閉店ラッシュに陥るサンマルクを救った《ウルトラCの離れワザ》…「カフェからの脱却」で業績は爆上がりへ
大手カフェチェーン「サンマルクカフェ」を運営するサンマルクホールディングスの業績がここへきて大きく上向いている。
直近(2025年3月期)の決算書から同社の損益状態を見ると、連結の売上高は708億円(前期比+9.8%)、営業利益に至っては36億円(前期比+39.1%)と大きく数字を伸ばした形だ。
この主要因には、一時と比べて通常の経済活動に落ち着いたこともあり、客数の増加が計画を上回ったことが挙げられるが、サンマルクには他にも大きな要因があった。それが、'24年11月に実施した「牛カツ」2業態の買収である。
牛カツチェーンの《二大巨頭》と称される、「牛かつ もと村」と「京都勝牛」。この2業態の買収は、サンマルクにとってさらなる成長の起爆剤となるのか――。
もはや「カフェ」の企業にあらず

サンマルクカフェ公式プレスリリースより引用
ベーカリーレストラン「サンマルク」から始まった、1989年創業の外食チェーンであるサンマルクHD。同社の知名度を全国区へと伸し上げたのは、言うまでもなくサンマルクから派生させたカフェ業態の「サンマルクカフェ」だ。
サンマルクカフェはカフェチェーンにおいて、独自のポジショニングによって、その地位を確立したことで知られる。すなわち、価格帯ではスターバックスコーヒーより低く、それでいて「チョコクロ」など豊富な焼き立てパンを取り揃えており、品数はドトールなどよりも多い。
かくして成長を遂げてきたが、カフェチェーン市場での競争が一層激化してきたことが、近年では店舗数が減少。サンマルクHDも、事業再構築の必要性に迫られていた。
現在、同社の事業別売り上げ構成は、4割がカフェ事業、6割がレストラン事業となっている。すでに比率上ではカフェよりもレストランが上回っているが、さらなる成長に向け、レストラン事業に経営資源の配分度合を高めていくつもりなのだろう。
その一環として、サンマルクHDが打って出たのが、今まで空白の領域だった“和業態”への参入、すなわち、「牛かつもと村」と「京都勝牛」の買収だった。
牛カツを買収した「メリット」とは
「牛カツ」という業態については後述するが、まだまだ発展途上にあるものの、マーケット・ポテンシャルは高いと、サンマルクHDは判断しているに違いない。
今回の買収によって、同社の傘下に入るブランドは以下の通り。サンマルク38、サンマルクカフェ285、倉式珈琲店49、鎌倉パスタ207、そして牛かつもと村30、京都勝牛86などで、総店舗数は870店舗(直営813店舗、FC57店舗)である。

「京都勝牛」公式プレスリリースより引用
これまで扱ってこなかった和業態への参入ということで、今回の買収を懐疑的に見る意見も無いわけではないが、サンマルクHDのメリットは非常に大きいはずだ。
メリットの一つ目はブランドポートフォリオの最適化だ。多種多様なカテゴリーごとにブランドを揃えて顧客の囲い込みを狙うのは、外食チェーンを扱うグループ企業にとっては必要不可欠になっている。
ただでさえ、国内は少子高齢化と人口減少が同時に進行している社会構造だ。縮小する国内需要をインバウンド客が救うといった構図においては、外国人にも大人気の牛カツ業態で事業を補強するのは、まさに時代に即した一手と言えよう。
買収のメリットは他にもある。シナジー効果の創出だ。
価格競争より付加価値で勝負
サンマルクHDのグループ全体の費用構造を見てみると、主要コストである原価率は物価高騰の影響から前期の24.3%から0.6%上昇しているものの、それでも標準値である35%を約10%も下回っている。これは、原価管理技術が卓越しているだけではなく、傘下の各ブランドの価格政策も一因だ。
「少し高くても価値のある料理が食べたい」という顧客ニーズに対応し、あえて少し高めの価格設定でプチ贅沢の需要を取り込めているように推察できる。つまりは、各ブランドとも価格競争に埋没しない「付加価値創造型」の業態開発が功を奏しているようだ。

サンマルクカフェ公式プレスリリースより引用
外食事業は、商品力(価値ある商品)×販売力(接客サービスの質的向上、快適な雰囲気の提供など)である。したがって、非価格競争で付加価値を追求する業態は原価が低めとなる。
ともすれば、今回買収に至った牛カツ2業態も、既存のブランドと同様、価格競争をするよりは、付加価値を追求する業態と言えるので、グループ内でのシナジー効果は非常に高い。具体的にはスケールメリットによるコスト削減や、管理業務の効率化が望めるはずだ。
実際、今期('26年3月期)の第一四半期(4月~6月)では、前年同期比で売上高+34.5%、営業利益+46.6%と、著しく伸ばしており好調そのもの。今期の通期では、売上高810億円(前期比 プラス14.3%) 、営業利益45億円(同 +23.5%)を見込んでいるが、のれん等償却前営業利益は66億円を想定しているから、すでに買収効果の大きさも表れている。
ここで気になるのが、サンマルクHDは、数ある和業態のうち、なぜ比較的ニッチな市場と言える牛カツ業態を、それも2社まとめて買収したのかだ。結果的には買収効果はあったものの、当然、財務リスクの不安はあったはず。
つづく【後編記事】『《牛カツはオワコンか、それとも救世主か?》サンマルクが「もと村」「勝牛」ダブル買収にこだわった理由』では、牛カツ業態よる事業の補強にこだわった背景を紐解いていく。