「朝鮮人虐殺はなかった」歴史修正を許さず“真実”を後世に伝える映画『福田村事件』を今日こそ観る
『福田村事件』Blu-ray&DVD 2024年4月3日(水)発売発売元:株式会社ピカンテサーカス発売協力:株式会社ディメンション販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング©「福田村事件」プロジェクト2023
「朝鮮人が井戸に毒を入れた」
今から102年前の9月1日に東京を襲った関東大震災。その混乱の余波は、言語と出自を誤認された人々の命を奪う惨劇へとつながってしまった。
――1923年9月6日、千葉県福田村(現在の野田市)で、香川県から行商に来ていた薬売りの一団が「朝鮮人ではないか」と疑われ、村民らによって暴行・殺害される事件が発生。実際には犠牲者15名のうち朝鮮人は一人もおらず、全員が日本人だった。
震災直後に広がった「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「暴動を起こしている」といった流言飛語が、集団心理と結びつき、無実の人々を襲う暴力へと変貌したのである。
この事件を題材にした映画『福田村事件』(監督:森達也)は2023年9月1日、事件からちょうど100年の節目に公開された。 ドキュメンタリー作品を数多く手がけてきた森監督にとっては初の劇映画であり、脚本には佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦らが参加している。
なお、震災時のデマによって殺害された朝鮮人や中国人の数は、震災全体の死者約10万人の1~数%(約1000~数千人)とされている。当然ながら、その一人ひとりに其々の人生があったわけで……
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映画『福田村事件』の衝撃
映画は群像劇の形をとり、複数の視点から事件の背景と人間模様を描いている。主人公の一人である澤田智一(井浦新)は、日本統治下の京城(現ソウル)で教師をしていたが、ある虐殺事件を目撃した過去を抱えて帰郷。妻の静子(田中麗奈)にもその事実を打ち明けられず、福田村で新たな生活を始めた。一方、香川から関東へ向かう行商団が震災後の混乱の中で福田村に立ち寄り、言葉の訛りを理由に”朝鮮人”と誤認され……。
忘却されかけた歴史の暗部に光を当てると同時に、“普通の人々”が加害者になり得るのだという普遍的な問いを突きつける『福田村事件』。
本作は“なぜ普通の人々が殺戮に加担したのか”という問いを軸に、当時の社会構造やメディアの役割、軍人会の影響力などを丹念に描く。とくに、在郷軍人会や新聞社の描写を通じて、国家と個人、情報と暴力の関係性が浮き彫りになる。現代にも通じる集団心理の危険性は、まるでスリラーかホラー映画のような恐ろしさだ。
現代社会にこそ届けるべき震災、そして人災の苦い記憶
――2023年以降、東京都知事による朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文送付が8年連続で見送られている。都の担当者は「個別の式典への追悼文送付を差し控える方針」などと説明しているが、これは震災とともに起きた虐殺の記憶(カッコ付きでの“諸説”)をどのように扱うかという点で、あまりにも分かりやすい比較対象と言えるだろう。
根拠のないデマや差別の拡散がネットから路上へと滲み出している現代社会に痛烈に響く、102年前の悪夢と教訓。9月1日という日付が持つ意味を、震災の記憶とともに人災の記憶としても刻み直す契機にしたい。
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