地球滅亡の新たな伏兵「旅する星」
太陽系惑星の軌道は太陽系を通り過ぎる星、すなわち「旅する星」によって不安定になり、これが惑星の終末を早める可能性もある=NASA提供//ハンギョレ新聞社
約100億年にわたる寿命の中で、現在人間の中年にあたる太陽は、数十億年後には赤色巨星となって100倍以上膨らみ、水星と金星はもちろん、地球までも飲み込むと予想されている。赤色巨星になった太陽の膨大な熱と放射エネルギーは、地球を廃墟にするだろう。ところが、地球が終末を迎える原因が太陽だけではないという研究結果が出た。太陽系を通り過ぎる星(passing field stars)、いわゆる「旅する星」も地球を破滅させうるということだ。
これまで軌道力学から見た太陽系惑星の未来に対する研究は、太陽系を孤立した状態と見なしたうえで行われてきた。これによると、木星や土星、天王星、海王星のような巨大な外惑星は、太陽の寿命が尽きるまで、軌道にほとんど変化がない。
内惑星の場合は事情が少し異なる。特に、太陽系惑星の中で軌道の離心率が最も高い水星が問題だ。離心率0.21で、他の惑星よりはるかに歪んだ楕円形の軌道を回る水星は、近日点(太陽と最も近づく点)は4600万キロメートル、遠日点(太陽から最も遠ざかる点)は7000万キロメートルで、両者の間の差が大きい。確率は低いが、今後離心率が引き続き大きくなり、太陽の寿命における最後の10億年間には、太陽や金星と衝突する可能性もある。ただし、この場合も水星の破壊が地球と火星の軌道に影響を及ぼす可能性はほとんどないとみられている。
しかし、宇宙では太陽系は唯我独尊の存在ではない。数ある星の群れの一つに過ぎない。私たちの銀河だけで2千億個以上の星があり、この銀河が属している局部銀河群を構成するアンドロメダ銀河など大小の50個余りの銀河を成す星を合わせれば数兆~数十兆個に達すると推定される。
これらの星はすべて、それぞれの銀河の中心を軸にし、それぞれの軌道に沿って回っている。そうすると、星の間の重力の相互作用で星の動きに変化が生じる時が来る。例えば、現在太陽に最も近い星であるプロキシマ・センタウリより太陽にもっと近づく星がありうる。天文学者たちがガイア宇宙望遠鏡観測データをもとに計算した結果によると、100万年ごとに33の星が4.24光年の距離にあるプロキシマ・センタウリより太陽に近づく。ところが、その星の重力が太陽系に影響を及ぼすためには、プロキシマ・センタウリよりはるかに近づかなければならない。
フランスのボルドー天体物理学研究所と米国の惑星科学研究所の研究チームが、その可能性と影響を推定した研究結果を天文学分野の国際学術誌「イカルス」に発表した。
太陽系に最も近い星プロキシマ・センタウリは、4.24光年の距離にある。ハッブル宇宙望遠鏡で撮影した写真=ウィキメディア・コモンズより//ハンギョレ新聞社
■星が近くを通り過ぎる確率は100万年あたり19回
これによると、通り過ぎる星が太陽系に実質的な影響を及ぼすためには、質量と速度、軌道の3拍子が揃わなければならない。研究チームはこの3つの条件を変えながら、2千回のシミュレーションを実行し、太陽系をかすめて通る星が8つの惑星と冥王星の軌道にどのような影響を及ぼすかについて調べた。シミュレーションに含めた期間は50億年だった。研究チームは「通り過ぎる星の重力の影響で惑星軌道に変化が起きるには数千万年以上かかる場合が多いため、このように長い期間を調べる必要がある」と説明した。通り過ぎる星の影響が表れるのにこのように長い期間が必要だという点は、これに関する研究がそれほど重要に扱われなかった理由でもある。
シミュレーションの結果、巨大な星が比較的ゆっくりした速度で太陽に近づいた場合、軌道に変化をもたらす可能性があることが分かった。研究チームはシミュレーションの0.5%が惑星衝突、または惑星が太陽系の外に押し出される結果につながったと述べた。太陽から1パーセク(3.26光年)以内の距離で星が通る確率は100万年当たり約19回と推定された。
最も大きな影響を受ける惑星は水星だった。実は、水星は今も軌道が不安定な状態だ。近くを通り過ぎる星がなくても、太陽系内部の軌道力学によって、いつか金星や太陽と衝突する可能性が約1%と推定される。今回の研究では、通り過ぎる星の影響で、水星でこのような事件が発生する確率が0.56%であることが分かった。
水星の次に影響を大きく受ける天体は火星(0.3%)、その次は金星と地球(それぞれ0.2%)だった。生命体が生息している地球は軌道が不安定になる確率自体は低かったが、それに伴い平均日射量が変化する確率が以前の推定値より数百倍高かった。研究チームは「これは地球の生命体に決定的な影響を及ぼしうるレベル」だと説明した。シミュレーションの結果の中には、水星が金星と衝突し、それによって生じた天体が地球と衝突する状況も含まれている。
シミュレーションを通じて得た確率の数値は低いが、世界を吹き飛ばす威力のある事件であることを考えると、確率が極めて低いと断定することもできない。
通り過ぎる星にほとんど影響を受けない惑星は木星だ=NASA提供//ハンギョレ新聞社
■ 冥王星が太陽系の外に放り出される確率も約4%
冥王星が太陽系の外に放り出される確率も約4%に達した。研究に参加していないパリ天文台のジャック・ラスカル博士はニューヨーク・タイムズ紙に「太陽系の外郭にある小さな準惑星が通り過ぎる星の影響を最も大きく受けるのは当然」だとして、「冥王星はより簡単に影響を受ける可能性がある」と語った。
太陽系の外惑星グループである木星と土星、天王星、海王星は、通り過ぎる星の影響を受ける確率がはるかに低い。特に木星は約40000分の1で最も安定的だった。しかし、もし海王星と天王星の公転軌道の速度の割合で変化が発生した場合には、太陽系全体の不安定性が大きく高まるものと予測された。
通り過ぎる星の影響が惑星の動きによってすぐに表れるわけではない。惑星の不安定性または惑星の消滅につながるまでは、少なくとも数百万年、最大40億~50億年を要することが分かった。
人類が誕生する前、このようなことがすでに一度は起きたのではないだろうか。研究者たちはその可能性は低いと推定した。論文の共同著者である惑星科学研究所のネイサン・カイブ博士は「そのようなことがあったとすれば、氷で覆われた太陽系外郭地域は今よりはるかに大きな被害を受けただろう」と語った。
*論文情報
The influence of passing field stars on the solar system’s dynamical future.
https://doi.org/10.1016/j.icarus.2025.116632
クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ [email protected])