サッカー界を揺るがした金銭スキャンダル6選

ヤスダグループのジャパンツアー不払い問題(2025), アトレティコ・マドリードの公金流用事件(1987-2003), イタリアの八百長スキャンダル「カルチョーポリ」(2006), オリンピック・マルセイユの八百長事件(1993), ASモナコの税制問題とFFP違反(2010年代)

ユベントス(左)アトレティコ・マドリード(右)写真:Getty Images

サッカー界における金銭トラブルは、クラブ運営や国際大会の裏側で度々問題となり、ファンや関係者に衝撃を与えてきた。

ここでは、今年7月に話題となったヤスダグループのジャパンツアー2025(レアル・ソシエダ、スタッド・ランス)の不払い問題を含む、サッカー界の代表的な金銭スキャンダルを紹介する。

ヤスダグループのジャパンツアー不払い問題(2025), アトレティコ・マドリードの公金流用事件(1987-2003), イタリアの八百長スキャンダル「カルチョーポリ」(2006), オリンピック・マルセイユの八百長事件(1993), ASモナコの税制問題とFFP違反(2010年代)

ヴィッセル神戸 サポーター 写真:Getty Images

ヤスダグループのジャパンツアー不払い問題(2025)

日本代表MF久保建英が所属するレアル・ソシエダや、日本代表FW中村敬斗、日本代表MF伊東純也、元日本代表DF関根大輝を擁するスタッド・ランスのジャパンツアーを企画したヤスダグループが、7月26日のバルセロナ対ヴィッセル神戸(ノエビアスタジアム神戸)で金銭トラブルを引き起こした。

韓国企業との共催だったこの試合で、ヤスダグループは前払金の不払いや偽造書類提出。一時試合中止の危機を招いたが、楽天の金銭的支援により試合は開催された。神戸市も加わった実行委員会が企業版ふるさと納税を通じた出資もあったチャリティーマッチだったため、中止となれば行政を巻き込んだ大問題に発展していた可能性がある。

ヤスダグループは「子供に夢を与える」理念を掲げるが、CEOの安田慶祐氏は「安田財閥の末裔」を自称しつつ、過去には訴訟や口座差し押さえの経験がある。業界内では実態が不明瞭な企業との評判で、今回の事件は日本サッカー界の信用をも揺るがす前代未聞の金銭トラブルとなった。

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アトレティコ・マドリード 写真:Getty Images

アトレティコ・マドリードの公金流用事件(1987-2003)

スペインの名門アトレティコ・マドリードは、1987年から2003年まで会長を務めたヘスス・ヒル氏(2004年に71歳で死去)の下で、1995/96シーズンにリーグとカップ戦の2冠を達成したが、裏では深刻な金銭スキャンダルが進行していた。

建設会社を経営し、マルベーリャ市長でもあったヒル氏は、市の公金をクラブに不正流用し、個人や関連企業の資金とクラブ資金を混同させていた。

2002年、株式不正取得や公金横領で有罪判決を受け、罰金や執行猶予付きの刑が科された。その後、2003年に会長を辞任。クラブは一時、裁判所指名の管財人管理下に置かれ、2000/01から2シーズン2部降格を経験するなど経営危機に直面した。

この事件は、ワンマン経営によるクラブ私物化の危険性を示す典型例として知られる。

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ユベントス 写真:Getty Images

イタリアの八百長スキャンダル「カルチョーポリ」(2006)

2006年、FIFAワールドカップ(W杯)ドイツ大会直前にイタリアサッカー界を揺るがした「カルチョーポリ」は、ユベントスのGMルチアーノ・モッジ氏(当時)を中心に、審判割り当てへの不正介入が行われた事件である。

盗聴された会話記録から、ユベントスが有利な審判を割り当ててもらうよう工作していたことが発覚。ミランやラツィオ、フィオレンティーナ、レッジーナなど複数クラブも関与した。

ユベントスは2004/05、2005/06シーズンのスクデット(リーグ優勝タイトル)を剥奪され、セリエBへの強制降格処分を受けた。他クラブも勝ち点剥奪などのペナルティを科され、イタリアサッカー界全体の信頼が揺らいだ。

この事件は、トップクラブによる組織的な不正の実態を露呈した典型例として知られる。

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オリンピック・マルセイユ 写真:Getty Images

オリンピック・マルセイユの八百長事件(1993)

フランスの名門オリンピック・マルセイユは、1992/93シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)で優勝したが、同シーズンのリーグ戦での八百長が発覚。ベルナール・タピ会長主導の下、リーグ戦最終戦の対戦相手ヴァランシエンヌの選手を買収した上で、主力を温存しCL決勝に備えた。

これにより、マルセイユは1992/93シーズンのリーグタイトルを剥奪された。タピ氏はその後、脱税も発覚し実刑判決を受け、サッカー界から追放された。

また、1993/94シーズン途中には主力選手のほとんどが移籍していき、チームも翌1994/95シーズンのリーグドゥ(2部)降格が決まったことで、MFドラガン・ストイコビッチ(1990-1994)も契約延長を拒否。

ストイコビッチは、ユーゴスラビア代表として1992欧州選手権スウェーデン大会出場を決めていたものの、内戦と分離独立運動によって、国際試合参加禁止の制裁により出場権を剥奪され(代替国のデンマークが優勝)、モチベーションを失っていた。「半年間」と期限を決めて欧州を離れることを決断し、その行き先こそが名古屋グランパス(1994-2001)だった。しかし、半年どころかキャリア最長となる7シーズンもの間名古屋に在籍し、2度の天皇杯優勝に貢献。監督として2008シーズンに舞い戻ると、2010シーズン、クラブを初のリーグ優勝に導いた。

仮にマルセイユの事件がなければ、この出会いはなかったかも知れない。

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ASモナコ 写真:Getty Images

ASモナコの税制問題とFFP違反(2010年代)

モナコ公国に拠点を置くASモナコは、所得税が存在しないタックス・ヘイブンの利点を利用し、選手獲得で優位性を持っていた。しかしフランスの他クラブから不公平との批判を受け、この問題を解決するため、フランスプロサッカーリーグ連盟(LFP)と交渉を行った。

2014年、ASモナコは「加盟に伴う分担金」として、リーグに対して5,000万ユーロ(当時のレートで約70億円)を一括で支払うことで合意に至り、引き続きフランスリーグで戦う権利を維持。これは不正行為ではないのだが、国を跨いだリーグ・アン特有の歪みを金銭で解決した特異なケースと言える。

また、ロシアの大富豪ドミトリー・リボロフレフ氏が2011年にクラブを買収後、多額の投資でスター選手を獲得したが、UEFAのファイナンシャルフェアプレー(FFP)規定に違反。2019年に罰金処分を受け、クラブは若手育成・売却モデルに転換した。

さらにはサッカー界にまつわる内部告発サイト「フットボール・リークス」が、ASモナコの移籍取引やリボロフレフ氏の資金運用に関する不透明な実態を報じ、同氏には別件で司法への介入や不正資金操作の疑惑も浮上。いわゆる「モナコ・ゲート」と呼ばれるスキャンダルへ発展した。

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FIFA 写真:Getty Images

FIFA汚職事件(2015年)

FIFA(国際サッカー連盟)を舞台にした2015年の汚職事件は、ワールドカップ開催地選定や放映権ビジネスでの巨額賄賂が発覚した前代未聞のスキャンダルだ。

ジャック・ワーナー副会長ら複数の幹部が2010年の南アフリカW杯開催国選定に絡み、南ア政府などから賄賂を受け取ったことが発覚。スイスの司法当局により7名の幹部が逮捕され、アメリカ司法省に起訴された。ゼップ・ブラッター会長も同年6月に辞任を表明し、その後倫理委員会から資格停止処分を受けた。

FIFAの腐敗体質が世界に露呈し、組織改革が求められた。現在のジャンニ・インファンティーノ会長は改革を進める一方、収益拡大策として2026年の北中米W杯やクラブW杯の出場枠拡大を推進したが、これも新たな批判を招いている。

サッカー界の金銭トラブルは、クラブ経営の私物化、八百長、税制問題、組織的腐敗と多岐にわたり、ファンや関係者に失望を与えてきた。日本では稀だが、ヤスダグループのケースは透明性と監視が不可欠ということを思い知らされた出来事だった。ファンの立場であっても、サッカーの魅力を守るため、金銭の流れを注視し続ける必要がある。