路線拡張、再開発…鉄道業界「未曽有の変革期」

鉄道輸送に頼るビジネスモデルは終わりを告げている(写真:PIXTA)

「鉄道業界は今、変革期に突入している」

【図表】鉄道各社の大型再開発&路線拡張

鉄道各社の首脳は、口をそろえてそう語る。この背景には、新型コロナ感染症のパンデミックがあった。

コロナ禍によって人流が途絶え、鉄道利用者が激減すると、各社の業績は軒並み悪化した。とくに鉄道事業への依存度が高い企業ほど、その打撃は深刻だった。

コロナ禍前は営業収益に占める運輸事業の比率が6割を超えていたJR東日本については、2020年度に5203億円、21年度に1539億円もの営業赤字に転落した。喜勢陽一社長は「当初5年先、10年先とみていた経営環境の変化が前倒しで到来した。鉄道の利用客が大幅に減少したことで経営の脆弱性が表面化した」と話す。

一方、多角化を進めていた会社はコロナ禍の影響が軽微だった。東急はホテルや不動産事業などを多角的に展開し、運輸事業比率が2割を切っていた(19年度)。20年度に316億円の営業赤字を計上したものの、運輸以外の事業が支え翌年には黒字回復を果たした。

独自性が問われる時代に

コロナ禍が明らかにしたのは、経営の多角化の必要性だけではない。この先は少子高齢化が進む中、鉄道利用者が減り続けるうえに、鉄道運営を担う作業員の不足も懸念される。さらに、資本の効率性を重視する株式市場からの圧力も強まっている。

成長投資に消極的な私鉄大手はアクティビスト(物言う株主)の標的となった。京成電鉄にはパリサー・キャピタル、西武ホールディングスには3Dインベストメント・パートナーズ、京浜急行電鉄には旧村上系ファンドが大株主として名を連ねる。

取り巻く経営環境が大きく変わり、従来のビジネスモデルは通用しなくなったというわけだ。小田急電鉄の鈴木滋社長は語る。「かつては鉄道などの交通事業を核とし輸送力を増強するというモデルで成長してきた。しかし人口減少が進む今では、各社がそれぞれの強みに合わせてビジネスモデルを多様化させていく時代になった」。

各社は、新たな収益源を求めて新領域の開拓に力を注ぐ。JR東日本は会社発足以来の組織改革を断行し、生活関連分野の事業拡大を目指す。JR西日本はリアル事業とデジタル領域の連携を掲げ、新しいスマホ決済サービスに乗り出した。

鉄道需要の掘り起こしを模索する動きもある。JR東海は大事業であるリニア中央新幹線の建設工事に邁進中だ。

大型再開発や路線拡張を急ぐ

各社の連携や競争も深化しつつある。西武とJR東日本は観光客を呼び込むため、28年度をメドに直通運転を開始。小田急と西武は観光事業の強化をもくろみ、日本有数の観光地である箱根で観光客誘致の競争を繰り広げる。

渋谷や新宿、池袋といったターミナル駅では大規模再開発が進行中だ。ただし課題が山積する。駅前再開発では工事が遅延する異常事態が起きている。

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鉄道会社には交通インフラを担う公共性、とくに安全性の確保が求められる。他方、民間企業として持続的な成長を目指す事業性も追求しなければならない。さらに昨今は、資本の効率性も要求されるようになった。

経営のバランスをどのように取っていくかが大きな課題といえる。本特集では各社の新しい挑戦と課題を深掘りしていく。