脱毛「ミュゼプラチナム」運営のMPH、"破産の顛末"

MPHが運営していた「ミュゼプラチナム」(帝国データバンク撮影)
全国で直営167店舗を展開していた美容脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を運営する「MPH」(東京)は、8月18日に東京地裁より破産手続き開始決定を受けた。今年5月に元従業員などから破産を申し立てられていたが、裁判所が同社の破産手続き開始を判断した。
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MPHによると、負債総額は債権者約123万3000名に対し約260億円に上る。脱毛サロンの倒産としては、「エターナルラビリンス」運営の「グロワール・ブリエ東京」(負債97億7200万円、2017年3月破産)を上回り、過去最大の規模となった。
なお、「ミュゼプラチナム」の商標権や運営権については、MPHとは別法人の新設会社である「ミュゼ・メディア・HD」が保有・管理し、「どこでもミュゼ」のFC展開をはじめ、ミュゼブランドを継承していることをプレスリリースしている。
破産手続き開始決定までの顛末
昨年9月に設立したばかりのMPHは、脱毛サロン「ミュゼプラチナム」の4社目の運営会社だった。「ミュゼプラチナム」のこれまでの歩みをたどると、運営会社やその株主がめまぐるしく変わり、そのたびに取引先やユーザーが振り回され続けてきた。
最初の運営会社は、2002年8月に設立された「ジンコーポレーション」(旧商号、福島)。同社は、人気タレントを起用した積極的な広告で脱毛ブームの火付け役となり、2014年8月期には年収入高約386億円を計上していた。しかし、2015年に経営不安の報道が広がるなか解約が急増し、実質的に経営破綻に追い込まれた。
「ミュゼプラチナム」の事業は2015年に別法人へ譲渡され、スポンサーである「RVH」(現・東証スタンダード)の子会社となった。その後、2020年にRVHが事業撤退を決め、「たかの友梨ビューティクリニック」のオーナーが主要株主である「G.Pホールディング」(東京)が新たな親会社になった。
しかし、運営を引き継いだ会社は事業多角化やコロナ禍の影響で経営不振に陥り、AV機器メーカー「船井電機」の持ち株会社が2023年4月、関係会社を通じて運営会社の全株式を取得した。しかし資金繰りは改善せず、船井グループは2024年3月に株式を売却。同年5月に別法人に全事業が承継され、株主も変わっていた。
その後も苦しい資金繰りが続くなか、株主が再度株式を売却し、2024年9月に設立されたMPHへ全事業が承継された。しかし、承継前の旧会社に残された債務は放置され、旧会社が社会保険料を滞納していたため、日本年金機構がMPHの売掛金を差し押さえていた。
このため売り上げがMPHに入らず、従業員に対する給料や取引先への支払いが2024年11月以降、たびたび遅れていた。2025年2月には幹部と株主の間で内紛が表面化し、経営権をめぐって係争となったことで給料が支払われない状態となり、店舗運営にも支障を来すなか3月下旬から全店舗が休業に追い込まれていた。
会員へのサービス継続を図り、業務委託による新業態「どこでもミュゼ」の展開を4月から進めていた。こうしたなか、5月16日に元従業員などから東京地裁へ破産を申し立てられ、8月18日に破産手続き開始決定を受けた。
2025年の脱毛サロン倒産件数は過去最多更新か
帝国データバンクの調査では、2025年1~7月に倒産した「脱毛サロン(医療クリニックを含む)」は12件を数えた。前年同期(4件)の3倍増のペースで、年間合計でも過去最多を更新する見込みとなった。

(帝国データバンク提供)
脱毛事業を中心に展開する事業者の業績をみると、2024年度は約4割が赤字となり、「減益」を含めた「業績悪化」割合は56.5%と半数を超えた。6割を超えた2023年度(61.2%)からは低下したものの、依然として厳しい収益状況にある脱毛サロンが目立つ。

(帝国データバンク提供)
近年、「銀座カラー」や「アリシアクリニック」が倒産
2023年以降、「銀座カラー」や「アリシアクリニック」、2025年には「トイトイトイクリニック」など、知名度の高い脱毛サロン・クリニックが相次いで破産に追い込まれた。これら倒産した脱毛サロン・クリニックの多くが、若年層を主なターゲットとし、コースでの契約を主としながら多額の前受金が入ることで事業拡大を進めていた。
しかし、いちど手にした前受金も集客のため広告費に回した脱毛サロン・クリニックも多い。結果的に新規会員からの契約が減少したことで自転車操業に陥り、「契約通り支払ったのに施術が受けられない」利用者の被害が拡大する要因となった。
出店の多い都市部では賃料が上昇しているほか、円安の影響で輸入品が多い脱毛器具の導入費用が高騰し、1店当たりの出店コストも上昇している。スタッフの離職率の高さや採用難により、研修コストを含めた人件費も高止まりした。
昨今の物価高の影響もあって、「消費者が美容支出を控える動きが強まった」との指摘もある。施術の効果や価格、口コミなどを事前に細かく確認するなど、業界各社に対する利用者の不信感も高まっている。そのため、売り上げを下支えする既存客のリピート率や定額会員の継続率が低下し、新規顧客の獲得にも苦しむサロン・クリニックが少なくない。
脱毛サロン・クリニックの多くは足元で、3つの大きな課題に直面している。
まずは、価格破壊だ。美容脱毛から医療脱毛にトレンドが移るなかで医療脱毛の相場は「かつての半分以下になった」と言われる。美容脱毛はさらに低い価格帯にしなければ、集客が難しい状況を余儀なくされている。
次に、消費者が使う金額には限度があるということだ。脱毛は、化粧品や食品のように何度もリピートするものではない。20代のときに医療脱毛がいちど完了している女性は以後、脱毛漏れがない限りサロン・クリニックに通う必要がそもそもない。
このため、現在は顧客ターゲットが低年齢化しているほか、未開拓だった男性向けに商機を見いだすサロン・クリニックも多い。女性脱毛専業では成長が望めないことに気づき、美容医療や総合美容を展開する事業者が増えている。
3つ目は、前受金ビジネスであることだ。新規顧客を呼び込むための広告費がかさみ、自転車操業に陥りやすいことは前述したとおりだが、まさに今こうしたビジネスモデルそのものが曲がり角を迎えている。
同業者間の競争と淘汰はしばらく続くだろう
あらためて脱毛サロンの歴史を振り返ると、同業者間の競争と淘汰の連続だった。
知名度やイメージが新規獲得に直結するため、芸能人を起用した広告を出し続けなければならない。先行して膨らむ広告宣伝費に加え、ライバル店に負けない立地の良さも不可欠となることから、多額の出店コストも経営の重荷になりやすい。
少子化が進むなかで体力勝負のこうした消耗戦が続けば、ビジネスモデルと資金繰りが限界に達した脱毛サロンから、次々と破綻に追い込まれるのは必然といえる。競争と淘汰の結果として、多数の消費者が被害に巻き込まれる事態は今後もしばらく続きそうだ。