プーチン大統領の豪華クルーザー、ウクライナ侵攻開始前にドイツから引き上げられていた
ロシア大統領の豪華クルーザー

ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始する2週間前、プーチン露大統領は自身の保有するクルーザーを、まだ修理中にもかかわらずドイツの港から移動させるよう指示していた。紛争に突入するまえに大切な船舶をドイツから避難させようとしたらしい。なお、このクルーザーの価格は一億ドル相当とみられている。
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ロシア調査報道記者のスクープ

クルーザーの移動に関するやりとりは、ロシアの調査報道記者マリーア・ペフチフによって暴露された(マリア・ペヴチクという表記もあるが、ロシア語の発音としてはペフチフとしたほうが近いだろう)。ウクライナに侵攻を開始する直前、プーチン大統領は自身のクルーザーをドイツの造船会社ブローム・ウント・フォスの造船所から移動するよう指示していたのである。
アレクセイ・ナワリヌイの「反汚職財団」

マリーア・ペフチフは、故アレクセイ・ナワリヌイ氏が創設した「反汚職財団(Anti-Corruption Foundation)」(あるいは反汚職基金)の領袖である。アレクセイ・ナワリヌイはロシア政権に対する批判活動で知られるロシアの弁護士で、収監先であるシベリアの刑務所で今年2月に死去した。
グレースフル号

プーチン大統領の豪華クルーザー「グレースフル」号はハンブルク近郊の造船所を出発し、ロシア連邦の半飛び地であるカリーニングラードの港にむけて曳航されたとされる。マリーア・ペフチフが暴露したのは、いくつかの電子メールの文面と、船の修理の請求書などだ。
写真:Wiki Commons
暴露された電子メール

くだんの電子メールはとつとつとした調子の英語で次のように綴られている:「船主は新装備の追加をよく思っていない。彼は建造プロセスの遅れに不満である」
造船所への突然の要望

「船主の意向は、グレースフルがロシア連邦に2月1日に到着することである(……)。二交代制の、土日も含めた切れ目なしの作業をされたし」と、造船所宛てのメールは続いている。
写真:Wiki Commons
2022年1月19日のメール

この電子メールは2022年1月19日にブローム・ウント・フォス社に送付されたもので、マリーア・ペフチフの記事にはその電子メールのスクリーンショットが掲載されている。
写真:Wiki Commons
差出人はロシア大手海運会社の従業員

その画像を見るに、メールはどうやらロシアの大手海運会社「PAO Sovcomflot」(SFC Group)の従業員から送られたものらしい。
写真:Wiki Commons
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太字の強調

メールでは次の文章、「グレースフルが2月1日にロシア連邦に移動されるよう船主は求めている」という箇所が太字で強調されており、そのための追加経費をわりだして連絡するよう求めてもいる。
写真:Wiki Commons
「あらゆる助力を惜しまない」

「グレースフルが2月1日に出帆することを妨げる全ての仕事を加速させてほしい。早期の出発のため、船主たちによって支払われるべき金額を計算してほしい。乗組員と私はグレースフル曳航の準備のため、あらゆる助力を惜しまない」と、電子メールはつづいている。
期限を過ぎて曳航されたクルーザー

あらゆる助力にもかかわらず、どうやら2月1日の締め切りには間に合わなかったようだ。電子版『ガーディアン』はグレースフル号の写真を掲載し、船は2022年2月7日にハンブルクを後にしてカリーニングラードへ曳航されたと報じている。その17日後にあたる2022年2月24日にウクライナ侵攻が始まったのだった。
大がかりな改装工事

グレースフル号は全長82メートル、建造費は1億ドルのスーパーヨット。ブローム・ウント・フォスの造船所で行われていた改装工事は非常に大がかりなもので、マリーア・ペフチフの記事によると、その総額は3200万ドルにのぼっていた。
ロシア国内のきびしい状況

一方、戦争が始まった後のロシアでは、兵士の下着や靴下を買うためのお金が集められ、兵士が前線で使う「トレンチ・キャンドル(塹壕のロウソク)」を市民が手作業で作っているという。
宮殿のようなクルーザー

『ビジネスインサイダー』はこのクルーザーの内装に注目している。豪華なホテル、あるいは宮殿を思わせるゴージャスな内装で、ダンスフロアにもなる室内スイミングプール、大理石のトイレ、高級じゅうたんなどがそのデザインの一部分である。甲板にはもちろんヘリポートがある。
米国による経済制裁

米国の財務省外国資産管理室(OFAC)は、グレースフル号をプーチン大統領の所有物とみなし、資産凍結リストに登録している。
大統領の他のスーパーヨット

プーチン大統領はグレースフル号のほかにも、オリンピア号、そして全長140メートルのシェヘラザード号を所有している。オリンピア号のほうも同じくOFACによって凍結資産として登録されており、シェヘラザード号はイタリア政府によって差し押さえられている。プーチン大統領にとってグレースフル号はきわめて大事な船であったようだ。
写真:Wiki Commons
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