丸亀製麺「香川県内で圧倒的大敗?」の根本要因

丸亀という文言が入っているのに、香川県でなぜ苦戦しているのか? 香川県にルーツを持つ、ライターの宮武和多哉さんが解説します。写真は丸亀製麺の商品(筆者撮影)
「セルフうどん」業態において、全国的に独走を続けている丸亀製麺。しかし、全国で唯一、香川県だけ「はなまるうどん 14店舗 丸亀製麺 1店舗」と、大きな差がついている。しかも、過去に3店を出店したにもかかわらず、2店が閉店。現在では1店しか残っていないのだ。
【画像】丸亀製麺の苦戦の要因は「はなまる」の他にも…香川県内の最強「うどんチェーン」たち
香川県は「はなまるうどん」創業の地でもあり、既存の個人店や「はなまる」に常連客をつかまれていることも大きい。かつ、手厳しい香川県民によっては味の面で「丸亀製麺は讃岐うどんではない」と評価することもあり、丸亀製麺は環境的に極めて不利であることは間違いない。
ただ、香川県で丸亀製麺が差をつけられる、というより敬遠される要因は、もっと根本的な部分にある。
「丸亀vsはなまる」に当てはまらない香川県 真の王者は「〇〇〇製麺」?

全国の「そば・うどん店」事業者数ランキング。他県と違って、香川県はほぼ「うどん店」だ(香川県政策部統計調査課資料より)
まず、「そもそもの競争相手が多すぎる」こと。
香川県内には約800~900軒の讃岐うどん店があり、人口1万人あたりの「そば・うどん店」の事業所数は全国平均の約2.6倍。統計に含まれていない場合もある「製麺所併設店舗」を含めると、実際の“うどん店密度”はさらに多いだろう。

「こだわり麺や」は香川県内で14店を営業する(筆者撮影)

「こだわり麺や」うどん・カレー。価格帯的には「はなまる」のライバルでもある(筆者撮影)
今ではチェーン店も多く存在する
さらにチェーン店としても、香川県内には「こがね製麺所」(22店)、「こだわり麺や」(14店)ほか「さか枝」「さぬき麺業」「たも屋」「うどん市場」などがひしめく。
これらのチェーン店がなかったころは「はなまるうどん」(14店)が「小ぎれいなファストフード的うどん店」としてオンリーワンの支持を得ていたものの、現状では丸亀製麺がつけ入る隙がないどころか、「はなまる」ですら安閑としていられない。

丸亀製麺の「海鮮旨塩うどん」。920円(筆者撮影)
輪をかけて、丸亀製麺が敬遠されやすいのは「圧倒的な価格帯の差」だ。
個人店・製麺所の多くは自宅併設・家族経営の低コストで、値上げラッシュの今でも、うどん一杯で200円台~400円台。丸亀製麺は高額なメニューも多く、フェアメニューだと900円台にもなる。
高単価商品・フェアメニューの強化が、丸亀製麺の圧倒的な利益率と企業体力の獲得につながったことは間違いないが、足を運んでみないことには「ただの高い店」だ。
また、「1回くらい行ってみようかな?」と考える人でも、多くの人々が「かけ100円」(醤油をかけただけなら60円・80円の場合も)だった時代を知っているため、丸亀製麺の価格帯だと、どうしても足が遠のいてしまう。本来なら家族・グループでの外食好きな香川県民でも、うどんに関しては「そんな金払うなら、他の外食に行く」のだ。
なお、閉店した丸亀製麺のうち「イオン高松」フードコート内の店舗(旧:トリドール運営の「亀坂製麺」)は「こがね製麺」(セルフうどん店)に転換、いまも盛業中。栗林公園店も近隣にはガスト・ココス・ケンタッキーなどのチェーンストアが連なるものの、うどん店は若干手薄なはず(松家・谷本・植田・雅やなどはとうに閉業している)。
やはり「うどん店に向かない」ではなく、「丸亀製麺は、上手くいかなかった」と見るべきだろう。

(筆者撮影)

高松市の飲み屋街にある「鶴丸」。豊富な夜メニューとおでんで、夜の利用客の支持が絶大(筆者撮影)
また、香川県ではほとんどの人々が朝・昼しかうどんを食べず、個人・家族経営店の多くは、昼過ぎに店を閉めてしまう。しかし全国チェーンの丸亀製麺は、マニュアルそのままに夜営業に踏み切らざるをえず……夕方~夜営業はかなり来客が少なかったと聞いており、経営面では相当に不利であっただろう。
こういった難点を克服するために、夜営業を行う店舗は「ビール最初の一杯で天ぷら一品無料」「酒が進む一品料理を出す『うどん居酒屋』化」(鶴丸・えん家・さぬき麺之介など。高松市内にかなり多い)など、いろいろな施策を打っている。
しかしなぜか、丸亀製麺はほぼノープランのようで、閉店した店舗でも特別な策を打っていたとは聞かない。他県より圧倒的に不利な状況で、あがくことなく営業していれば、顧客を獲得できず閉店するのも当然だろう。

はなまるうどんの新業態「手打ちと創造」の南側に「丸亀製麺」の店舗が見える(筆者撮影)
唯一生き残る店舗の特徴とは?
ただ、丸亀製麺が出店した3店のうち、「高松レインボー通り店」だけは2025年現在も生き残っている。
店舗がある高松市多肥町は幹線道路沿いのロードサイドにあり、ここ十数年で小学校の児童数が900人→1200人に増加するほど、郊外の宅地として発展が著しい。かつ県外からの転勤族も多く、ロードサイド立地の外食全般になじみ深い客層でもあり、価格高めな丸亀製麺のプライスゾーンにも一定の理解があるだろう。
地元の方々に聞いたところ、目の前にある「はなまるうどん多肥店」より混雑していることも多く、それなりににぎわっているようだ。「はなまる」は高松市への本社移転・店舗改装プロジェクト出店にともない、セルフ業態ではない「手打ちと創造」にリニューアルしており、真正面からのバッティングではなくなった。
丸亀製麺も、これほどの好条件が揃っている場なら、生き残れるのではないか。むしろ、ここでダメなら、香川県内のどこに出店できるのか?……「丸亀製麺・高松レインボー通り店」の今後を、静かに見守りたい。
ただ実は、丸亀製麺が香川県で出店できない理由はもうひとつあり、経営姿勢が何度も蒸し返される要因ともなっている。「単価の高さ・ライバルチェーンの多さ」「営業上の問題」よりも、県民感情的にある意味深刻な「過去の商標問題」について触れよう。
丸亀から来たうどん店に「丸亀の看板を降ろせ」?尾を引く「商標独占」騒動

丸亀製麺の1号店・加古川店(筆者撮影)
まず、事の次第を整理しよう。
丸亀製麺は2011年のハワイ進出からアメリカ・北米への出店を進めており、商標登録「MARUKAME」を取得した。この名称はあくまでも地名・うどんや小麦の産地(香川県丸亀市)であり、各国とも地名での商標取得に至らないケースも多いものの、ここはアメリカとあってそのまま取得に至ったようだ。
ここに、丸亀市のうどん店で修業した職人の方が、ロサンゼルス・日本村プラザ近くに個人経営のうどん店「丸亀もんぞう」を出店した。その後の次第を、自らロサンゼルス入りして指導を行ったという「丸亀もんぞう」師匠筋にあたる関係者は、ラジオ(エフエム香川「うどラヂ」2013年6月28日放送)でこう語っている。
「やっと軌道に乗り出してお客さんも増えてきた矢先に、内容証明付きで『丸亀もんぞう』は商標権に触れると。『丸亀製麺』の丸亀が同じものをロゴとして使っとるじゃないかと。1カ月以内に看板や、あらゆる文章から丸亀という表記を外せと。こういう内容証明がきた」
いわば、丸亀市から特産物の「うどん」を引っ提げてアメリカ進出した個人店に、地元出身ではない商標が取れただけの企業が「『丸亀』の名前はうちが独占する」と、内容証明付きで圧力をかけたようなものだ。その後程なくトリドール側から「今後この件に関してアクションを起こさない」とコメントが出され、事態はいったん収束に向かっている。

丸亀製麺の店内に飾られている讃岐富士(飯野山)の写真(筆者撮影)
ただ実際、トリドール側のコメントは「判断が間違っていた」ではなく「この件ではアクションを起こさない」であり、先述のラジオでは、紛争が解決したことに、関係者が涙声で安堵の声を漏らしていた。
同様の事態が生じた場合、天下のトリドールホールディングスを相手取って係争を起こそうという個人の経営者がいるとは思えず、「トリドールは自分と所縁もないローカルブランドを勝手に使って、商標で圧力をかけてくる会社」という恐怖だけを残して、問題を終結させたようなもの。
まったく丸亀に所縁のない業者ならいざしらず、圧力をかけたうえに「今後アクションを起こさない」で済ませるのは、「解決」なのだろうか……という印象を、少なくない香川県民が抱くことになってしまったのだ。
また、トリドールはそれまで、「ざるうどんの竹すだれのカビ発覚→1カ月放置後に騒ぎになってから謝罪」「明らかに無理がある多量出店・多量撤退」など、外食企業として規模拡張に走りすぎた危なっかしい面が、たびたび露呈していたことも否めない。
もともと「こんな“がっついた”会社に『讃岐うどん』ブランドを背負わせて大丈夫なのか?」と懸念を持たれていたところに、「地名独占」ともいえる行為が発生したからこそ、同情的であった人々ですら不信感を持つような事態を招いたのであろう。

香川県・讃岐広島にある丸亀製麺の研修施設「心の本店」。フェリーで40分少々の離島にある(画像:丸亀製麺)

「讃岐饂飩職人祭」の様子(画像:丸亀製麺)

香川県丸亀市「純手打うどん よしや」。讃岐饂飩職人祭にも参加している(筆者撮影)
丸亀製麺は以前よりも大きく成長している
もっとも、丸亀製麺のほうも、昨今では讃岐うどんに対するポジティブな取り組みも増えてきている印象だ。
例えば香川県・讃岐広島に研修施設を構え、丸亀市と包括連携協定を結んだうえでの地域貢献も積極的に進めている。次世代の若手うどん店経営者と手を組んだ「讃岐饂飩(うどん)職人祭」などで、「今の讃岐うどん文化」に積極的に触れていることも注目に値する。
何より、「丸亀製麺」の現場の方々が真摯に店を営まれ、各店の営業のクオリティが昔より格段に上がっていることも見逃せない。あくまで筆者の体感だが、香川県内には「丸亀製麺」よりまずい店はいくらでもあり、丸亀市に実店舗がないことも、香川県発祥でないのに「讃岐うどん」を掲げていることも「そこまで騒ぐことではない」と感じる方も今では多いはずだ。
ここは、商標登録の一件だけでも過去を振り返るメッセージを発信して、「弱小な個人店に大企業が圧力をかけて終わり」ではない、真の問題解決を試みたほうがいいのではないか。もしそうしたとしても、これで丸亀製麺の香川県内の出店が進むようになるとはあまり思えないが、それでも過ぎたことで禍根を残したままにするよりは、よほどいいと筆者は考えるのだ。