万博でリピーター続出の「ハンガリー・パビリオン」はリアル音楽体験でカルパチアの森に飛んでいける唯一無二の空間

パビリオン前で、案内をしていただいたコロンツァイ・バーバラさん(写真左)と筆者

 4月13日に始まった大阪・関西万博も、10月13日の閉幕まで早くも2ヵ月を切った。どうしても行きたいパビリオンはまだまだあるが、筆者がSNSを眺めていてぜひ行ってみたかったのが「ハンガリー・パビリオン」。

 タイムラインに流れてくる、ドーム型のシアタースペースの暗闇の中に浮かび上がる民族衣装の歌手と、一度聴いたら忘れられない歌に強くひきつけられて、遂にパビリオンに入った。

シアタースペースでの歌唱は神秘的ともいえる美しさだが、同時に素朴で日本人である筆者にも沁みてくる。公式写真より

パビリオンのファサードには、3万5000枚以上の布製ラメラがひらひらと舞う。公式写真より

 ハンガリーパビリオンは、営業許可をもっとも早く取得した国のひとつであり、会場内でも最速で完成した施設のひとつだ。ファサードには、3万5000枚以上の布製ラメラがひらめく。ハンガリーのカルパチア盆地の神秘的な「森」を散策しているような建築とランドスケープ、干し草の山を表現したスギの木組みが螺旋状に取り囲むイマーシブドームが印象的だ。

 この建物は、ハンガリーという国を知るための「⾨」として機能する。パビリオンの設計を指揮した、コシュート賞およびイブラ賞を受賞した建築家、ゾボキ・ガーボル⽒は以下のように語る。

「ハンガリー・パビリオンは、“内なる旅”へと誘います。ハンガリーの⺠族⾳楽を通じて、⽇本とハンガリーの⽂化に共通するモチーフや精神性、⾃然とのつながりを体感していただけます。五⾳⾳階によって、⼈類最古の普遍的な⾳楽の遺産にも触れていただけます」

 パビリオンは4つの主要スペースで構成されている。ハンガリー産品を販売するギフトショップ、郷⼟料理とワインを楽しめるレストラン&バー、⺠族⾳楽と⽂化を体験する没⼊型展⽰空間、そして最上階にはビジネスミーティングやワークショップに対応した多⽬的スペースがある。

ハンガリーの自然を想起させるパビリオン。公式写真より

 パビリオンの建築コンセプトは、日本とハンガリーの民俗建築に見られる自然素材や工法から着想を得ている。自然との繋がり、人間と風景の関係は両国の文化に根強く存在しており、ハンガリー・パビリオンでは建築と自然が一体となっている。来場者はハンガリーの草原の植物、色と香りに囲まれた空間から建物の中に入り、民族音楽を紹介する展示エリアを通り抜けると、巨大なドームにたどり着き、そこで民謡の生演奏に出会うのだ。

 会場内には、すずらんの花の香りが漂い、ハンガリーを香りからも実感できる。

 基本設計を行ったハンガリーの建築デザイン事務所ZDA - Zoboki Design & Architectureは、1997年に設立され、ブダペストを拠点に国際的に活動している。ハンガリーおよび中東欧地域を代表する建築事務所のひとつとして、高い評価を受けている。

 ZDAは、複合型文化施設、企業の本社ビル、オフィスビル、高級住宅、都市開発、歴史的建造物の改修など、幅広いプロジェクトを手がけている。特に、多機能でフレキシブルな空間設計や、多目的ホールのデザインにおいて卓越した実績を誇る。

 代表的なプロジェクトには、ブダペストの 「MÜPA(ハンガリー芸術宮殿)」、深圳市の 「南山文化センター」、ブダペストの 「国立舞踊劇場」、そして 「ハンガリー国立オペラハウス」 などがある。

 近年、ZDAは舞台芸術コミュニティの主要メンバー(アーティスト、プロデューサー、ディレクター、技術者など)と密接に連携し、多目的ホールや芸術施設の未来のニーズを深く探求している。この取り組みにより、建築の柔軟性や可変性がいっそう進化し、技術的にも卓越した水準を達成している。

21名のシンガーのパフォーマンスで出迎える

360度スクリーンの映像と最新音響、照明が伝統と融合

 ハンガリー・パビリオンは、実際の音楽体験を核にした振り切った構成になっていて、そこがいい。実際に演じられるシアタースペースは、直径約15mの円形空間になっていて、ドレープがはられており、そこに穴が開いていて、裏にある照明機器からの光が差して来るのが幻想的だ。演奏自体は7分、15間隔で行われ、1日43回演じられている。歌手のドレスは真っ白で、ハンガリーの伝統衣装をイメージして作られている。

 このシアターでは、万博会期中に8000回を超えるパフォーマンスが行われる予定で、21名のシンガーが交代で出演する。毎回のライブが一期一会で、何度訪れても新たな感動に出会える、特別な空間となっている。

 SNSでも感動の投稿が多数あり、Xでは「#HungaryPavilion」「#TavasziSzel」がトレンドになることも。 「Tavaszi szél vizet áraszt」は、ハンガリーの代表的な民謡で、19世紀初頭に農村で歌い継がれてきた。シンプルなメロディと五音音階(ペンタトニック)が特徴で、日本人にも親しみやすい。

 その歌詞は以下の通り。

「Tavaszi szél vizet áraszt(春の風が水を満たす)」

春の風は水を満たす 私の花よ、愛しい人よ

鳥たちも皆、伴侶を選ぶ 私の花よ、愛しい人よ

私が選ぶのは誰 私の花よ、愛しい人よ

あなたは私を、私はあなたを 私の花よ、愛しい人よ

 春の訪れとともに自然が目覚め、愛やパートナーシップを求める若者の心情を歌ったラブソング。春の風が川を溢れさせ、花が咲き、鳥がパートナーを選ぶように、人間も愛を求める様子を詩的に表現している。「Virágom(私の花)」は、ハンガリーの民謡でよく使われる愛称で、恋人や大切な人への親しみを表している。ハンガリーの農村文化では、春は再生と希望の象徴であり、歌詞は自然のサイクルと人間の感情をリンクさせ、シンプルだが深い共感を呼ぶ。

 ハンガリー・パビリオンの中心テーマは民族音楽で、プレス資料には以下のように説明されている。

「民謡にはハンガリー人の価値観や豊かな自然が表現されており、ハンガリー人の国民性そのものが映し出されています。民謡から着想を得たデザインの空間を散策しながら、ハンガリーの美しい自然を知り、民謡から響いてくる自国への愛着を感じ取っていただけます。一般的な情報提供のみならず、音楽の生演奏も体験できます」

 シアタースペースでは、万博期間中、184日間、毎日10時間、いつでも生演奏を楽しむ事が出来る。開催期間中は、パビリオン以外でも、万博会場内の様々なスポットで50以上の民族音楽、クラシック、ポップスや文化等のイベントが行われ、多様なハンガリー文化に触れる事が出来る。

公式写真より

公式写真より

公式写真より

公式写真より

公式写真より

公式写真より

公式写真より

 シアタースペースへ続くうす暗い回廊では、木の幹を思わせるデザインやハンガリーの森をイメージした香りが漂い、特別な雰囲気を作り出している。来場者を万博会場のにぎわいから切り離し、これからの体験へと自然に気持ちを導いてくれる空間になっているのだ。

 展示エリアの中心となっているのは、積層ガラスのアート作品。そこにはハンガリーの有名な民謡「春の風が水を満たす」の歌詞が7ヵ国語で刻まれている。また、障子を透ける光に代表される日本の「光と影」の美学からもインスピレーションを受けており、両国の文化が響き合う象徴となっている。

 そして日本とハンガリーの二つの文化をつなぐのが、普遍的なことばである「音楽」の力である。日本でも知られるコダーイ・メソッドの「音楽はすべての人のもの」という考え方に基づき、パビリオンでは民謡を文化紹介の中心に据えている。回廊に流れる柔らかな五音音階(ペンタトニック)の音楽は、シアタースペースでの演目ともつながっており、日本の伝統音楽にも共通する響きを持っている。その共鳴が、両国の間に特別なつながりを感じさせてくれる。

●「ミシュカ」キッチン&バー

 ハンガリーの食文化を知ってもらうことは、ハンガリー・パビリオンの大きな目的のひとつ。パビリオンの2階には、伝統的ハンガリー料理を提供するビストロ・スタイルのレストランがある。ハンガリーの伝統的な食材を使った料理に合わせて、プレミアム・ハンガリーワインや、そのワインをベースとした「フルッチ」(ワインのソーダ割)を楽しむことができ、上質な食体験が体験できる。

 総料理長を務めるのは、料理人歴40年のヴィダーク・ゾルターン氏。地中海料理やアジアの食文化にもインスピレーションを受け、伝統的な料理に現代的なアレンジも加えている。有名レストランで得た経験と知識を次世代シェフの育成にも役立てている、と言う。

公式写真より

公式写真より

公式写真より

公式写真より

公式写真より

 レストランへ上がる階段や廊下には、ハンガリーが生んだルービック・キューブや新型コロナワクチンを作る技術を研究していたカリコ・カタリン氏、日本との関係など面白いイラストが壁画になっていて楽しい。

 お土産のグッズも、ハンガリーならではの愛嬌のある楽しいものがそろっている。

東アジア地域からのハンガリーへの訪問者数は増えている

 ハンガリーは2024年、観光で過去最⾼の実績を記録した。年間で1800万⼈以上の観光客が訪れ、宿泊数は4400万泊を超えた。ブダペスト空港の年間旅客数も1760万⼈を突破している。さらに2025年の統計では、特に東アジアからの旅⾏者が前年⽐で37%増加しており、今後さらなる成⻑が期待されている。

 ナジ経済⼤⾂は、今回の大阪・関西万博への取り組みについて、次のように述べている。

「ハンガリー・パビリオンの⽬的のひとつは、我が国への旅⾏意欲を喚起し、ハンガリーの魅⼒を発信することです。2025年の第1四半期には、東アジア地域からの訪問者数が2024年の同時期と⽐較して40%増加いたしました。このような背景から、私たちは⼤阪万博への出展が、同地域からの観光客誘致をさらに促進するものと確信しております」

 ハンガリーは⽇本にとっての戦略的パートナーであり、二つの国は156年にわたる外交関係を背景に、経済・政治⾯での緊密な協⼒関係を築いている。ハンガリーは2025年に、⼤阪に新たな総領事館を開設予定である。

■ハンガリー・パビリオン公式サイト

 https://expo2025.hu/ja/

■大阪・関西万博公式サイト

 https://www.expo2025.or.jp/

『大阪・関西万博 攻略MAP ウォーカームック』

発行:株式会社角川アスキー総合研究所

発売:株式会社KADOKAWA

発売日:2025年06月30日

定価:1078円 (本体980円+税)

ISBN:978-4049112665

サイズ:A5判/84ページ

詳細はKADOKAWAサイトへ

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■関連サイト

  • EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
  • 大阪・関西万博公式 イベントカレンダー
  • KADOKAWA公式サイト「大阪・関西万博 攻略MAP ウォーカームック」