千葉の津波避難タワー、完成10年でもう使用不能に…住民「こんなに早く駄目になるとは」

 太平洋沿岸にある千葉県 匝(そう)瑳(さ) 市の今泉浜地区に整備された津波避難タワーの腐食が進み、2015年の完成から10年しかたっていないのに使用不能になっている。予算の関係で建て替えの時期も不透明で、近隣住民やサーファーからは「こんなに早く駄目になってしまうなんて」「いざという時に困る」と困惑の声が上がる。(大治有人)

「ないと不安」

 「危険ですので立ち入らないでください」――。今泉海水浴場から直線で約400メートル、徒歩7分ほどの場所にある津波避難タワーには赤文字で注意を促す看板が置かれ、周辺はロープで封鎖されていた。柱や手すりはさびつき、タワーの下には鉄くずが散らばっていた。

さびが進み、使用不能となった「今泉浜津波避難タワー」(8月19日、千葉県匝瑳市今泉で)

 八街市からサーフィンをしに訪れた男性高校教諭(60)は津波避難タワーが使えないことを知ると驚いた表情を浮かべ、「サーフィンをしていると津波警報に気づかないこともある。近くに避難場所がないと不安だ」と話した。

 近隣住民も困惑している。自営業の男性(76)は「こんなに早く駄目になってしまって、あまりにもひどい。びっくりしている」と語った。風でさびが飛び、自宅の車にもさびの被害が及んでいるといい、「なぜすぐにさびるようなタワーを建てたのか」と眉をひそめた。

さびの進行速く

津波避難タワーの地図

 県が元禄地震(1703年)を基に行ったシミュレーションによると、同地区付近には36分で津波が到達し、高さは最大7・8メートルと想定されている。同地区は東日本大震災の津波で深刻な被害を受けたことから、匝瑳市が国の復興交付金を活用して7830万円かけ、津波避難タワーを2015年に完成させた。

 足場は2か所(高さ6・2メートルと8・7メートル)あり、150人が避難できる。夜間照明用の太陽光パネルや蓄電池も配備された。塩害に備えて腐食に強いとされる塗装も施した。市は建材の法定耐用年数に基づき、タワーの耐用年数を31年と見積もっていた。

 だが、さびは完成当初から進行が速かった。市総務課によると、年1回点検を行い、さび止めの塗装を施すなどしてきたが、23年の調査で手すりの安全性に問題があると判断され、24年に使用を中止した。

「責任は誰が」

 市は16年、施工した市内の建設会社や、設計業者、塗料業者に現地調査を指示した。その結果、塗装時の下地の調整不足や塗料膜の厚さの偏りが原因で劣化が生じたと思われるとの報告を受けた。その後3社が協力して修繕を行ったが、腐食はさらに進んだ。

 だが、市は読売新聞の取材に対し、「明確な原因は特定できていない」と答え、業者の責任についても「所在を特定することは困難」と回答した。施工業者にも見解を尋ねたが、3日の期限までに回答はなかった。

 こうした状況に、近隣住民からは「誰が責任を取るんだ」と憤りの声が上がる。

 一方、今回の施工業者や別の業者が16年と18年に、別の塗装方法で整備したほかの2か所の津波避難タワーの状態に問題はないという。

近隣の施設で代替

近くの海水浴場に立てられた案内板には使用中止となった津波避難タワー(中央)が避難場所として書かれていた(8月19日)

 市は4月、タワーから約400メートル内陸にある県東部家畜保健衛生所と協定を結び、同衛生所の建物を避難場所として使用できるようにした。7月にロシア・カムチャツカ半島付近を震源とする地震で津波警報が発表された際には地元住民が避難した。市総務課の担当者は「保健衛生所の建物はタワーより高い。当面は避難場所として使用し、近隣住民の安全を守る」と説明する。

 市は使用不能となったタワーを取り壊し、建て直す方針で既に設計も終えている。だが、このところの物価高などのあおりで、建築費は当初建設時の約2倍の1億4000万円に達する見込みだ。同課担当者は「市の財政状況が厳しく、予算をつけるのは困難。施工時期は見通せない」としている。