安倍昭恵さんは“罪を憎んで人を憎まず”を「体現」 一緒に少年院訪問の被害者遺族が明かす“素顔”

 安倍晋三元首相が銃撃によって亡くなってから3年。妻・昭恵さん(63)は8日、自らが会長を務める「社会貢献支援財団」による映画祭に出席した。昭恵さんは来場者とともに2本の映画を鑑賞。涙を浮かべる場面も見られた。去来した思いとは――。

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■「夫を殺されており、つらい気持ちで見ることに」

 東京・虎ノ門の笹川平和財団ビルで開催された映画祭。昭恵さんは、大きな花柄のワンピースに白のロングカーディガンを羽織った姿で登場。ステージに上がると、次のように挨拶した。

「本日は映画『0(ゼロ)からの風』(ウィル・ドゥ)と『おまえの親になったるで』(テレビ大阪)をみなさまにご覧いただきます。前者は交通事故で息子を亡くした母親、後者は妹を殺された兄の思いが描かれています。私自身も夫を殺されており、つらい気持ちで見ることになると思いますが、みなさまには命の大切さを感じていただき、社会に貢献し、より良い世の中を築いていただければと思います」

「0からの風」の上映後にあった休憩時間。昭恵さんは来場者との交流を楽しんでいた。

 昭恵さんといえば、昨年は米大統領就任直前のトランプ氏と、今年はロシアのプーチン大統領と──世界中が注目する人物との面会が話題になった。プーチン大統領氏は2016年の日露首脳会談では、安倍元首相の地元・山口県を訪ねたこともある。記者がこれらについて聞くと、昭恵さんは「昔のことですね」と語るにとどめた。

しかし、隣に座っていた女性が「昭恵さんにはもっと外交に関わっていただきたい。今の自民党はトランプ大統領に信用されていないように感じます。昭恵さんが活躍されることで、日本の信頼回復につながると思います。女性として遠慮せず、日本の代表として頑張っていただきたいです」と語りかけると、「ありがとうございます」と昭恵さんは笑顔で応じていた。

 映画祭では続いて、「おまえの親になったるで」が上映された。映画を見て涙ぐんでいた昭恵さん。「(主人公の)草刈健太郎さんのことを知っているので……うちの財団で表彰した方です」と答えた。

■アメリカ人の夫に妹がナイフで殺害され…

 8日の映画祭に出席していた草刈さんは大阪市に本社のあるカンサイ建装工業の社長で、映画の主人公でもある。05年12月1日、映画の脚本家になる夢を抱いていた妹が、アメリカ人の夫にナイフで殺害されたことをきっかけに、13年から「日本財団職親プロジェクト」に参加。当初、活動に気が進まなかった草刈さんだが、ある青年と出会ったことで、のめり込むように、刑務所や少年院を出た人に住居や仕事を紹介する更生支援活動を行っている。

 昭恵さんと草刈さんの出会いは21年11月、昭恵さんが会長をしている社会貢献支援財団に表彰されたことに始まる。

「東日本大震災の津波で児童74人と教職員10人が犠牲になった、宮城県石巻市の大川小学校で息子さんを亡くされた父親が、昭恵さんに私の活動を財団で表彰してはどうか、と推薦してくれたんです。安倍元首相が健在だった頃です」(草刈さん)

翌年の22年3月に行われた、震災当時の在校生と同じ108本の竹灯籠(とうろう)に明かりをともす「大川竹あかり」に草刈さんも昭恵さんと参加。こんな会話を交わしたという。

「昭恵さんから『受刑者たちの更生に興味があるの。草刈さんが少年院などでの活動をやっているんだったら、私も一度行きたいわ。何かお手伝いできることはない?』と。でも、22年7月に安倍元首相が亡くなって、すぐには実現できませんでした。しばらくしてから、あの時の約束を果たそうと、僕から昭恵さんに『少年院に一緒に行きませんか』と声を掛けたんです」(同)

 仙台市若林区の東北少年院を昭恵さんと訪れたのは23年11月だった。体育館に集まった20~30人の少年の前で話をした昭恵さん。「犯した罪を反省して。自分自身に足りないことがあれば相談したらいいの。助けてくれる人がいるから」と話し、涙を流しながら「私は主人を殺した人を恨まない。自分自身が憎んでしまったら悪の連鎖になる」と言っていたという。

■「『山上徹也被告に会いたい』とも」

 安倍元首相への殺人などの罪で起訴されたのは山上徹也被告(43)。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の「宗教2世」で、母親の多額の献金で生活が苦しくなったことにより、「教団と深い関わりのある安倍氏を撃った」と供述。教団の友好団体「天宙平和連合」主催のイベントに、安倍氏が動画メッセージを寄せたことも知っていたという。山上被告の初公判は10月28日に予定されている。

「被害者も加害者も作らないことが与えられた使命だと感じているようで、『事件をしっかり受け入れて、これからも前向きに人生を生きる』といったことも話していました。心にズーンと響きましたね。体育館の窓は閉まっていたのに、不思議なことに風が吹き込んでくるような感じがしました」(同)

 草刈さんはこう続けた。

「『罪を憎んで人を憎まず』という精神を昭恵さんは体現しているように感じました。私はまだそんな気持ちにはなれませんが……昭恵さんは別の場で『山上徹也被告に会いたい』とも話していました」

(AERA編集部・上田耕司)