近距離は無人機・遠方は新型ミサイルで、ウクライナがロシアに深刻なダメージを与え始めた

1.ロシア軍事工場への攻撃、遠距離も可能に, 2.シャヘド運ぶ貨物船をロシアの港で撃沈, 3.ロシアの無人機製造への影響, 4.ロシアの石油関連施設への攻撃回数増加, 5.ウクライナの戦略的な狙い

米軍のATACMSは最大で400キロ先の目標を攻撃できる(米陸軍のサイトより)

 ロシアとウクライナによるミサイル攻撃や無人機攻撃の戦果については、両国がともに秘匿するためにほとんど分からない。

 特に、ロシアは無人機を撃墜していなくても撃墜したと述べ、爆発炎上する石油関連施設でさえも被害を過少に発表している。

 軍事施設については、何の発表もない。

 ウクライナはほぼ連日、ロシアの軍事工場や石油関連施設を自爆型無人機を使って攻撃している。

 石油関連施設への攻撃については、石油が燃えることにより、その映像が公開され、また、衛星写真でも詳細に分かる。

 だが、軍事工場(兵器組立工場、火薬製造工場、兵器の部品製造工場、兵器輸送ターミナル、貨物列車や貨物輸送船)については、衛星写真を含め、工場破壊の写真などでは詳細には分からない。

 なぜなら、破壊された建物のコンクリートがその上部を覆い、外部からは内部の何が壊れたのかは見えないからだ。

 そこに何があったのかという事前の情報から推測するしかない。

 だが、その結果は必ず、ミサイルや自爆型無人機などの精密誘導兵器の発射数に影響する。

 今回は、ウクライナの無人機攻撃が、ロシアのミサイルや無人機の製造、石油関連施設にどれほどの影響が出ているのかについて考察する。

 また今後、ロシアはどのような対応を取れるのか、ウクライナは短期・長期戦を睨んでどのような戦いをするのかについても考察する。

1.ロシア軍事工場への攻撃、遠距離も可能に

 ウクライナは、独自開発の各種自爆型無人機でロシア国内の軍事作戦施設や軍事工場を攻撃している。

 国境から300キロ以内には、主に地上作戦を支援する軍事作戦施設がある。

 例えば、地上軍を直接支援する攻撃機発着のための飛行場、空からの攻撃から地上作戦部隊を守る防空システム、地上軍の軍団・師団レベルの指揮所、弾薬や食料を補給する段列、上級司令部と隷下部隊を繋ぐ指揮通信所、電子戦部隊などが配置されている。

 ウクライナは、供与されたHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System=高機動ロケット砲システム)、ATACMS(Army Tactical Missile System=陸軍戦術ミサイルシステム)、英仏共同開発の空中発射巡航ミサイル「ストームシャドウ」を使ってこれらを攻撃し、成功している。

 しかし、その数量は少なく、米国の許可が得られない場合もあり、十分な戦果を挙げられていない。

 ウクライナは、国境から600キロ以内のモスクワの爆薬工場やハイテク工場、リャザンの軍用機燃料工場、タンボフ火薬工場、サラトフ火薬工場、ボルゴグラードの軍事物資輸送の中継地を、長距離飛行可能な大型の自爆型無人機で攻撃した。

 1000~1200キロ以内にある、カザンのシャヘド無人機製造工場、サマラの爆薬工場、アストラハンの港停泊中の貨物船を長距離飛行可能な大型の自爆型無人機で攻撃した。

図 ロシア国内に対する自爆型無人機攻撃(イメージ)

1.ロシア軍事工場への攻撃、遠距離も可能に, 2.シャヘド運ぶ貨物船をロシアの港で撃沈, 3.ロシアの無人機製造への影響, 4.ロシアの石油関連施設への攻撃回数増加, 5.ウクライナの戦略的な狙い

出典:各種情報に基づき筆者が作成したもの

 ウクライナの自爆型無人機は、爆薬の搭載量が20~300キロである。飛行距離が長くなれば、爆薬の搭載量は少なくなる。

 爆薬の製造工場では、爆薬搭載量が少なくても爆薬が誘爆するので効果はあるが、組立工場や部品工場の場合には、建物の構造にもよるが、効果は少ないとみるべきだろう。

2.シャヘド運ぶ貨物船をロシアの港で撃沈

 イランの核関連施設、特にウラン濃縮施設は2025年6月、イスラエルや米国軍から爆撃を受け、大ダメージを受けた。

 イランは、イスラエルや米国からの脅威に備えるために、ロシアへの兵器供与は控えるのではないかと思われた。

 だが、イランは8月には、ロシアへの兵器供与を再開したのである。

 ウクライナ軍参謀本部によると、ロシアの貨物船「Port Olya-4」は2025年8月14日、イランの港(おそらくテヘランの北西の港町バンダレ・アンザリー)からロシアのカスピ海に注ぐボルガ川河口付近の都市アストラハンの港に移動し桟橋に停泊していた。

 英国のリスク調査会社であるアンブリー・アナリティクス社は、この船が桟橋の横で沈没したと報告している。

 ドローンや弾道ミサイルの部品や弾薬を輸送し、荷下ろしをしているところに、ウクライナが無人機攻撃を行った。

 その結果、桟橋の横で沈没したのだ。

「この港はロシアによって軍事物資の供給のための重要な物流拠点として使用されている」とウクライナ参謀本部は報告した。

 ウクライナは、イランのこの貨物船がイランの港で兵器、特に無人機関連部品を積載・出航し移動、ロシアの港へ到着・荷下ろした事実について、リアルタイムで知っていたことになる。

 そして、その目標に狙いを定めて自爆型無人機で攻撃し、正確に命中させたのである。

 貨物船で大量の兵器が輸送され、港で撃沈されたことは、それらの多くが水没したものと考えられる。

 このため、イランは今後、貨物船による兵器輸送をすれば、再び攻撃されると考え、部品供給を停止、あるいは延期するだろう。

3.ロシアの無人機製造への影響

 ウクライナによる無人機攻撃によるロシアの軍事工場に被害が出ている影響はどうなのか。

 軍事工場破壊の影響は、ロシアのミサイルや自爆型無人機の攻撃に出ると予想される。

 ロシアの無人機攻撃回数の推移は、グラフのとおりである。

グラフ ロシアによる自爆型無人機の攻撃機数の推移(月単位)

1.ロシア軍事工場への攻撃、遠距離も可能に, 2.シャヘド運ぶ貨物船をロシアの港で撃沈, 3.ロシアの無人機製造への影響, 4.ロシアの石油関連施設への攻撃回数増加, 5.ウクライナの戦略的な狙い

出典:ウクライナ空軍司令部の日々発表資料をグラフにしたもの

 ロシアの無人機攻撃が減少したのは、2025年4月と8月である。

 これは、ウクライナがロシアの無人機関連施設へ攻撃したことにより、生産数が減少し、攻撃回数も減少したものと考えられる。

 特に、前月では6300回以上であったものが、この8月では4100回へ約2200回の減少となった。

 これは、6・7月に、ウクライナ軍によるロシアの無人機の組立工場や関連工場への無人機攻撃が頻繁に行われた結果であった。

 また、ミサイル攻撃が多くて300~400回であったものが、2025年1月以降100~150回(6月だけは約300回)になっている。

 ロシアは北朝鮮から「KN-23」(イスカンデルミサイル酷似)の供給を受けていても、ミサイル攻撃は多い時期に比して3分の1から4分の1に減少しているのである。

 ロシアは、国内の石油関連施設や軍事工場施設が頻繁に攻撃されているために、本来であれば、無人機攻撃やミサイル攻撃を頻繁に大量に実施したいはずである。

 しかし、できないのである。

4.ロシアの石油関連施設への攻撃回数増加

 ウクライナは、ロシア国内の石油関連施設へ無人機攻撃を継続して実施している。

 特に、今年の8月にはその回数が多い。

 これまでの攻撃の結果、ロシアの石油産出(精製)量全体の4分の1を超える損失になったという情報もある。

 石油関連施設は、石油という発火しやすいものなので、無人機の爆薬の搭載量が少なくても、施設に火を付けるだけで大きな効果が期待できる。

 同じ施設への攻撃回数を重ねると、効果はさらに大きくなる。

 しかも、石油関連施設は基本的に地上に露出しているので、破壊も用意である。

 また、石油関連施設では、石油を掘削する場合の輸送ターミナルは、その位置を変更することができない。

 爆撃機や軍事工場は、ウクライナ無人機が攻撃しづらい遠方に配置することが可能であるが、石油関連施設を動かすことは100%不可能である。

 ウクライナに攻撃目標として設定されれば、必ず攻撃される。これを防ぐには防空兵器を重層に配備するほか方法はない。

 ロシアの国土は広大である。すべての地域に防空兵器を配備することはできない。

 精度が高い防空兵器は、プーチンの居場所、モスクワ、特に重要な施設にだけに配備される。

 石油関連施設まで防空兵器を配備することはできない。また、製造にも数年単位の時間がかかる。

 つまり、ロシアの石油関連施設をウクライナの無人機や新型のミサイルから守る手段はないのである。

5.ウクライナの戦略的な狙い

 ウクライナは、できるだけ早くロシアの軍事工場を攻撃して破壊し、無人機とミサイルの製造をストップさせたいと考えている。

 この8月には、7月よりも約2000機の無人機攻撃を減少させることができた。それでも、ロシアは約4000機の攻撃を行っている。また、ミサイルでは、月間約150基の攻撃を続けている。

 ウクライナがこれらに関する軍事工場を早期に確実に破壊するには、弾頭重量が大きく、長射程のミサイルが必要である。

 ウクライナが開発した「ロング・ネプチューン」ミサイルは、射程1000キロで、弾頭重量が350キロである。

 自爆型無人機よりは、はるかに大きな効果を期待できる。

 この8月には、新型の巡航ミサイル「フラミンゴ」の発射実験が終了し、9月に入り、クリミア半島に実戦で使用したようだ。

 このミサイルは、射程が約3000キロで、弾頭重量が1トンを超える。

 この威力であれば、1つの工場に2~3発撃ち込めば、完全に破壊できるだろう。

 最大速度時速960キロで飛翔することから、ロシアの最新防空ミサイル「S-400」でさえも撃ち落とせない。

 その根拠は、ロシアの防空ミサイルは、ウクライナが発射する低速のミサイルも撃ち落とせていないからだ。

 ミサイルや無人機の攻撃を早々に止めるには、出来立ての新型のミサイル「フラミンゴ」で、軍事工場を破壊し続けることだ。

 国境から約1000キロまでのロシアの石油関連施設への攻撃は、大型無人機の攻撃で十分である。

 それよりも遠隔地にある施設の攻撃には、新型のミサイルが大量に必要になる。これらを併用すればより効果的だ。

 ウクライナは、ロシアのミサイルや無人機攻撃を早期に止めるために、軍事工場を早々に破壊すること。

 併せて、石油関連施設を破壊し続ければ、ロシアは長期戦を戦えなくなるだろう。

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