「夏の海に変化」今は外国人トラブルや盗撮に注意

現地取材を行った、藤沢市の片瀬西浜・鵠沼海水浴場の様子(写真/片瀬西浜・鵠沼海水浴場)
夏休み期間もあっという間に終盤を迎え、全国各地で、肌を真っ黒に焼いた親子連れなどの姿が見かけられる。テレビニュースでは、「家族でプールや海に行ってたくさん泳ぎました!」と笑顔で答える小学生がインタビューを受けていた。
【写真】ポイ捨てされたものから、“エモさ全開”の1枚まで…現在の片瀬西浜・鵠沼海水浴場の様子
しかし、“夏の海”と言えば、太陽の下で思いっきりはしゃいでしまう反面、海岸にはタバコやゴミが散乱し、爆音が流れる海の家では夜遅くまで“パリピ”が騒ぐ……こんなイメージをお持ちの人はいないだろうか。
「わかります。実際、昔はそういう若者が大挙して押し寄せていましたから」
そう話してくれたのは、神奈川県藤沢市の片瀬西浜・鵠沼海水浴場を管理する、江の島海水浴場協同組合の理事長・栗原義忠さんだ。自身も江の島・片瀬海岸で生まれ育ち、祖父の代から3代にわたって理事長職を担う、生粋の藤沢っ子である。
海岸をにぎわせる海の家は75年前に比べて3倍に増加
片瀬西浜・鵠沼海水浴場は、藤沢市内にある3つの海水浴場(ほか2つは片瀬東浜海水浴場、辻堂海水浴場)のなかでも、来場者数が最も多い。全国的に海水浴客が減少している昨今でも、2024年(令和6年)の7〜9月で101万8300人もの来場者数を誇る人気の海水浴場だ。

藤沢市内でもとりわけ来場者数が多い片瀬西浜・鵠沼海水浴場(図表/藤沢市役所記者発表資料より)
多くの人々が開放的なひとときを過ごす場所ならではの、モラルの問題を邪推してしまうが、実際に足を運んでみると、目の前に広がる海には穏やかな波が打ち寄せ、約1キロという広い砂浜には家族連れや学生、カップルが集い、思い思いの時間を過ごしている。美しい夕陽と富士山が一望できるビーチには個性豊かな海の家が立ち並び、大騒ぎや騒音もなく、実に平和な光景だ。
かつてのトラブルは鳴りをひそめた現在。一体いつから、海水浴場は変貌を遂げたのだろう。
片瀬西浜・鵠沼海水浴場が開かれたのは、今から75年前の1950年。朝鮮戦争が開戦した年だった。栗原さんの祖父がこの地を訪れ、美しい海と豊かな自然に囲まれた兵庫県の須磨海岸に似ていることに着想を得て、海水浴場にすることを思いついたのだという。
「この海水浴場は漁業権の一環としてスタートしたんです。冷凍や冷蔵設備がなかった当時、夏場は魚を取っても保存ができなかったので、商売にならなかった。そこで組合を作り、ボートをはじめ海の遊具を海水浴客に貸し出せるようにしたんです」(栗原さん、以下同)
海の家は、付近に軒を連ねていた旅館が夏の施設として始めたところ、出店を希望する人が続出。当初、片瀬東浜から始まったこの試みは、東浜から西浜へと広がりを見せ、わずか8軒から始まった海の家は現在27軒まで増え、海岸には欠かせない施設となっている。

今では8軒から3倍以上に軒数が増え、にぎわいを見せる夕刻の海の家。西浜はおしゃれな店が多く若者に人気(写真/片瀬西浜・鵠沼海水浴場)
時代が追い風、人気の海水浴場になるも……
折からの海水浴ブームに加えて、朝鮮戦争の特需で戦後の経済疲弊から立ち直ったという時代背景もあり、人々が海水浴場に注目するようになる。ここから高度経済成長期の波に乗り、夏の片瀬西浜・鵠沼海水浴場はエンタメの発信地としても機能するようになった。
「毎年、芸能事務所の新人歌手が来ては、ステージで歌っていましたね。〈バックミラーに 映る江ノ島さ〉という歌詞が印象的な『ゆ・れ・て湘南』を歌った石川秀美さんも新人のころに来ていましたよ」
さらに、バラエティ番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(1985~1996年放送)が毎年、タレントショップ「江ノ島元気が出るハウス」を夏季限定で開設。芸能人も訪れ、多くのイベントを開催したことで、江の島は全国的に名の知れる海水浴場となった。
しかし、知名度が上がったことで、片瀬西浜・鵠沼海水浴場は思わぬ代償を強いられることになる。
大きな変化が訪れたのは、2005~2006年ごろ。これまで主に地元の人たちが楽しんでいた平和な海岸に、県内外から多くの若者が押し寄せるようになった。
問題なのは、彼らが純粋に海水浴を楽しむためではなく、海の家で大音量で音楽を流し、大騒ぎをすることを目的に訪れていたということだ。いわゆる「海の家のクラブ化」である。ゴミのポイ捨て問題も深刻で、栗原さんによると、「現在の3倍ものゴミが海辺に散乱していた」という。
「昼間は人がいないのに、夕方になると続々と人が出てくるんです。海の家は営業時間を決めていなかったので、深夜まで爆音で音楽を流して騒ぐ若者たちがあふれ返るようになりました」
忘れられない黒歴史「海の家のクラブ化」で治安が悪化
それに伴い、それまで不文律ながらきちんと機能していた「互いに迷惑をかけない」という海岸のマナーは崩れ去り、治安の悪化に地元の人たちは眉をひそめ、子どもたちは海に寄り付かなくなった。
残念なことに、この問題の責任の一端は海の家にもあった。当時、理事長を務めていた栗原さんの母親が、大きな音で音楽を流している海の家に注意に行ったところ、その場では音量が下がるものの、しばらくするとまた音量を戻されてしまい、いたちごっこだったという。
「まったく改善されないまま事態は悪化していました。まさに“黒歴史”だったと思います」

現在の片瀬西浜・鵠沼海水浴場は写真のとおり穏やかだが、当時は騒音も人の数やごみの量も多く、治安がいいとはとても言えなかったそう(写真/筆者撮影)
この黒歴史に終止符を打ったのは、行政の介入だった。
神奈川県内には藤沢市にある片瀬西浜・鵠沼海水浴場のほか、鎌倉市の由比ガ浜海水浴場、逗子市の逗子海水浴場など、あまたの名の知れた海水浴場がある。だが、軒並み海の家のクラブ化による治安悪化が深刻になったことで、海の家の開設権は藤沢市を除いたすべての自治体で、組合の管理から市の管理へと移行することになった。
開設権を守るべく、海の健全化に乗り出す
海の家の開設権を持っているのが市か組合か、その違いはコロナ禍に顕著な形で現れた。
「私たちのところは、2020年は完全休業したものの、翌年からは海の家の営業ができたんです。一方で、由比ガ浜は2年間は海の家を開設できていないと思います。市町村が許可を出さなければ海の家を立てることができない。組合が開設権を持っておらず、自治ができないことで、こんなに大きな影響があったんです」
この事態が大きな転機となり、栗原さんたちは一丸となって海の健全化を一番の旗印として推し進めるようになる。モラルの崩壊やトラブルが起きれば開設権が取り上げられることの重大さを目の当たりにし、その影響の大きさと自分たちで管理できることの大切さを、身をもって知ったからだ。

栗原義忠さん。地元の海をこよなく愛し、より良い環境を目指して邁進している(写真/筆者撮影)
2021年、片瀬西浜・鵠沼海水浴場は民間団体としてはアジアで初となる、ブルーフラッグ認証を取得する。ブルーフラッグとは、国際NGO FEE(国際環境教育基金)が実施する、ビーチ・マリーナ・観光船舶を対象とした世界で最も歴史ある国際環境認証だ。
取得には環境美化、安全、水質、環境教育などの厳しい33項目の基準をクリアする必要がある。日本ではわずか12の海水浴場と3つのマリーナが獲得しているだけということからも、その厳しさがうかがい知れる。
「ブルーフラッグを取得しているということは、管理がしっかり行われていて、安全で快適。環境教育の場としても機能していて、誰もが楽しめる美しいビーチである証し。国内外に江の島は誰もが安心して楽しめる美しい海だと認められたと感じています」
さらに、『かながわSDGsパートナー』『ふじさわSDGs共創パートナー』にも加入し、海遊びの安全講習やビーチクリーンを定期的に行うほか、藤沢市が掲げる方針にのっとり、2025年はバリアフリーマットや水陸両用の車イスなどの設置、バリアフリートイレの設置、ルール周知看板や海の家のメニュー等を英語表記してインバウンドに対応するなど、積極的に健全化やバリアフリーな海になるよう活動を展開した。

この日の海水浴場でも、ゴミのポイ捨てはほぼ見当たらず。時折、たばこの吸い殻が落ちている程度だった(写真/筆者撮影)
近年は外国人によるトラブル増加で「知らんぷり」も
だが、美しく安全な海であることが広く知れ渡ったことで、江の島には新たな問題が発生した。近年、全国的に急増している外国人によるトラブルだ。
「ここを訪れる人の2割程度は外国人が占めています。ブラジル人や欧米人も見かけますが、特に多いのはフィリピンやタイ、ベトナムといった東南アジア系。おそらく就労のために来日した人たちが休日に遊びに来ているのでしょう」
マナーを守って海を楽しむ外国人も多いなか、ルールを破りトラブルに発展するケースも少なくない。
「海水浴場は、基本的には公園と同じ扱いになるので火気厳禁。しかし、“自分たちの国では海でBBQができる、だからここでやってもいいだろう”という理屈で、無理を通そうとする人もいます」
大きな音で音楽をかけながら、火気厳禁の場所で行うBBQは当然、注意の対象になる危険行為だ。
「でも、言葉がわからないふりして、こちらの注意を聞かない人も。注意をしにいくと、わかった、わかったというジェスチャーで、その場ではやめるそぶりをするんですが、注意する人間が立ち去ると再開するんですよ。外国人は、女性のほうがそういうトラブルを起こす割合が多い気がしますね」
特に、就労先でできたコミュニティと思われる数組の家族連れで来るケースがよく見られるのだという。悪い人ばかりではないが、“黒歴史”による海の崩壊を見てきた栗原さんは、昨今の外国人のトラブルを危険視している。
「こういうマナー違反は、経験上、2〜3年放置すると取り返しがつかないことになります。“注意されない”、“見逃してくれる”と思えば、この海にはそういう人ばかりが来るようになる。そのためにも、トラブルが起きたその場で、しっかりと注意することが大切なんです」
盗撮・置引にも注意、ライフガードは頼れる存在
騒音やゴミ問題は減った片瀬西浜・鵠沼海水浴場だが、今年に入って増えているのが盗撮と置引だ。
「海水浴場でのシャワーや着替えの際には海の家を利用してもらうのですが、男女が同じ入り口を使う施設の女性用のシャワールームに忍び込んでカメラを設置した、という事件が起きています」
今夏、発覚した盗撮事件は3件。すべて犯人は逮捕され、カメラも回収されている。
「置引は1日に3件ほど起きています。海で遊ぶあいだ、“見える場所に置いておくから大丈夫”という慢心から被害に遭う人が多いので、海の家のロッカーに預けるなどの対策を。積極的に利用して海を楽しんでもらえたらと思います」
防犯カメラの設置なども進んでいるが、自衛も心がけたい。

片瀬西浜・鵠沼海水浴場のシャワーハウス。貴重品は肌身離さず持ち歩こう(写真/筆者撮影)
片瀬西浜・鵠沼海水浴場では、イベント警備に強い外部のセキュリティ会社にも依頼し、2人1組のチームで水辺の治安維持に努めているという。酔客同士のトラブルやグループ内でのもめごと、危険な遊泳の制止まで、海辺の治安を守るために日々、奮闘している。
さらに、海水浴の安全を守るために欠かせないのが、ライフガードの存在だ。
「海でみなさんの命を守るために頑張っているライフガードの声かけには必ず従ってください。現在、当海水浴場の水難事故はほぼゼロになっていますが、これはライフガードの指示を守ってもらえたからこそだと思います。
なかには、注意されたことに逆ギレして暴言を吐いたり、SNSで悪評を拡散する心ない人もいますが、海を安全に運営していくうえで、ライフガードは欠かすことのできない存在です。彼らの指示に従うことが、命を守り、安心安全で健全なビーチでのひとときにつながります」
子どもたちが戻ってきたビーチ、灯籠の奉納イベントも
昨今、入れている人も増えつつあるタトゥーだが、露出を控えてもらうことにも成功しているという。
「タトゥーにはカバーをつけてもらうようお願いしています。これまでは、タトゥーをわざと露出して歩いている若者も多かったのですが、健全化の観点から、タオルやシャツなどで極力隠してもらいたい。隠す努力をしてくれている人には、必要以上に厳しく言うことはありません」

海の家の周りに建てられている看板。セキュリティからの声かけの効果もあり、服を羽織って意識的にタトゥーを露出しない人が増えているという(写真/片瀬西浜・鵠沼海水浴場)
これらの地道な活動が実を結び、家族連れの海水浴客の増加という大きな変化をもたらした。
「昨年と比べて、家族連れが3割は増えている印象です。タトゥーをしている人がゼロになったわけではありませんが、以前のような子どもたちが怖いと感じる海ではなくなりつつあります。
子どもたちが安心して遊べるクリーンな海水浴場になったことで、地元・藤沢の企業の方々も協力してくれるようになり、子ども向けイベントを実施することできるようになりました。今年は灯篭を作って海に奉納するんですよ」
誰もが安心・安全に楽しめる海辺へ──
多くの人の努力が実り、誰もが楽しめる夏のリゾート地へと戻りつつある片瀬西浜・鵠沼海水浴場。
「現在、私たちが目指している健全化は実現しつつあると自負しています。多くの人が訪れても犯罪が起こらず、そもそも犯罪に手を染めるような人たちが来なくなる海にしていきたい。外国人も今後さらに増えると予想していますが、受け入れないのではなく、きちんと受け入れ態勢を整えたうえで、安心・安全に迎え入れたいと思っています」
未来に受け継ぎたい、平穏な夏の海辺の風景。栗原さんたちは今日も海を守り続けている。いつの日か、全国の海水浴場がこのような安らぎのスポットとなることを祈りたい。

夕暮れ前の片瀬西浜・鵠沼海水浴場。時間がゆっくりと流れ、“エモさ”が感じられた(写真/筆者撮影)