茨城県知事選挙 「令和の米騒動」の後に「大離農」が始まるのでは… 若手不足、農地集約に打開策は?
9月7日に茨城県知事選が投開票される。交通、農業、原発をキーワードに、県が直面する課題を考えてみた。
(左から届け出順に)大井川和彦さん、田中重博さん、内田正彦さん
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五行(ごぎょう)川の恵みを受け、見渡す限りの広大な水田が黄緑色に染まる。9月の収穫を控え、高さ1メートルほどに育ったイネが風に揺られて左右になびく。米どころ・茨城県筑西市で農業法人「山善農園」を営む杉山善昭さん(40)は「令和の米騒動もいずれ終わる。今は良くても、先の見えない不安がある」と漏らす。
◆「さすがに高すぎる」米価は、何年も続かない
21歳の時、父から山善農園を継いだ。高齢化などで離農する農家から農地を請け負ううちに、管理する水田は約110ヘクタールまで広がった。新型コロナ禍で米価が急落した時は「作っても赤字になるだけ」。肥料代や燃料代などの高騰も響き、「米価が安いときは、誰も何も言わない。一生懸命頑張っている農家がつぶれていくのを何度も見てきた」と振り返る。
「令和の米騒動後」への不安を口にする杉山善昭さん=筑西市で
令和の米騒動で米農家を取り巻く苦境は一変し、JAによる玄米の買い取り価格は倍以上に跳ね上がった。1000万円を優に超える農機具の更新など、将来に向けた投資も前向きに考えられるようになった。しかし、「さすがに高すぎる」と感じるほどの米価が何年も続くとは思っていない。
◆「先行きを見誤れば、農家は大けがをする」
米価の変動に左右されない経営を目指し、米と米以外(大豆や小麦)をほぼ均等に栽培してきた。国が行った生産者への意向調査によると、県内では今年収穫分の主食用米の作付面積が例年にない伸びを見せているが、米の比率を1割ほど高めるにとどめた。
高架上を走るつくばエクスプレス=つくばみらい市で
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政府が米の増産にかじを切り、今後は生産量の増加が見込まれる。杉山さんは「先行きを見誤れば、農家は大けがをする恐れがある。次に米価が大きく下がったときに大離農が始まるのではないか」と懸念する。
国が増産の号令をかけても、県内では販売目的で営む米農家が激減しているという現実もある。県によると、2020年は個人、団体合わせて約3万3000で、10年前に比べると4割も減った。担い手の確保が急務だが、2023年度は米や大豆など穀物を育てる新規就農者が19人で、前年度から半減している。
◆持続可能な農業へ、今こそ議論を
山善農園は従業員約10人のうち半数が60代以上で、若い人材の確保に苦労している。「『きつい』『忙しい』『低収入』などのイメージで、若者の選択肢には入れていない」と杉山さん。県に対して、若者に農業の魅力を伝える啓発や、雇用者側と就農希望者をつなぐ役割を期待している。
農家の減少が避けられない中、県は集約が図れそうな農地の地権者や生産者のマッチングに取り組んでいるが、まだまだ道半ばだ。杉山さんも周囲の生産者らに農地の交換や貸与を打診しても、なかなか思うようには進まない。農地集約の意義が十分に理解されていないと感じており、県には理解を広げる取り組みの強化を期待している。
安い米が当たり前に消費されてきた「米騒動前」に疑問を感じてきた杉山さんは「世間がようやく、米や農家のあり方に関心を向けるようになった。今こそ、持続可能な農業に向けた議論を深める好機だ」と訴えている。(佐野周平)
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