【もののけ姫】幻の絵本を知ってる? アシタカもサンも登場していなかった(金曜ロードショー)
1997年公開のスタジオジブリのアニメ映画『もののけ姫 』。8月29日午後9時から日テレ系の 金曜ロードショー で放送されます。
映画版『もののけ姫』に登場するアシタカ(右)とサン(スタジオジブリ公式サイトより) / Via ghibli.jp
金曜ロードショーの公式ページによると、青年・アシタカが、たたり神の呪いを解こうと旅をする中で犬神に育てられた少女・サンと出会うというストーリー。原作、脚本、監督を宮﨑駿さんが手掛けた壮大な物語です。
映画化まで構想16年と言われていますが当初、宮﨑駿監督が思い描いていた『もののけ姫』は全く別の話でした。
その証拠に劇場公開の4年前の1993年に徳間書店から出版された宮﨑駿監督の絵本『もののけ姫』には、アシタカもサンも登場しないのです。
一体どういうことなのか。この記事ではその謎を追いましょう。
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絵本版は1980年のTVスペシャル向けの企画を元に作られたものだった
絵本版の『もののけ姫』は、もともと1980年に宮﨑監督が描いたイメージボードが元になっています。イメージボードとは、アニメ作品の企画を映画会社やテレビ局に売り込むために描いた設定スケッチのようなものです。
浦谷年良さんの著書『「もののけ姫」はこうして生まれた。 』(徳間書店)では、宮﨑監督が「仕事のなかった時代に、テレビスペシャルの企画書代わりに描いたものらしい」と記しています。
1980年といえば、宮﨑監督の劇場映画デビュー作『ルパン三世 カリオストロの城』の翌年のこと。まさに映画監督として第一歩を歩み始めた時期のものでしたが「暗い」という理由でお蔵入りしていたそうです。
絵本版では巨大な山猫「もののけ」が登場する物語だった
絵本はこんな内容です。
日本の戦国時代のような世界が舞台。ある武士が盗み食いの対価として、巨大な山猫の姿をした「もののけ」に自身の娘を嫁に出すことを約束させられます。さらに悪霊にとりつかれた武士は、末っ子の心優しい「三の姫」を疎むようになり「もののけ」に嫁として与えて館から追放してしまう……というストーリーになっています。
ディズニー映画でも知られるファンタジー文学『美女と野獣』を、日本を舞台に移し替えたような設定。
絵本版の『もののけ姫』の帯には「ひたむきで、一所懸命なもののけと、けなげで一途な姫の愛の物語」というキャッチコピーが書かれていました。
なぜ映画版は全く内容が異なるのか?
『「もののけ姫」はこうして生まれた。』の書影(撮影:BuzzFeed Japan)
絵本版『もののけ姫』の帯には「劇場用長編アニメーション映画化決定」と書かれていることからも分かるように、宮﨑監督は当初、絵本版を叩き台にしたアニメ映画化を考えていましたが、構想を練り上げる段階で暗礁に乗り上げます。
前出の『「もののけ姫」はこうして生まれた。』は、映画の制作過程を2年以上にわたり追い続けたドキュメンタリー番組の書籍版です。この中で鈴木敏夫プロデューサーは「原因は一個だったんです」として、次のように打ち明けています。
🗣️「十六年前(当時を起点とすれば十四年前)の企画だったんですよね。時代状況その他、全部変わって来てるんですよ。そうすると、十六年前に考えたことが、現代にはやっぱり当てはまらないと。さあ、どうしようなんですよね」
宮﨑監督は1994年9月から新作の構想を練り上げるものの、まる4カ月もの間、悩みまくったそうです。時代劇の主役は武士・町民・農民になるがそれに縛られていると、世界が広がらないことがその理由でした。『「もののけ姫」はこうして生まれた。』によると、後に宮﨑監督はこう振り返っていたそうです。
🗣️「刀下げてチョンマゲ結ってる男を、主人公にしただけで、もうやりたくないですね。何にも新しいものを付与できないんじゃないかって感じが、自分にはあって。じゃあ、侍に虐げられている百姓を主人公にするってのはね、百八十度引っくり返しただけで、極右と極左の違いみたいなもんで、どうって違わない。じゃあ、何が作れるのかって、こりゃあ本当に分からない」
仕切り直すきっかけとなったのは『シュナの旅』だった?
『シュナの旅』(アニメージュ文庫)Amazonより / Via amazon.co.jp
悩み抜いた結果、絵本の基本設定は完全に破棄して、「武士や農民が表舞台に出てこない」という全く新しい『もののけ姫』が作られることになりました。
『「もののけ姫」はこうして生まれた。』の中で、浦谷年良さんはそのモチーフになったのが、宮﨑監督の1983年の絵物語『シュナの旅』(徳間書店)だと指摘しました。
チベット民話「犬になった王子」が元になった作品ですが、「地味な企画」という理由で、やはりアニメ化がお蔵入りした構想から生まれたものです。主人公のシュナが『もののけ姫』に出てくる架空の動物「ヤックル」に乗っていることなど共通点が多いことで知られています。
浦谷さんは『シュナの旅』のあらすじを次のように紹介しています。
🖊️「貧しい辺境の小国の王子である。シュナは、自国の民を貧困から救うはずの穀物の種、『金色の種』を求めて、西へと旅立つ」
🖊️「途中、ジコ坊的存在に、 求めるものは『大地の果て、神人の土地』にあることを教えられる」
🖊️「一方でシュナは、奴隷として身売りされた不幸な少女テアを救う。その後、金色の種を求めて神人の土地に潜入したシュナは、異常な体験から、記憶を失うほど消耗する。今度はテアがシュナを回復させる」
こうしたストーリーラインについて浦谷さんは「旅の動機は全く異なるが、物語の展開は非常に良く似ているのである」と結論づけています。似ているにもかかわらず「まるで違う物語が語られたという別の驚きに打たれる」とした上で、以下のように続けています。
🖊️「『理不尽にも傷つけられ、呪われたと自覚した少年が、その呪いを癒す鍵を探して旅をする』という納得のいく動機を見つけた時、ようやく新しい『もののけ姫』が走り出したに違いない」
このように絵本版の『もののけ姫』では「父親に疎まれてモンスターに嫁にやられる娘」という基本設定でしたが、映画化の構想段階で悩み抜いた末に大胆に路線変更。
タイトルだけ残して、アシタカという少年を軸にした物語に変えたとき、始めて宮﨑監督の納得の行くものが出来たというのが真相だったのです。