三菱商事、洋上風力撤退で秋田・千葉はどうなる?中西社長「インフラは地域共生こそが成功の鍵」

三菱商事は秋田・千葉県沖で進めていた洋上風力発電事業から撤退することを正式に発表した。
三菱商事は8月27日、撤退が報じられている千葉県、秋田県沖の3海域の洋上風力発電所の建設計画について撤退することを正式に発表した。
同日の緊急記者会見は三菱商事の本社の会議室で開かれた。報道各社の担当記者、テレビ局関係者など数十名が参加していたが、先行報道が出ていたこともあり、その場の空気は落ち着いたものだった。
会見の冒頭で、三菱商事の中西勝也社長は
「取り得るさまざまな手を尽くして検討してまいりましたが、21年5月に応札(入札に参加)して以降の事業環境の変化において、開発継続は困難との判断に至ったものであります。
特に地元の皆様からはご期待、激励も含めていろんな形でいただいておりましたが、このご期待に添えぬ結果となったことを心より申し訳なく思います」
などと、撤退に至った背景と現地自治体に対する謝罪の言葉を語った。
3海域から完全撤退、損失は「大部分計上済み」

三菱商事は政府の洋上風力事業の第一弾で公募された3海域の事業を落札していた。
三菱商事は、2021年12月に中部電力グループのシーテックらとともに政府が第1段で公募していた秋田県能代市・三種町及び男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖の3海域の洋上風力発電所の開発事業を落札。建設計画を進めていた。
今回三菱商事らが撤退を決めた3海域で想定されていた洋上風力発電所の出力は、合計で約170万kW(1.7GW)にのぼる。

三菱商事が建設計画していた洋上風力発電所の立地、出力、供給価格。入札時に他陣営よりも強気で提案した供給価格の安さが、結果として建設費の高騰といったコスト高を吸収できなかったとみられている。
2021年の落札時には他陣営より安い供給価格が評価された一方で、コロナ後の需要回復や2022年のウクライナ危機、インフレや為替の変動など、外部環境が大きく変化し、コストが膨らんでいった。
外部環境が変化するなか、三菱商事は2月に「事業性を再評価する」と発表。2025年3月期決算では、洋上風力発電事業で合計524億円の減損を計上しており、夏までに結果を公表するとしていた。

三菱商事の中西勝也社長。記者会見では、質疑のほとんどを中西社長が対応した。
当然三菱商事としてもこの間、何もしてこなかったわけではない。中西社長によると、風車メーカーの変更や工法の見直し、工程の短縮など、さまざまな対策を講じてきたというが、「2倍以上の水準」(中西社長)にまで膨らんだ建設費を賄えるまでには至らなかった。
収益面での工夫にも限界があった。事業期間を当初想定から延長したり、もともと想定していたFIT制度からFIP制度に乗り換えて売電したりすることも検討したというが、「これらが実現した場合においても、事業機関における総売電収入より、保守運転費用を含めた総支出の方が大きく、実現可能な事業計画を立てることは困難との結論に至った次第です」(中西社長)という。
なお、三菱商事は中部電力系のシーテックらは合同会社を通じて保証金約200億円(日経新聞によると)を積み立てており、この資金は政府に没収されることになる。同社によると、この損失分は2025年3月期で計上した524億円の損失に含まれており、今回の撤退に伴う追加での損失は「限定的」だとしている。
他方、中部電力は同日、2026年3月期の連結収支において170億円程度の損失が生じる見込みだと発表している。