「老人ホーム入居費用が足りない…」頭を抱える娘たち→認知症の母の“古い記憶”がきっかけで、亡父の「遺族年金」が増額。賄えたワケ【社労士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)
終わりが見えない親の介護。在宅介護の限界から施設という選択肢を考えたとき、重くのしかかるのが費用の問題です。社会保険労務士の河原優美子氏も認知症の母親の入所で資金の壁に直面しました。しかし、当の母親が口にした“古い記憶”。それが、母自信の老齢年金と亡父の遺族年金を増額させるきっかけとなったのです。今なお1,600万件以上も存在する「消えた年金」。あなたの両親の記録にも、まだ請求できる大切なお金が眠っている可能性があります。今回は、同氏の著書『知らないと損する!お金の手続き』(ごきげんビジネス出版)より、介護の際に使える国の制度と、年金にまつわる注意点についてみていきましょう。
親の介護は「7年~10年」続く…生活を守るための「施設」という選択肢
いざ介護が必要になったときどうするか。両親の介護についても考えなければいけません。
私の母親は認知症になり、ひとり暮らしができなくなったため、施設に入所しました。姉妹で相談し、自宅での介護には限界があること、自分たちの仕事と家事の両立などを考え、母親の年金だけで施設の支払いができるのか、自分たちが仕事を辞めたときに自分たちの老後資金はあるのか、などいろいろな問題があります。
介護はいつまで続くかわからないのです。おおよそ7年から10年といわれています。やはり現状の自分たちの生活を守りながら母親の介護をするには、施設に入所することでした。仕事先に近い施設でしたので、仕事の帰りに寄って、洗濯物を受け取り、様子を伺う毎日でした。認知症では、名前を思い出さないこと、いつも同じことの繰り返しでしたが、介護士というプロがいることで安心でき、現状を受け入れることができました。
介護保険の要介護認定を受けると、施設や介護費用、リハビリなどの支払いの負担が軽減されます。
親が亡くなる前に確認したい、「消えた年金」を取り戻す方法
両親の年金だけで生活できるかどうかで、私たち世代の老後資金にも影響が出ます。あなたの両親の年金漏れはありませんか?
「宙に浮いた年金」「漏れた年金」などと騒がれていたこともありました。私の両親にも「宙に浮いた年金」が見つかり、年金をもらえるタイミングからさかのぼってもらえたおかげで、施設の費用を賄え、その後の年金額も増えたのです。亡くなっていた父の年金記録が見つかりました。父の分を含め、未払い分として受け取れました。あなたの両親にも「宙に浮いた年金」があるか、確認してみてください。亡くなったあとでは本人と確認できなくなり、損をしてしまいます。
私の母は軽い認知症を患っていましたが、過去のことはしっかりと覚えていました。自分の勤めていた会社と亡くなっていた父の会社名も思い出したのです(なれそめまで聞けました)。過去の会社名を覚えていたため、年金記録の訂正や手続きを行った結果、母の老齢年金が増額となりました。さらに、母が受け取っている父の遺族厚生年金も増額されました。宙に浮いた年金記録は未だ1,689万件(令和6年9月時点)見つかっていません。亡くなったあとの手続きで判明することがあります。
いまからでも遅くありません。年金の加入記録を確認してください。
年金は“あと払い”…年金受給者が亡くなると、必ず「未払い」の年金が出る
年金の受け取りはあと払いの制度です。たとえば4・5月分は6月15日に振り込みされます。6月10日に亡くなった場合は、6月(4・5月分)に受け取る年金と6月分が未払い、つまり受け取っていないのです。6月1日に亡くなった場合も日払いではないため、ひと月分の年金が受け取れます。
年金を受け取っているひとが亡くなった場合は、必ず未払いが出るのです。亡くなったひとの通帳を解約しなかったり、金融機関に報告せず通帳をそのまま(本来亡くなったことを金融機関に説明し、通帳の受け取りと支払いを止めますが、金融機関に連絡しないまま)にしていることもあります。
その通帳に年金が支払いされていて、亡くなったあと年金を受け取っていても手続きが必要です。年金の死亡届と、未払いの年金を誰が受け取るのかを申請しなければいけません。遺族年金請求、年金受給者の死亡届、未払い分の請求、などを年金事務所で手続きを行ってください。
未払いの年金受け取りは相続とは違い、亡くなったひとと生計維持関係のある3親等内の親族(相続人とならない嫁)が受け取ることもできます。年金を受け取らないまま亡くなった場合には、国民年金の保険料を36か月以上支払っていた場合に一時金の支給があります。
《ポイント:厚生年金保険には一時金の制度はない》
〇申請手続き介護保険証の返却やマイナンバーカード(健康保険証)は市区町村役場、年金を受け取っていた場合は年金事務所へ、未支給(死亡届)遺族厚生年金手続き。
〇年金加入中に亡くなった場合厚生年金の加入があった場合は年金事務所、国民年金加入のみの場合は市区町村役場または年金事務所。
医療費+介護費が高すぎる…「高額介護合算療養費制度」で負担軽減
後期高齢者医療制度は75歳(一定の障害がある65歳以上)になると自動的に加入します。高齢者の医療費負担の割合は原則1割(所得に応じて2~3割)負担です。年金や介護保険と同じように、現役世代が高齢者を支える仕組みになっています。
医療費が高額になった場合は高額療養費制度があります。高額な医療費がかかったとき、後期高齢者医療と介護保険を利用し、介護費用も高額医療制度を利用してもなお、その合算が依然として高額になるケースもあるのです。そこで高額療養費と介護保険の自己負担額を合算し、その結果が一定の金額を超える場合には、高額介護合算療養費として支給されることになります。これによって高齢者が医療費と介護費用の負担が減り、より安心して生活を送れるようになるでしょう。
[図表1]高額介護合算療養費制度 出典:全国保険協会ホームページをもとに著者作成
医療保険、介護保険、年金…親の死後は、それぞれ「個別の手続き」が必要
亡くなった場合、その手続きがそれぞれ必要です。市町村役場で医療保険手続き、介護保険手続き、などがあります。市町村役場においては1か所で手続きができるところもあり、医療保険や介護保険などそれぞれの窓口で手続きをします。年金事務所で亡くなったひとの年金手続きが必要です。
[図表2]年金の手続き 出典:『知らないと損する!お金の手続き年金・社会保険・介護で困らない制度』(ごきげんビジネス出版)より抜粋
市区町村役場によっては、死亡届を出したあとに必要な手続き一覧表を出すところもあります。私も母親が亡くなったときに、同じ市役所のなかをそれぞれの担当する窓口を回って手続きをしました。
河原 優美子
社会保険労務士
※本記事は『知らないと損する!お金の手続き年金・社会保険・介護で困らない制度』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THEGOLDONLINE編集部が本文を一部改変しております。