山田邦子が親友と決別した時。「同じ夢を追っていたんです」

学生時代に青春をともにした友人と、50代でも60代でも、さらにもっと年を重ねても、会うことがあるだろうか。

山田邦子さんは、8月20日から銀座の博品館劇場にて上演する舞台『ジャニス』の主演をつとめる。5年間の活動ののち解散した伝説のガールズバンドが、仲間の死によって再度集まることとなることから物語が始まる。山田さんはガールズバンドのなかでもひとり行方知れずと言われていた「ジャニス」を演じている。

山田さんといえば、学生時代にピン芸人としてデビュー、ゴールデンの冠番組をはじめ、毎週レギュラー14本も抱え「天下を取った唯一の女芸人」と言われている。しかし実は学生時代にお笑いをはじめたときは同級生との「コンビ」だったのだ。

山田さんにライターの田中亜紀子さんがインタビューをする第1回では、学生時代からデビューして売れっ子となり、寝る時間もなくなって死にたいと思った時のことをお伝えした。第2回では冠番組がなくなったのち、突然はじまった大バッシングの体験や乳がんになったときの話を聞いた。

第3回ではコンビを組んでいた「女ともだち」について聞く。

インタビューは『ジャニス』稽古場にて行われた 撮影/栗原朗

山田邦子(やまだくにこ)   

1960年東京生まれ。1979年から芸能活動をはじめ、1980年デビュー曲「邦子のかわい子ぶりっ子バスガイド編」で有線大賞新人賞受賞。「オレたちひょうきん族」で人気が出て、「邦ちゃんのやまだかつてないテレビ」「邦子にタッチ」など多くの冠番組を持ち、1988~1995年NHK好きなタレント調査で8年連続1位という男女合わせても記録保持者である。乳がんになった経験から、その啓蒙のためのチャリティー活動を行う「スター混声合唱団」を設立。2020年YouTube「山田邦子 クニチャンネル」を開設。2025年「日本喜劇人協会」会長に就任。

「M-1」を機に若い世代の芸人とも仲間に

「65歳の今、友人づきあいもとても楽しいです。  

私の場合、ピン芸人だったので、忙しかった時は本当に一人で、正直孤独でした。でもがんになってからは、友人に心配してもらったありがたさや、人によって生かされる感覚というのがわかったので、前より友人づきあいを大切にするようになりました。学生時代からの友人、仕事の友人だけではありません。最近は、M-1グランプリの審査員をやらせてもらったことで、若い世代の芸人さんと知り合う機会ができ、おもしろいことを一緒に始めたりね。また、がんのチャリティー活動の『スター混成合唱団』にも、いろいろな方が賛同して参加してくれて、日々の連絡だけでも、すごいことになっています」

舞台「ジャニス」のテーマの一つが“女ともだち”だ。若い頃ガールズバンドを組んでいたけれど、解散して30年たった現在、一人のメンバーが亡くなったことで、残りのメンバーが集まるところから始まる。バンド解散後は、それぞれが違う境遇になっているが、山田さんが演じるジャニスだけが、ずっと音信不通。アメリカでかっこいい仕事についているのではという噂が出ている謎の人物だ

「この作品の“ガールズバンドをしていた”という設定が、音楽に助けられてきた私には、すごくうれしいです。音楽って、あの時失恋したけど、この曲聴いて元気になったなとか、この曲で励まされた、救われた、というのがありますね。わたしはこの、バンドで共に活動していた仲間が解散し、時を経ての再会というのが『刺さる』んです」

学生時代、「のりこ・くにこ」のコンビで大人気だった

実は山田さんには、親友とのほろ苦い思い出がある。

「私には、中学からの親友だったのりこちゃんという存在がいました。のりこちゃんは、かっこよくって、竹内まりやの物まねも上手くて生徒会長。私はちょっと不良のデコボコした組み合わせで、ものすごく気があったんですね。二人でネタを考えて一緒に漫才して、『のりこ・くにこ』を結成し、学校のみんなの前で芸を披露して大ウケしてね。短大に入ったら、私たちの短大の隣の駅だった早稲田大学の『寄席演芸研究会』というお笑いのサークルをのりこちゃんが探してくれて、一緒に入会。先輩たちに鍛えられ、早稲田祭でも私たちは人気がありました。

私は当時から、将来お笑いの方に行きたかったんですね。のりこちゃんは音楽も好きでバンドも組んでいたけど、いつも一緒に漫才をしていたので、一緒にデビューできると思い込んでいた。サークルを見つけてきたのも彼女だったから、私も勘違いするじゃない? そうしたらのりこちゃんは、実は幼稚園の先生になりたかったので音楽のほうへの想いが強く、『えーっ?お笑いは趣味でしょっ』と言われて。

ショックでしたね。ずっと一緒に青春をすごして同じことを考えていると思っていたのに、違ったのかと。一番近くにいる人と違うことを考えていた、違う夢を持っていたんだということにひっくり返るほど驚いてしまって。それからしばらく落ち込んで、時間があると泣いてました。そこでのりこちゃんと決別し、私は一人でデビューしたんです。でも、ピン芸人になったから、使い勝手もよくて大人気になったのかもしれないし、人生はわからないですね。

撮影/栗原朗

のりこちゃんはそれから幸せな結婚をして、今、お孫さんにも囲まれて本当に素晴らしいお母さん、おばあちゃんになられてるんです。でも、時を経て会っても、パッと、昔と同じ立ち位置に立つんですよね。その時、のりこちゃんが,『私ももっと学校で、ふざけてればよかったわ』って言ったので、私ってふざけてたんだなと。それに、楽しそうだったって言ってくれてなんだかうれしくてね。

実は早稲田の寄席演芸研究会のOB会があって、先輩たちと来年公演を復活することになったので、1回一夜かもしれないけど、久々にのりこちゃんにも声かけてみようかなと思ってます

学生時代の他の友達との今も付き合っています

子供のころから、あるいは青春を共にした友人とは不思議なもので、いくら時を隔てていても、全く違う人生を歩んでいても、会った瞬間さまざまな物が融けていく。

「学生時代の他の友達とも今も付き合っています。同級生はみんな同い年だから、やっぱり健康のこととか、家族のこと、親のことで話が合う。うちは、主に同居していた弟が介護していた母が2年前に亡くなって、介護は終わりましたけど。そんな話も、『ああ、うちもそうだったよ』とか。みんな似たような体験をしていますからね。介護認定は早く取った方がいいとか、手すりを早くつけた方がいいとか、早めに経験してる奴らが助けるというか、意見を言ってくれるから、それぞれが助かるというのはありますね」

撮影/栗原朗

「ジャニス」に登場する元ガールズバンドのメンバーは、30年後の50代半ば、主婦だったり、売れないタレントを続けていたり、経営者になっていたり。亡くなった一人のメンバーは、かなり年下の恋人がいて、バーを経営しながら娘を育てていたなど、境遇はさまざま。山田さん演じるジャニスは、行方不明で、アメリカでかっこいい仕事についていたという噂だったが、実は人知れず、仕事も家庭もさまざまな苦労をしていたことが明らかになる。

当たり前だけど、友人たちもそれぞれ会えない間にも人生は続いているんですよね。自分は自分だけど、他人もみんな自分で主役。どの人にも人生はあって、知らないところで結構頑張ってたり、大変だったりする。この舞台の登場人物もみんな、かっこ悪いなと思うことでも歯を食いしばってがんばっていて。だから見に来た方が、誰かに自分はこれだなって刺さって,泣いて笑って最後に元気になるようなことになればいいかな,と思います。

私が演じるジャニスは、謎めいたところが気に入っていますが、どこまでふざけて演じられるかで、最後のところのしみ方がかわってくると思うので、そのあたりが難しいです。今回は共演者の方たちがとても演技がすばらしいので、私も勉強させていただきたいと思っています」

◇インタビュー第4回は8月20日公開予定です。