“北の大地の守り人” 空自、「千歳基地航空祭2025」で見られる保存機まとめ
千歳基地 2013年8月4日撮影 47-8345 三菱 F-4EJ ファントムII 航空自衛隊
北海道の玄関口、新千歳空港に隣接する航空自衛隊千歳基地において「令和7年度 千歳のまちの航空祭」が2025年9月7日(日)に開催されます。千歳基地には、国内最北の防空拠点としてF-15戦闘機の2個飛行隊が置かれています。また千歳救難隊のUH-60JとU-125A、さらに政府専用機を運用する特別航空輸送隊が所属。F-15や政府専用機は例年航空祭に登場しています。
展示飛行も注目ですが、航空祭にあわせてみておきたいのが同基地に展示されている保存機たち。千歳基地では、基地正門奥に北の護りを担ってきたF-86D/F、F-104J、F-4EJの4機が広報用に展示されています。また地対空ミサイルナイキJも展示されています。落ち着いた時間帯にジックリと眺めてみましょう。
【展示機紹介】
<翼に境界層板のある、レアなハチロク:F-86F-30 (62-7415)>
F-86Fは航空自衛隊の創成期から1960年代の主力であった昼間戦闘機。機首に6丁の12.7mm機銃を備えています。主翼下には爆弾やロケット弾なども搭載することができました。また改修により、空対空ミサイルを搭載できるようにした機体もありました。初代ブルーインパルスの使用機種として知られています。
千歳基地の展示機は1956年に米軍から供与されたF-86F-30という初期のタイプの機体で、1959年に用途廃止(用廃)となった機体。主翼前縁の中ほどに境界層板が1枚立っていることが特徴です。国内には35機程度のF-86Fが展示されていますが、境界層板のある主翼を持った保存機は本機を含めて5機のみの「レア」な機体です。また外観は、1951年から1963年に千歳基地に置かれていた第3飛行隊の機体塗装に似せたデザイン。機首には赤い帯を巻き、垂直尾翼に赤で二本の横帯を入れた塗装をまとっています。
© FlyTeam cassiopeiaさん千歳基地に保存されている F-86F-30「62-7415」 小さな部品だが、主翼に対して垂直に境界層板が取り付けられている。
© 山本 晋介F-86F-30の特徴イメージ:主翼前縁の中ほどに1枚の境界層板が付けられています。
<武装が無い戦闘機!?:F-86D (04-8199)>
F-86Dは航空自衛隊の創成期に米空軍から122機が供与され、千歳基地と小牧基地に配備されていました。また岐阜基地の実験航空隊(当時)にも若干数が配備されています。機首にレーダーを備えた全天候戦闘機ですが、武装はコクピット下方の胴体下の引きこまれて収納されるパッケージに収まった24発のロケット弾のみ。戦闘機なのに機銃もミサイルもない、現代の感覚からすれば、ちょっと変わった戦闘機です。
この「04-8199」は1960年に米軍から供与され、航空自衛隊全てのF-86Dを運用終了とした1968年10月1日まで、千歳基地の第103飛行隊に所属していました。尾翼に描かれた白フチのついたブルーの2本の帯は当時の部隊マークです。唯一の武装であるロケット弾は、これ装填するロケットパックを胴体内に格納しているため、見ることができません。完全に武装の無い「丸腰」の状態で展示されています。
© FlyTeam じーく。さん千歳基地 2024年9月15日撮影 04-8199 ノースアメリカン F-86D-45 セイバー 航空自衛隊
<左右でマークが違う:F-104J (46-8574)>
F-104は、アメリカ・ロッキード社で開発された、細長い胴体に非常に薄い主翼を持ったマッハ2級の戦闘機。デビュー当時は「最後の有人戦闘機」と言われました。航空自衛隊では単座のJ型を210機、複座のDJ型を20機を導入し、1962年から1987年まで運用。なお、退役後に14機が無人標的機に改造され、訓練で使われました。
千歳基地では1963年3月に第201飛行隊が編成され、1984年3月に第203飛行隊がF-15に機種転換を完了するまでの約21年間、F-104を運用しました。展示機は1964年に納入され、1980年に用廃となった機体。固定武装として20mmバルカン砲を機首左下に備えています。垂直尾翼の左側に第201飛行隊マーク、右側には第203飛行隊マークが描かれていますので、左右両側からの記録を残しておきましょう。
© FlyTeam TA27さん千歳基地 2022年7月31日撮影 46-8574 三菱 F-104J スターファイター 航空自衛隊 © FlyTeam Echo-Kiloさん千歳基地 2015年7月19日撮影 46-8574 三菱 F-104J スターファイター 航空自衛隊
<“オジロワシ”飛行隊発祥の地:F-4EJ改 (47-8345)>
航空自衛隊ではマクドネル・ダグラス社製F-4シリーズのうち、機首に20mmバルカン砲を固定装備するEJ型を140機導入して、1971年から2021年までの50年間にわたって運用しました。千歳基地では、1974年に2番目のF-4EJ飛行隊として第302飛行隊が新編されました。
第302飛行隊のマークは北海道で見られる尾白鷲をモチーフとし、翼が“三”、尾羽が“0”、足が“二”を表しています。なお現在は、飛行隊マークの大きさは日の丸より小さくするように内規で定められていますが、このマークが制定されたのは内規が定められる前のこと。このため当時の第302飛行隊では日の丸よりも大きなサイズのオジロワシマークが尾翼に描かれていました。第302飛行隊は1985年に那覇基地に移動、2009年には百里基地に移動して、2019年にF-4EJ改の運用を終えています。しかし同年には三沢基地に新生第302飛行隊が発足。同飛行隊のF-35Aにも(サイズは小さくなりましたが)オジロワシマークが引き継がれています。
© FlyTeam ちゅういちさん三沢基地第302飛行隊所属のF-35A。右は通常仕様である低視認性(ロービジ)塗装、左は特別塗装のフルカラー「オジロワシマーク」が描かれている。
F-4にはミサイルや爆弾など多くの種類の武器を搭載することができますが、展示機は増槽タンクも主翼内舷のパイロンもない、機体だけのシンプルな形態で展示。国内のF-4展示機の中では珍しいスタイルでの機体を目にすることができます。
© FlyTeam なごやんさん千歳基地 2024年9月15日撮影 47-8345 三菱 F-4EJ改 ファントムII 航空自衛隊
<地対空ミサイル“ナイキJ”>
展示エリアには、航空機ではないものの1971年から1994年まで航空自衛隊で運用していた地対空ミサイル「ナイキJ」も展示されています。「ナイキJ」の弾頭には510kgの高性能炸薬が詰められていますが、原型となったアメリカ製MIM-14「ナイキ・ハーキュリーズ」が核弾頭搭載可能なタイプであったことから、導入配備には反対論も。「国防」をめぐって議論が高まりました。
© 山本 晋介1971年から1994年まで航空自衛隊で運用していた地対空ミサイル「ナイキJ」
展示されているナイキJは、白色に塗られた弾体部、これを打ち上げるブースター部、そして発射台(ランチャー)の一式です。ミサイルというと目標に向かってまっしぐらに飛んでいき、直撃するというイメージがありますが、このミサイルはブースターで一旦、高空まで打上げた後にブースターを切り離し、落下速度を利用して弾体部を増速し、目標に近づいたところで爆発するという使用方法が想定されていました。
以上、千歳基地の保存機をご紹介しました。楽しい航空祭ですが、千歳基地は北部方面の最前線にある基地。日本を守るという使命を背負い、防空のために運用された戦闘機の歴史や変遷を知るきっかけとなれば幸いに思います。