60歳以上のおよそ92.6%が「経済的に不安」【高齢者世帯】ひと月の生活費・70歳代の平均貯蓄額・平均年金月額からリアルな老後を解説
標準夫婦の「厚生年金」のモデル年金額はいくらぐらい?
60歳以上のおよそ92.6%が「経済的に不安」【高齢者世帯】ひと月の生活費・70歳代の平均貯蓄額・平均年金月額からリアルな老後を解説
近年、日本人の健康寿命は着実に伸び続ける中、リタイア後の生活設計はあらゆる世帯で必要不可欠となっています。
内閣府による最新の「高齢者の経済生活に関する調査」結果によると、60歳以上のおよそ92.6%が「経済的な面で不安に思う」と答えており、その理由として物価上昇や、収入や貯蓄の少なさを挙げています。
高齢者の経済生活に関する調査
経済的な不安を解消するためには、まずは現在の高齢世帯の現状を知ることが大切です。
そこで本記事では、「70歳代無職夫婦世帯」の標準的な生活の実態を考えていくために、生活費や貯蓄額、年金額を解説していきます。ぜひ老後の生活設計のご参考にしてください。
※編集部注:外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はLIMO内でご確認ください。
高齢世帯の「老後生活費」の実態
65歳以上二人以上無職世帯の消費支出の平均額
総務省統計局の家計調査報告によると、65歳以上二人以上無職世帯の消費支出の平均額は、年齢別に以下の通りとなっています。
・65歳〜69歳:31万1281円
・70歳〜74歳:26万9015円
・75歳以上:24万2840円
さらに、税金や社会保険料など、消費財以外に支払う費用である非消費支出を加えると、以下の通りになります。
・65歳〜69歳:35万2686円
・70歳〜74歳:30万3839円
・75歳以上:27万3398円
この統計から、65歳以降のリタイア後、徐々に支出額は減っていき、70歳代では前半と後半で差はあるものの、おおよそ30万円前後の支出が必要であることがわかります。
今回は、70歳代の平均的な支出額、70歳前半と75歳以降の間をとって「28万5000円」として見ていきます。
現在の平均的な年金収入額
次に、一般的な夫婦の年金額を見るために、現在の年金受給者の平均的な年金受給額の水準を、2つの視点で考えていきます。
厚生労働省統計による平均年金月額
厚生年金受給者の平均年金月額
2024年度における、厚生年金受給者の平均年金月額は、男子が16万6606円、女子が10万7200円となっています。つまり、夫婦二人世帯を想定すると、男女一名ずつの合計で「27万3806円」が標準的な月の収入額となります。
日本年金機構の「標準的夫婦」の老齢年金額
次に、日本年金機構が示している、2025年度の標準的な老齢厚生年金額を見ていきます。
2025年度の標準的な老齢厚生年金額
ここでは、2025年における夫婦二人分の老齢基礎年金を含む標準的な厚生年金額は、23万2784円となっています。
この数字は、平均的な収入(45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金)と、2人分の老齢基礎年金(満額)の給付水準となっています。
つまり、配偶者に会社勤めの期間がなかった場合や、個人事業をしていた場合などは、こちらの金額の方が実際の支給金額と近い可能性があります。
年金額は夫婦の働き方や現役世代の収入額によって大きくことなるため、この数字はどちらも、あくまでも参考値となります。
70歳代の平均貯蓄額
そして次に、70歳代二人以上世帯における「貯蓄額」の水準を見ていきます。
【70歳代】二人以上世帯:金融資産保有額階層ごとの世帯割合
【70歳代】二人以上世帯:金融資産保有額階層ごとの世帯割合
・平均:1923万円
・中央値:800万円
70歳代二人以上世帯の貯蓄額を見ると、平均値の1923万円と中央値の800万円には、大きな差があることがわかります。平均値とは、全てのデータを足し合わせて、その個数で割った値であり、中央値とは、データを小さい順に並べたときの、ちょうど真ん中にくる値という数字です。つまり、この統計結果から次のようなことがわかります。
・3000万円を大きく上回る貯蓄を保有している世帯が一定数存在していること
・高額な貯蓄保有世帯が、平均値を押し上げていること
・全世帯の過半数において、貯蓄額が800万円以下であるということ
70歳代以上夫婦二人世帯の生活実態
ここからは、これまで説明してきた数字をもとに、具体的な収支などを確認してみましょう。
収入と支出のバランス
70歳以上の夫婦二人世帯の場合、収入となる年金は平均値で見ると月額約27万3000円です。一方、日々の生活にかかる非消費支出を含めた支出金額は平均で月額約28万5000円となっています。
これらのことから、70歳代の夫婦二人世帯における「平均的な年金収入」と「平均的な支出」を比較すると、月々の家計は1万2000円ほど赤字になることがわかります。
貯蓄額による補填
年金収入の他に収入がない場合、月々に発生する赤字額は貯蓄で補填する必要があります。
仮に、先ほど確認した70歳代二人以上世帯の貯蓄額の中央値である「800万円」を保有しているとします。
老後に月ごとに1万2000円の赤字が発生したとしても、55年程は貯蓄額で赤字を賄って生活ができる計算となります。
老後のために考えておくべきこと
このように、老後生活に必要な貯蓄額を考えるためには以下のようなステップが必要になります。
・老後の収入(年金収入)を知ること
まだ受給していない年金収入を確認する手段としては、ねんきん定期便をチェックすることや、シミュレーションサイトでの計算などが挙げられます。
・月の生活費を知ること
まずはひと月あたりの家計簿をつけて、毎月どの程度の出費が必要なのかを確認しましょう。現状を知ることで、不要な支出を削るきっかけにもなります。
・現在の貯蓄額を把握すること
現役時代より収入が大きく減ってしまう老後の生活においては、それまでに蓄えた貯蓄額が生活の支えとなります。自身の貯蓄額と、老後に必要な貯蓄額を把握して、老後のための生活プランを立てていきましょう。
水準額や中央値はあくまでも参考値であるため、実際の自分自身の数値を把握して、老後に必要な資金を確認することで、安心して老後生活を迎えることができるはずです。
安心して老後を迎えるために
今回の記事では、統計データをもとに「70歳代無職夫婦世帯」の生活実態について、支出・収入・貯蓄の3つの観点から解説しました。
平均的なデータを見ると、月々の支出が年金収入を上回り、家計が赤字になる可能性が大きいことがわかります。また、この赤字を補う貯蓄額も、平均値と中央値には大きな差があり、多くの世帯にとっては必ずしも安心できる金額ではない実態も見えてきました。
大切なのは、こうした平均データはあくまで参考と捉え、ご自身の状況を正確に把握することです。この記事を参考に、ご自身の数字をもとに具体的な生活プランを立てることが、経済的な不安を解消し、安心して老後を迎えるための第一歩となるでしょう。
参考資料
・内閣府「令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)の結果(全体版)」
・総務省統計局「家計調査報告書〔家計収支編〕2024年(令和6年)平均結果の概要」
・厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
・日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
・J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2024年」