からわずか30歩で着く。乗り換えや仕事の合間にさっと寄れることも、出張者におすすめのポイントだ。

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最も駅から近い栄西店は、店から改札が見える距離(筆者撮影)

大学時代のアルバイトを含めて、大須本店、栄や名古屋駅の店舗で約20年勤務してきた、大須本店の播磨良明店長によると、お店によってやや雰囲気の違いはあるそうだ。

「栄や名駅の店舗は、通勤途中に寄られる方、お買い物のひとやすみに寄られる方が多いですけど、特に大須本店はご近所の方や周辺の会社で働いている方が休憩や商談で使うなど、常連さんが多いので、よりお客さまとの距離が近く、あたたかみがある雰囲気です。土日はどの店舗も観光客の方が多いですね。最近は落ち着いてきましたが、一時は7〜8割外国の方という時もありました。どの店舗もお客さまとの距離が近いのがコンパルの魅力だと感じています」

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外国人観光客の多いお店には英・中・韓のメニューも(筆者撮影)

「ゆったりと過ごしたい」「仕事の合間に名古屋の喫茶文化を楽しみたい」「駐車場があるところがいい(駐車場があるのは御器所店のみ)」など、その日の気分やスケジュール、用途に合わせて、店舗を選んでもらえたらと思う。

昭和20年代の雰囲気をそのまま残す、クラシカルな空間

今回筆者が訪れたのは、名古屋の観光名所のひとつ「大須商店街」の一角にある大須本店。小さい頃から何度となくコンパルを訪れている筆者だが、本店に行くのは今回がはじめて。クリームソーダーやサンドイッチの食品サンプルが並べられた店前のショーケースに懐かしさを感じながら中に入ると、年季の入った艶やかな木の床や柱、エメラルドグリーンの壁のタイル、濃い赤のソファや飴色のテーブルなど、クラシカルな空間が広がっていた。

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家電店や古着屋、食べ歩きグルメを楽しめる名古屋の観光名所「大須商店街」の一角にある大須本店(筆者撮影)

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大須本店の店前には、昭和レトロなショーケースがある(筆者撮影)

大須本店は創業の翌年に移転して以降、77年間現在の場所で営業している。店内は40年ほど前に一度改装されたが、壁の一部や調度品などは開店当時のままで、昭和の面影が随所に残る。レトロ好きにはたまらない。商店街の喧騒を忘れて、つい長居してしまう居心地のよい空間だ。

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壁や床、柱の一部や調度品などは開店当時のままで、昭和の面影が随所に残る(筆者撮影)

創業者が研究を重ねてたどり着いた、“熱々のアイスコーヒー”

大須本店は地下鉄名城線・鶴舞線の上前津駅から徒歩で6分ほどの近さ。とはいえ、取材日は35度を超える猛暑日。まずは汗を落ち着かせるため、コンパルの看板メニューのひとつ「アイスコーヒー(500円)」を注文した。

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ホットコーヒーを自分で氷たっぷりのグラスに注ぐのがコンパルのアイスコーヒー(筆者撮影)

運ばれてきたのは、デミタスカップに入ったホットコーヒーと氷の入ったグラス。初めての方は「えっ? 注文間違っていませんか??」と戸惑うかもしれないが、これがコンパルのアイスコーヒー。

創業者である若田積蔵氏がホットコーヒーと同じ味わいを再現するために考案した、瞬時に冷却することで味や香りが損なわれない飲み方だ。ホットコーヒーよりも濃く抽出しているため、氷が溶けるとちょうどいい濃さになる。

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メニューにもアイスコーヒーの飲み方が書かれている(筆者撮影)

メニューにも書かれているが、飲み方はこうだ。お好みで砂糖をホットコーヒーに溶かしたら、自分でグラスに注ぐ。これが結構難しい。コンパルのアイスコーヒーをこぼさず注げるようになってはじめて真の名古屋人と認められるとか。筆者もいまだに3回に1回はこぼしてしまう。

うまく注ぐコツは、スピード。一気に、思い切って注ぐことだ。最後に、お好みでコーヒーフレッシュを入れれば出来上がり。

このコーヒーフレッシュもコンパルだけの特注品。添加物を一切加えず生乳だけで作られているので、ガツンとした味わいのコーヒーとよく合う。

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躊躇せず、一気に注ぐことがポイント(筆者撮影)

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生乳だけでつくられたコーヒーフレッシュは、写真からもその濃厚さが伝わる(筆者撮影)

コンパルのコーヒーは、ほどよい酸味があり、飲み込んでからもほどよい苦みと香りがしばらく続くほどの深みがある。名古屋の喫茶店は深煎りで濃いめのコーヒーが多いが、その中でもコンパルはかなりコクがある方だ。コンパルの味に慣れてしまうと、他のコーヒーでは物足りなくなってしまう。「濃厚なコーヒーにハマり、毎日のように通う常連さんも多い」(播磨店長)のもよくわかる。

コンパルのオリジナルブレンドコーヒーは昭和22年の創業当時からブレンドが変わらない。コーヒー研究を重ねてきた創業者の味を、ブレずに、70年以上守り続けている。

どこ産の豆を使っているのか気になるところだが、どのような豆をどのような配合でブレンドしているかは、社長しか知らないトップシークレット。20年間勤務する播磨店長ですら、豆の詳しい情報を知らないという。

さらに、独特の配合でブレンドし厳選された豆を、濃く抽出するために極細挽に挽き、各店舗で熟練のスタッフが抽出する。この抽出方法がまたユニークだ。約8杯分のコーヒーを丁寧にネルドリップし、落ち切ったところで手鍋に移す。その手鍋を温めて、再びネルフィルターに通す “かえし”と呼ばれる手法で淹れている。2度フィルターに通すことで、コンパルでしか味わえない濃厚な一杯に仕上がるのだ。

月2万食売れる、名古屋名物・エビフライサンド

とはいえ、ここは個性豊かな喫茶店がひしめく愛知。おいしいコーヒーを提供する喫茶店は他にもある。群雄割拠の“王国”で、コンパルを特別な存在たらしめているのはサンドイッチのクオリティの高さだ。

コンパルでは、昭和35(1960)年から本格的なサンドイッチメニューの提供をスタート。長年レストランで勤務していたシェフをスカウトしてメニュー開発をしただけあって、20種類以上あるサンドイッチはどれも本格派。その中で、不動のNO.1に君臨しているのが「エビフライサンド(1200円)」だ。

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サンドイッチメニューでは一番新しい、1988年に誕生したエビフライサンド(筆者撮影)

この看板メニューが誕生したのは、昭和63年(1988)年5月のこと。栄西店のリニューアルにあわせて新たな目玉メニューを作ろうと、「値段は少々高くても本当においしいものを」というコンセプトで開発された。「僕は昭和62年生まれなので、エビサンと同世代なんです」と播磨店長は笑う。

「えびふりゃー」が名古屋名物なのかという点については議論のわかれるところだが、少なくともコンパルのエビフライサンドは、新たな名古屋名物としてすぐに大人気に。地元で愛されるだけでなく、全国放送で紹介され、さらにSNSなどを通じてエビフライサンドのおいしさは日本全国、海外へと伝わっていった。

「テレビなどで紹介された時は、ひたすらエビフライを揚げていた記憶があります。新品の油が昼にはダメになってしまって、お客さまに『すみません』と待っていただいて。一度フライヤーを洗って、油を入れ替えて、また閉店までずっと作り続けるという忙しさです」と播磨店長と語る。

発売から37年経つ現在も、過去最高売上を更新し続けている。月により多少の増減はあるものの、2024年以降は全店舗あわせて1万8000食から2万3000食がコンスタントに売れ続けている。

筆者もコンパルに行くと、必ずエビフライサンドを食べる。いや、逆だ。エビフライサンドを食べたくなると、コンパルに行くというのが正しいかもしれない。

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かなりのボリュームだが、食べられなかった分を持ち帰りにしたいとお願いすれば、パラフィン紙で包んでくれる(筆者撮影)

今回ももちろんエビフライサンドをいただいた。エビフライをたっぷり3本使用したこのサンド、何度見てもかなりのインパクトだ。

作り置きをせず、注文が入ってから揚げるエビフライは衣が薄く、プリッと弾力があってエビの風味が際立っている。エビフライ3本とボリュームがありながら、油っこさがない。味付けは酸味のある濃いめのカツソースとまろやかなタルタルソースのダブルソース。この2つのソースのバランスが絶妙で、エビフライのおいしさを引き立てている。シャキシャキかつしっとりとしたキャベツの千切りと厚焼き玉子が脇を固め、こんがりと焼かれたトーストにサンドされている。

個人的には、この厚焼き卵がいい仕事をしていると思う。エビフライとキャベツだけでも十分にサンドとして成り立つのだが、ほんのりとした塩味がある温かい卵が両者を包み込むことで、やさしい味わいになり、老若男女に愛されるサンドイッチになったのではないかと推察している。

筆者も子どものころから折々に食べてきたが、全く飽きない。「あの味が食べたい」に応えてくれる。“思い出補正”を覆し、むしろ美味しくなっているとさえ感じる。コーヒー同様にオリジナルの味を忠実に守り続けていることが、過去最高を更新続けられる秘訣なのだろう。

唯一の弱点は、崩れやすいこと。薄めのトーストに対して、具材がその3倍以上あるので、どうしてもキャベツなどがこぼれてしまう。その点は、このエビフライサンドの完璧な黄金比を守るためだと、ご容赦いただきたい。

テイクアウト可能、老若男女に愛されるお土産

コンパルのサンドイッチは常時テイクアウトが可能だ。そのため、ライブイベントや放送局のケータリングとしてのニーズも高く、松任谷由実さんなど芸能人にもエビフライサンドのファンは多い。「有名人の方が後日SNSで紹介してくださって、あの時のご注文がそうだったんだと。そうすると、その方のファンの方が来てくださったりして、本当にありがたいです」(播磨店長)。

筆者も子どもの頃、お土産にコンパルのエビフライサンドを持ってきてくれる親戚がいて、「おばちゃん、今度はいつ来るの?」と心待ちにしていたものだ。

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テイクアウト用のパッケージ(筆者撮影)

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テイクアウトのエビサンド。おしぼりと紙ナプキンが入っている(筆者撮影)

冷めるとしっとりとして、これもまた美味しい。テイクアウトして新幹線で楽しむのもいいのだが、時間が許す方は、ぜひ店内で出来立ての温かい、トーストやエビフライがサクッとしたエビサンドを味わってほしい。

【画像を見る】名物「エビフライサンド」に「熱々から注ぐアイスコーヒー」はこんな感じ。
編集部注:本記事に登場するメニューの価格はすべて取材時点のものです。昨今の原材料高騰などの影響を受けて価格が改定されている可能性があります。また、本連載で紹介するローカル飲食チェーン店によっては、メニューが店舗ごとに異なる場合もあります。