丸亀製麺「1強」はなまると"差がついた"納得理由

すっかり差がついた感のある丸亀製麺とはなまるうどん。何が分けたのか?(筆者撮影)
丸亀製麺vsはなまるうどん。「セルフうどん」業態の2強は、「店舗数2倍、売り上げ4倍、利益10倍」という圧倒的な差で、丸亀製麺が独走態勢に入りつつある。まずは、その根底にある「店づくり・コンセプトの違い」と「讃岐うどんブーム」から受けた影響について検証してみよう。
【衝撃】戦略の違いがわかる…「丸亀製麺」「はなまるうどん」それぞれの最新ポスター
そのうえで、なぜそこまで引き離されたのか? その要因は「来店の『体験価値』化」や、「低単価の克服」「効率化」といった経営努力、そして「豪運」だ。
「セルフうどん」2強 実は「店づくりが全然違う?」

丸亀製麺の店内。1号店・加古川店にて(筆者撮影)
まず「店づくり・コンセプトの違い」を見てみよう。
「はなまるうどん」は、誰でも入れる清潔でポップな店づくりで、女性や家族連れでも入れる空間を作り上げた。前編記事でも述べた通り、吉野家・マクドナルドなどを意識した「うどんのファストフード」をコンセプトにしている。
一方で、丸亀製麺は「『製麺所のうどんを食べに行く』という体験価値の提供」だ。
讃岐うどんの本場・香川県には、製麺所のついでに付けたされたような一角でうどんを食べる「製麺所併設タイプのうどん店」が数多くあり、こういった場所でゆでたてのうどんを貰って食べる、といった疑似体験ができるような店づくり・工夫がなされているのだ。
まさかの「一大さぬきうどん」ブーム到来 丸亀・はなまる設立に、どう影響した?

出版元「ホットカプセル」は、地方のタウン誌としてはかなり活発に出版を行っていた(筆者撮影)
香川県における「讃岐うどんブーム」のきっかけとなったのは、地域情報誌「タウン情報かがわ」で1988年12月に連載を開始した連載「ゲリラうどん通ごっこ」だ。
この当時、香川県は「瀬戸大橋」で本州と結ばれたばかり。橋を渡って来県する観光客向けに、高値で讃岐うどんを提供する店が次々と開店したものの、郊外や路地裏には、家族で細々と経営するうどん店が、無数に存在した。
特に、地元の人々がサッとうどんを食べられるように、卸売メインの製麺所が軒先の空きスペースを改造して構えた「製麺所併設店」は、多量の来客をまったく想定していない、一見すると“怪しい”としか言いようがない店も多かった。
実際にあった店だと、普通車だとバンパーをこするような生活道の奥に店があったり、製麺機ヨコの数十センチのスペースを横歩きで移動したり、看板もない納屋から湯気が立っていて、扉を開けたら中で何十人もの地元の方がうどんを食べていたり……ただ概して、各店とも目から鱗が落ちるレベルで美味しいのは間違いなかった。

製麺所は、こういった味のあるつくりの店も多い(筆者撮影)
連載では、こういった店を「針の穴場」「ディープ」と位置付けて紹介。千差万別なうどん店・製麺所の存在は、県出身者揃いのタウン誌編集者はおろか、地元民でも近所の店以外、隣町の店すら知らなかったのだ。
衝撃を受けた香川県民はいっせいに、行くこと自体が冒険に近い「うどん巡礼」(うどん店巡り)を開始。niftyフォーラムなどのインターネットや口コミで広まり、ただの製麺所がことごとく全国区の観光地と化してしまったのだ。
それを嗅ぎつけた全国区のテレビ・マスコミは、こぞって「讃岐うどん」を取り上げ始めた。「讃岐うどん巡礼」は、「県外からの観光客の半分がうどん目的(令和3年度・香川県観光客動態調査より)という、類を見ない一大観光コンテンツに成長を遂げたのだ。
なお、筆者がブームのさなかに見たところでは、「セルフうどん」発祥店の「竹清」には来客の殺到で見たこともない行列ができ、親戚宅の近くにあった高松市郊外の製麺所は国道から路地裏までぎっしり渋滞……といった状況であった。

丸亀製麺1号店(兵庫県・加古川店)(筆者撮影)
この盛り上がりに衝撃を受けたのが、のちに丸亀製麺を創業する粟田貴也氏(現:トリドールホールディングス社長)だ。
氏の著書『「感動体験」で外食を変える』(宣伝会議)によると、父親の地元である香川県を訪れた際に、たまたま訪れた製麺所の小屋に立ち込める湯気や小麦粉の香り、臨場感に圧倒されたという。
こうして丸亀製麺は客席から見えるところに製麺機や巨大なゆで釜などを置くという、香川県の製麺所を模した「製麺所」となった。飲食店であるだけでなく、観光資源になっていた製麺所の風情や「店内製造・目の前でできたて」状態を再現することで、来店を「観光地(製麺所)に行くという体験価値」と感じてもらえるような店づくりを行ったのだ。

はなまるうどん1号店(高松市・木太店)伝説の店長や、前田社長がここで働いていた(筆者撮影)
ただ、香川県内の製麺所併設店は、風情はあるものの古色蒼然としている場合も多く、女性や家族連れ・グループ来店だと若干入りづらい。こういった人々のニーズを見越して、吉野家・マクドナルドなどのファストフードを意識した清潔な店内と、製麺所並みの「かけ一杯100円」という安値を兼ね備えた「はなまるうどん」が誕生したのだ。
こうして「はなまる」は、「体験価値」より「どの店を訪れても同様に快適」といったファストフード的な部分を重視、ある程度均一・無難な店内デザインにくわえて、均一な味を提供するために麺はセントラルキッチンから提供、店では最後の仕上げと提供のみにとどめている。
コンセプトの違いをまとめると、はなまるうどんが「讃岐うどんを日常使いできる店」、丸亀製麺が「讃岐うどんの日常を『非日常』として体験できる店」といったところか。おなじ「セルフうどん」でも、空間の作り方や「讃岐うどん」の捉え方が、2者でまったく違うのが、おわかりいただけただろうか。
イメージ戦略も分かれる丸亀・はなまる

丸亀製麺の最新のポスター。やはり湯気と麺が入っている(画像提供:丸亀製麺)

はなまるうどん 本社移転告知(画像提供:はなまるうどん)
「丸亀製麺」「はなまるうどん」両ブランドが誕生して四半世紀が経ち、ブランドのイメージを決定づけるCM・SNSでも、店のコンセプトによる両者の戦略・個性の違いはあらわになっている。
丸亀製麺は「ここのうどんは、生きている。」をキャッチフレーズに、SNSで細かく「打ちたて・ゆでたて・切りたて」「店内製麺」をしきりにアピール。テレビCMでも釜から上がる湯気や、ゆでたて麺の輝きをしっかり入れている。顧客の来店・食事を「体験価値」と位置付けてバリューを上げる戦略であり、「“モノ”(うどん)から“コト”(製麺所体験)」という、今どきの消費行動の変化をつかみ取ったものと言えるだろう。
一方で「はなまるうどん」は、一大讃岐うどんブームで広まった「セルフうどん」だけでなく、讃岐うどんそのものの文化を広めるべく「おいでまい!さぬき」(おいでまい=讃岐弁で「いらっしゃい」)プロジェクトを開始。「すべては、讃岐うどんとともに。」というキャッチフレーズのもと、本社を高松市に再移転したうえで、香川県内の店舗の改装を進めている。こちらは、丸亀製麺と差別化するための「讃岐うどんの本場・香川県発祥」であることを、全面に打ち出しているようだ。
2者の違いは「体験価値」「文化の継承」。この戦略は、会社の将来・経営環境にどう影響を及ぼしたのか?
丸亀製麺の「店内製造」が生み出す「高単価・高利益」
おなじ「セルフうどん」方式の店なのに、丸亀製麺は対:はなまるうどんで「店舗数が倍、売り上げ4倍、利益10倍」。1店当たりで見ても、「売り上げ2倍、利益も差がつく」状況ということになる。
しっかりと稼げる丸亀製麺の“商売力”は、「16.3%」(2025年3月期決算)という、極めて高い利益率からもうかがえる。実は、丸亀製麺は高単価・高利益商品の売れ行きが、きわめて好調だ。
かつて低単価・低利益に苦しんでいた丸亀製麺を変えた、2014年夏のある出来事について、丸亀製麺の運営会社である「トリドールホールディングス」経営企画本部 社長秘書・IR担当(肩書は2018年の発売当時)の小野正誉(おのまさとも)氏の著書『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?』から、読み解いてみよう。

丸亀製麺の釜揚げうどん(筆者撮影)
丸亀製麺もかつては、うどん+天ぷらといった注文が多く、客単価は「はなまるうどん」と同じく、500円少々にとどまっていた。季節ごとのフェアメニューも400円程度のものが多く、常連客が「きょうは期間限定のヤツ、頼もう!」となったところで、売り上げ・利益が大きく上がることはない状況であった。
ここで、2014年夏のフェアメニュ-(期間限定商品)として開発されたのが「肉盛りうどん」だ。従来の肉うどんと比べて2倍もの肉量がある「肉盛り」は原価も高く、売価も590円に抑えるのがせいいっぱい。社内でも「本当に売れるのか?」と懐疑的な目で見られていたが、丸亀製麺はここで、シンプルに「売る」だけでない、2つの施策を打つ。
まずは、「肉盛り」の肉をうどんのゆで釜の横で煮て、いい香りを店内に漂わせたうえで、ダシに沈まないように別皿で出すこと。さらに、同社としては初となるテレビCMを投下、タレント・武井壮さんを起用し、かなり大規模な露出を行った。
これまでにない高単価商品「肉盛りうどん」を、最も売り上げが見込める夏のフェアに持ってくるということは、失敗すれば当然のように決算に響く。会社としては「フェアメニューでの客数・実販獲得」「高単価シフト」「広告戦略」という課題を1本にまとめて、同じタイミングで「えい、やっ!」と一大展開を行うようなもので、いま冷静に見ると、これで負けると目も当てられない……。
結果、丸亀製麺は勝った。「肉盛りうどん」は空前の大ヒット商品に成長し、販売中の店舗売り上げは前年度比で売り上げ115%を記録。通常より高単価なフェアメニューがしっかり売れるようになったことで、丸亀製麺は数十カ月にわたって、前年度比売り上げ100%を上回り続けたという。
「肉盛りうどん」をきっかけに、丸亀製麺は「セルフうどん」店舗の本来の役割である「お手頃なうどん(かけうどん+α)を食べに行く場所」から脱却して、「美味しいフードがある『丸亀製麺』という場所に行く」ように、顧客の行動様式を変化させることができたのだ。
一方で、「はなまるうどん」はセルフうどんのコスパ・選ぶ楽しみを重視していることもあり、新商品でなかなかヒットが出ず、高単価・高利益商品への誘導もうまくいっていない印象だ。
丸亀製麺、セルフうどん動線の改善で「売り上げ2倍」を獲得できたワケ

丸亀製麺羽田空港店(筆者撮影)
もうひとつ、小野氏の著書では「セルフうどん」の効率化について触れられている。ただでさえ流れ作業で効率が良い「セルフうどん」形態の効率を改善することで、丸亀製麺で最も売れている「羽田空港店」の売り上げは、2倍にも上がったという。
小野氏によると、意識したのは「店を出るまで100歩歩くとして、70歩にすれば回転率を上げられる。その30歩をどのように減らすか」といった「店内動線の効率化」のようだ。
セルフうどんはネギ・天かすなどをとる台のまわりで渋滞が起きやすいため、羽田空港店ではこの台を3カ所に分散。さらに水をくむピッチャーをテーブルごとに設置、お盆を下げるコーナーも場所変更……ほかの店でも「レジを2台置いたら動線の効率が上がり、売り上げアップ」するような店舗もあったという。
こういった細かな効率化を徹底的に実施したからこそ、羽田空港店は売り上げ2倍、ほかの店舗も大きく実績を伸ばせたのだ。香川県から「セルフうどん」システムを持ち込んだのは「はなまるうどん」の功績であるとして、このシステムを徹底的に効率化、企業として利益を獲れるようにしたのが丸亀製麺、といえるだろう。
あらわになった丸亀・はなまるの「経営力の差」ただ「豪運」にもあり?

丸亀製麺1号店(筆者撮影)

丸亀製麺が立ち上がる前からあった焼き鳥店「とりどーる」(筆者撮影)

丸亀製麺のあゆみ。1号店に掲示してある(筆者撮影)
こうして振り返ると、「セルフうどん」2強から丸亀製麺が抜け出した理由は、「単価・利益アップ」「効率の追求」という経営努力もある。しかし、要因としてさらに「対:丸亀製麺の競争の少なさ」「意図しなかった、結果論での豪運」が加わる。
まず、うどん店としての進出時期が、結果論としてベストだったのかもしれない。創業は確かに「はなまるうどん」と同年だが、丸亀製麺は同じ系列の焼鳥店「とりどーる」に次ぐ実験店的な業態であり、粟田社長の著書でも「丸亀製麺はあくまでも実験店、会社は焼き鳥店メインで上場の準備を進めていたため、讃岐うどんブームの渦中はまだ本拠地(兵庫県加古川市)メインであった。
ところが、2003年頃から鶏インフルエンザが世界で蔓延、人への感染を恐れて鶏肉が避けられるようになり、「とりどーる」の売り上げは激減。粟田社長はやむをえず丸亀製麺に力を入れるようになり、たまたま打診があったフードコート「プロメナ神戸」へ丸亀製麺を出店したところ、これが大ヒット。会社としての命脈をつなぎ、関東へ進出したのが2004年、都心・新宿への出店は10月だった。
この時期はすでに讃岐うどんブームが去り、業界トップとして150店を出店していた「はなまるうどん」は赤字転落する店が続出、他チェーンも業績の転落で軒並み撤退・勢力縮小を余儀なくされていた。ブームによって「セルフうどん」のシステムが各地で知られるようになっていたこともあり、「はなまる」進出前後とは比べ物にならないほど顧客の理解があり、かつライバルが共倒れしたブルーオーシャン(競合が少ない)状態で、関東進出を仕掛けることができたのだ。
この状態、昔の狂歌になぞらえると「まわりがこねたセルフうどん天下餅、座りしままに食らう丸亀製麺」と、言えなくもない。

当時の、丸亀製麺・店舗数の推移(同社資料より)
その後、ファストフードとしてのチェーン店化のためにセントラルキッチンからの配送・店舗での調理手順を簡素化していた「はなまる」や先行各社に対して、丸亀製麺は値崩れしていない「釜揚げうどん」をメインに「店内製造・できたて」「来店そのものが『体験価値』」という強みで高単価・高利益を維持し、競合各社がひしめく渋谷などの都心より、郊外・ロードサイドをメインに関東に攻め上っていった。
粟田社長の著書いわく、その後に「『〇〇製麺』と名のつくコピー店が増えてきたので、レッドオーシャン(過当競争)になる前に、一気に行かねば」と出店攻勢をかけたという。こうして、2008年に100店突破、翌年に「はなまる」を追い抜き、業界首位となれたのだ。
丸亀製麺と、はなまるうどん。両者をレース展開のように比較すると、「はなまる」が「和のファストフード」として「セルフうどん」を発明、一気に先行したのち低単価・低収益に苦しんでいたところを、丸亀製麺が、一気に抜き去ったようなものだ。もちろん、丸亀製麺・トリドールホールディングスとして一定の経営努力や「勝ちの一手」を打てる企業としての判断力、不思議な豪運があったことは間違いない。
一方で「はなまるうどん」は企業として何度もピンチを迎えたこともあり、セルフうどんの先駆者たりえたものの、王者にはなりえなかった。ただ近年はコロナ禍から立ち直り、徐々に苦境を打開しつつある。
2強の競争が今後どうなるかはわからないが、もう「美味しくて安心なうどんなら、何でもよし」。難しいことを考える前に、まずは丸亀製麺・はなまるうどんの2社を食べ歩き、両者の特徴をゆっくり観察するのもいいだろう。
さて、全国的には丸亀製麺が「はなまるうどん」を圧倒しているとして……真逆の県がある。「はなまる」創業の地にして、讃岐うどんの本場・香川県だ。
丸亀製麺はなぜ、香川県では「2店が閉店、1店のみ残る」状態が続いているのか。詳細は、続く記事「丸亀製麺、香川県内では「圧倒的大敗」?味だけではない根本的な要因」でご覧いただこう。原因は味だけでなく、「はなまるうどん」ですら安閑としていられない、さまざまな問題がある。