右肩痛で復帰メド立たない佐々木朗希に強まる逆風 「信頼関係を築けない行動」と批判された理由
大谷翔平(ドジャース)が、マウンドに戻ってきた。右肘の手術から野手として出場しながらリハビリを進め、6月16日(日本時間17日)のパドレス戦で663日ぶりに登板した。連打を浴びた後に犠飛で先制点を許したが、投球内容は想像以上に良かった。直球は最速161キロを計測し、スイーパー、ツーシームのキレ味も抜群。変化球を引っかけた場面が度々見られたが、登板を重ねれば解消できるだろう。打っては2安打2打点の活躍で勝利に貢献した。
現地で取材するスポーツ紙記者は驚きを口にする。
「当初の復帰予定は後半戦とみられていましたが、大谷が実戦で投げられるということでロバーツ監督がゴーサインを出した。今後はイニング数を伸ばしていくことになりますが、凄味を感じるのが強靭な肉体です。野手との二刀流で体にかかる負担は大きいのに、徹底した体調管理で常人離れしたパフォーマンスを発揮している。昨年は投手のリハビリ期間なのに、野手として出場して史上初の50本塁打50盗塁を達成しました。タフな選手であることを改めて感じますね」
大谷が投打で見せる活躍が楽しみな一方、現地で逆風が強まっているのがチームメイトの佐々木朗希だ。
■「今季は佐々木なしでやるのが現実的」
佐々木は昨年オフにポスティング・システムを利用して20球団以上の争奪戦の中、ドジャース入り。今年の開幕から先発ローテーションに組み込まれたが、8試合登板して1勝1敗、防御率4.72。直球が走らないため、変化球を見極められてカウントを苦しくした末に痛打を浴びる。不安定な投球が続いていたが、5月9日のダイヤモンドバックス戦の登板後、右肩インピンジメント症候群で負傷者リスト(IL)入りした。
早期復帰が期待され、5月下旬にキャッチボールを再開したが、患部の状態が芳しくないため、6月にノースローに逆戻り。復帰のメドが立たない状況で、ロバーツ監督は「今季は彼なしでやるぐらいの覚悟もしておくべきだろう。それが現実的な考えだと思う」と発言。今季は2カ月弱の稼働で終わる可能性が出てきている。
■球速が出ないのも右肩の故障のせいか
右肩インピンジメント症候群とはどのような症状か。プロ野球の元トレーナーが説明する。
「骨同士や軟骨、靱帯の衝突やこすれが原因で右肩に痛みが走るのですが、MRI検査では明確に損傷が確認されないことがあり、個々の投手によって症状は異なります。早期復帰できる場合があれば、いつまでも痛みが引かずに長期化するケースがある。佐々木はロッテ時代も右肩インピンジメント症候群を発症していたと聞きました。球速が出ない原因はこの故障が原因でしょう」
佐々木はロッテ時代からケガでの離脱が多く、在籍5年間で一度も規定投球に到達したシーズンがない。メジャーで春先から先発ローテーション入りした際、「故障のリスクが高いのでは」と懸念した球界関係者は多く、今回のIL入りにも日本では「やっぱり」という反応が多い。
■「ドジャースに必要なのか」
だが、現地の反応は違う。米国メディアでは佐々木の争奪戦となった際、「直球が常時160キロを超える剛腕」、「大谷匹敵する逸材」などと大々的に報じられた。蓋を開けてみれば前半戦を終える前に期待外れの結果で戦列を離れたことに、批判の声が多い。
「日本の野球ファンが想像している以上に、佐々木への逆風は強まっています。ドジャースは注目度が高いチームなので、地元メディアやファンが求める水準が高い。SNS上では『佐々木は想像していた投手と違う。ドジャースに必要なのか』『いつまでも面倒を見られない。本来のパフォーマンスが発揮できないなら来年以降はトレード要員になる』などといった識者の書き込みが見られます」(前出のスポーツ紙記者)
日本人投手がメジャー挑戦1年目で故障することは決して珍しくない。日本と米国でボールの大きさや滑りやすさが違うため、肩、肘に掛かる負担が大きい。山本由伸は移籍1年目の昨年、ポストシーズンの活躍でワールドチャンピオンの原動力になったが、シーズンは右肩痛で長期離脱し、投球回数が90イニングにとどまった。大谷も二刀流に挑戦したエンゼルス初年度の10年に右肘の内側側副靱帯を損傷し、登板は10試合で51回2/3にとどまった。
■「もっと周囲とコミュニケーションを」
メジャーリーガーの代理人は「故障したのは仕方ない。佐々木はその過程での立ち振る舞いが良くなかった」と指摘する。
「以前から右肩に痛みを感じながら投げたことを明かしていました。チームに迷惑を掛けたくないと責任感の強さで我慢したのかもしれませんが、患部の状態が悪化する前にストップをかけるべきです。トレーナーやコーチに報告しないと信頼関係を築けない。ドジャースはメジャー屈指の医療体制が敷かれています。マウンドで最高のパフォーマンスを発揮するためにも、一人で抱え込まずにもっと周囲とコミュニケーションを取るべきです」
佐々木はIL入り後の会見で、2登板前から痛みがあったことを明かすとともに、「けが人が多い中で僕も離脱してしまって、申し訳ないなという気持ちです」と語っている。チームの先発陣に故障者が多いため、佐々木は痛みがあるのに無理をして登板を続け、症状を悪化させた可能性がある。だが、これはメジャーでは美談ではなく、プロ意識がないとして信頼を失う行為だ。
先発のコマ不足が深刻だったドジャースだが、光が差し込んできている。右肩の炎症で4月下旬に負傷者リスト入りしたタイラー・グラスノーはライブBP(実戦形式の投球練習)で登板し、後半戦での実戦復帰を目指している。サイ・ヤング賞を2度受賞するなど実績十分の左腕ブレイク・スネルは左肩炎症でIL入りしていたが、投球練習を再開した。昨年トミー・ジョン手術を受けた25歳右腕のエメット・シーハンは、6月18日のパドレス戦で1年9カ月ぶりにメジャーのマウンドに復帰した。そして大谷もいずれローテーションに入ってくるだろう。
佐々木は焦らずコンディションを回復することが肝心だ。失った信頼を取り戻すには、マウンド上で結果を出すしかない。
(今川秀悟)