破産、違法開発…ニセコを買う外国人投資家の今

外資に買われている別荘地, 「公売」から落札にいたった物件も, 目に付く「FOR SALE」の看板, 売り出し中の土地「外国人を強く意識」, リゾート施設の建設会社が破産, 適正な開発を担保する対策を

ニセコで起こっていることとは(写真:Mayumi.K.Photography/PIXTA)

円安でアジアの資金が日本の不動産に向かっているといわれる。タワマンは外部から見ただけではわからないが、リゾートは屋外にあるので状況がわかりやすい。

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この町で何が起きているのか、オフシーズンのニセコを訪ねた。

外資に買われている別荘地

パウダースノーで国際的にも人気が高い北海道・ニセコ地区のスキー場。なかでも人気が高いニセコひらふスキー場は、今年の地価公示で最寄りの調査地点の地価が10%近く上がり、コロナ禍からの回復が見られる。

そんな同スキー場の周辺にある別荘地が外資に買われているが、最近は失敗する例もあると聞いて、地元の倶知安(くっちゃん)町に向かう。

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まず、庁舎の入り口脇にある「掲示場」を見て驚いた。外国人の名前と住所が並んだA4サイズの紙がびっしりと貼ってあったのだ。

香港、シンガポール、アメリカ、韓国、オーストラリアなどの国の人たちの情報が並び、時々、そこに日本人も交じる。最近では目にしないような個人情報の固まりだ。

外資に買われている別荘地, 「公売」から落札にいたった物件も, 目に付く「FOR SALE」の看板, 売り出し中の土地「外国人を強く意識」, リゾート施設の建設会社が破産, 適正な開発を担保する対策を

倶知安町役場。奥にはニセコひらふスキー場があるニセコアンヌプリが見える(写真:筆者撮影)

外資に買われている別荘地, 「公売」から落札にいたった物件も, 目に付く「FOR SALE」の看板, 売り出し中の土地「外国人を強く意識」, リゾート施設の建設会社が破産, 適正な開発を担保する対策を

公示通達が重なるように貼られた倶知安町役場の掲示場(写真:筆者撮影)

「公売」から落札にいたった物件も

これは、地方税法に基づいて住民税や固定資産税などの納税通知書を送っても届かない人を掲示することで、法的に送達したとみなす 「公示送達」の手続きだった。

その一角には「公売」の公告もあり、ひらふスキー場から数キロの範囲にある4つの物件が並んでいた。

所有者を調べると、いずれも東京都新宿区の不動産会社で、バブル期の1988年に買っていたが、すでに会社は解散していた。この会社も連絡がつかなかったために公示送達を経て、公売から落札にいたったと見られる。

その物件の住所を訪ねると、そこは比較的広い場所に開かれた別荘地だった。砂利道が通り、雑木林になっている区画もある。家はまだ3分の1程度しか建っていないが、リゾート地らしいしゃれた建物が多い。

あちこちから家を建てる音が聞こえてきて、工事車両が忙しく行き交っていた。バブル景気で途中まで進んだ開発が、40年近くを経て息を吹き返しているような光景だった。

後日、登記簿で確認すると、公売にかけられた4物件のうち2物件を地元の会社が落札していた。代表取締役は中国系と見られる名前だった。

目に付く「FOR SALE」の看板

別荘地を出てひらふスキー場の周辺の道を走ると「FOR SALE」と書かれた看板が目につく。ところどころに道路脇から雑木林に入っていく道があった。

入っていくと、両脇に分譲地が造成されるミニ開発が行われていた。車がすれ違える程度の一本道で、突き当たりは車がUターンできるように丸く広がっている。

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山林の中に続く工事用の通路(写真:筆者撮影)

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「FOR SALE」の看板。ニセコ地区の各地でみられた(写真:筆者撮影)

その1つは、1970年代から千葉県の不動産会社が保有していたが動きがなく、2017年に札幌の会社が買った。社長の名前はカタカナで記されている。ここは、2018年暮れから2019年に分譲された。

雑木林に入る道路は私有地で、分譲地を買った人たちが共有している。登記簿には購入者の名前が並んでいる。分譲地は10区画あり、シンガポールの個人と香港の個人で1区画ずつ。租税回避地として有名なイギリス領バージン諸島にある4法人が5区画、国内の3法人が3区画を所有している。

国内の3法人のうち2法人は、区画を買う2018年12月の直前に大阪市のマンションの同じ部屋に設立された。当時の代表者は同一人物で、住所は香港にある。

翌年、2法人は同時に東京都足立区のマンションに本店を移転した。次いで2023年、1法人の代表者が香港の別の人に代わり、元の代表者は取締役も辞任した。同時に本店を倶知安町の現地に移した。会社株式の売買によって実質的な所有権が移った可能性がある。

残る1法人は東京都内に本社を置き、代表取締役は中国北京市から2019年に都内に住所を移した。

このうち、香港の個人が所有する土地については、倶知安町が2023年8月と2024年9月の2回にわたって差し押さえた。固定資産税などの税の滞納が続いている可能性がある。今後も滞納が続くと公売になるかもしれない。

売り出し中の土地「外国人を強く意識」

この場所は特別な場所ではない。周辺には一本道のミニ開発だけでなく、比較的広く切り開かれた山林もある。

売り出し中の土地に立てられた説明板には、「Building Coverage Ratio(建ぺい率)」と書かれているなど、英語表記が多い。眺望を示す説明には、ひらふスキー場があるニセコアンヌプリの方角を指して「MT.ANNUPURI」と、反対にある蝦夷富士とも呼ばれる羊蹄山を指して「MT.YOTEI」と書かれている。ニセコの自然にひかれる外国人を強く意識していることがわかる。

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蝦夷富士とも呼ばれる羊蹄山。ニセコ地区のほとんどの場所から望むことができる(写真:筆者撮影)

こうした開発が進む場所は、高度成長期に別荘地などとして開発が手がけられたところも多く、古い家屋が壊れた状態で放置されている区画も散見された。

法務局の「公図」の上ではきれいに区画されている場所が、行ってみると沢になっていて、登記簿に高度成長期に売買された記録が出てきた。

現地に詳しい人は、「日本人はほとんど手を出さない。リゾートマンションが乱立したあげくに暴落した新潟県の湯沢のようになることが心配だ」と話す。

リゾート施設の建設会社が破産

しかし、残念なことに第2の湯沢の徴候はいたるところに見える。

今年4月には、ニセコ町の羊蹄山のふもとでホテルを中心としたリゾート施設を建設していた東京の会社が、東京地裁から破産手続開始決定を受けた。代表者名などから中国系と見られている。

調査会社の東京商工リサーチによると、地元ゼネコンへの不払いが発生し、ゼネコンが破産を申し立てた。破産管財人の弁護士によると、事業を継続する会社が決まったという。

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公売にかけられた別荘地。すでに解散した会社の名義で長期間放置されていた(写真:筆者撮影)

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法務局にある公図上では区画があって道路もあることになっている沢(写真:筆者撮影)

ひらふスキー場にあるホテルでも、2022年に地元のゼネコンが外資系のホテルを仮差し押さえした。今年5月には倶知安町もこの差し押さえに参加している。

倶知安町は2022年に「倶知安の未来へつなぐ景観まちづくり条例」を制定して、景観保護に取り組んでいる。しかし、6月には羊蹄山の南山麓の山林を許可無く伐採し、建築確認申請もせずに建物を建てたことなどが発覚した。報道では、中国系の企業の事業とされる。

こうした事業者に北海道は、申請がなかった建物に対しても安全性を確認して追認するなど、対応が甘いという指摘も出た。結局、道は6月、事業者に開発行為の中止要請をすることになった。

鈴木直道知事は6月の道議会で、「今回の事案を踏まえ、海外の投資家が国内法や条例などを遵守するよう、国に対し、申し入れを行った」と答弁した。

適正な開発を担保する対策を

法令を守らない企業はもってのほかだが、無秩序な開発が進めば景観は台無しになる。外国人から高い評価を受けたことで、ニセコは国際リゾートとして発展した。外国人の視点を入れることでさらなる発展も期待できることだろう。

一方で、連絡もつかない投資家が増えることは、国際的な所有者不明土地問題を生むことにつながる。外資を意識した適正な開発を担保する対策が必要ではないか。

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破産した東京の会社が建設していたホテル(写真:筆者撮影)

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リゾートホテルを開発していた会社が公開していた完成イメージ図(インスタグラムより)