「相手の心を開く」ため言葉にするべき“たった1つのこと”【人を動かす3大原則】

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成功をつかむには「この人の力になりたい」と思われる人物になることが大事だ。相手の心を開き、関係を次のステップへと進めるために、まず何をすべきなのか?D・カーネギーの歴史的名著『人を動かす』をベースに、著者が信頼関係の築き方を指南する。※本稿は、一木広治『人望という技術 カーネギーに学ぶ人に好かれる習慣』(主婦の友社)の一部を抜粋・編集したものです。
周囲が「助けたい」と
思うのはどんな人か?
私は、今まで実に多くの人に助けられてきました。なぜ、その多くの人たちは、私に協力してくれたのだろう、と振り返ってみました。
カーネギーも繰り返し説いているように、優れたロジックや正論よりも、「この人のためなら」「この人となら」という感情のほうがはるかに強く人の心を動かします。
多くの場合、人は「相手が困っているから」助けるのではありません。「助けたいと思える相手だから」手を差し伸べたくなるのです。これは、カーネギーの3大原則のひとつ、「相手の『やりたい気持ち』を引き出す」にも通じます。

同書より転載
では、周囲が「助けたくなる人」とは、どんな人でしょうか?
その鍵こそ、私は「コンセプト」にある、と考えています。
コンセプトというと、企画趣旨やアイデアそのものを思い浮かべる人も多いかもしれません。けれど、ここでいうコンセプトとは、「何を信じ、どんな未来を目指しているのか」という、もっと根本的な旗印のようなものです。
たとえば、二十一世紀倶楽部(編集部注/1987年に著者が仲間たちと設立した異業種交流団体。21世紀における人材創りが目的)が掲げた「混迷の時代に新しい物差しをつくる」というコンセプトが、まさにそれです。
若者自身が問いを立て、未来を考えようとする姿に、多くのレジェンドが共鳴してくれました。
“旗印”のもとに同志が集まれば
次にやるべきことが見えてくる
なかでも、衆議院議員だった中川昭一さんは、二十一世紀倶楽部のコンセプトに深く共感し、スーパーバイザーとしてさまざまな相談に乗ってくださいました。多いときには週に何回もともに時間を過ごし、政治や経済、国際情勢から音楽、スポーツ、芸能まで、幅広いテーマについて夜遅くまで本音で語り合ったことをよく覚えています。
どんなに優れた人がいても、またどれほどよく練られた企画があっても、そこに明確な旗印がなければ、人は集まりません。逆にいえば、「この人はどこを目指しているのか」がはっきり伝わったとき、人はそのビジョンに共感し、自然と動き出してくれるのです。
たとえば、私は現在、『JAPAN MOVE UP! 日本を元気に!』というプロジェクトの総合プロデューサーを務めています。もともとは東京タワー50周年に向けて、2007年に立ち上げた『TOKYO MOVE UP!』が出発点。小山薫堂さん、別所哲也さん、リリー・フランキーさんらと、東京から日本を元気にするさまざまなイベントを企画しました。
その後も、共通の想いのもとにつながりは続き、やがて東京五輪の招致活動や、現在のJAPAN MOVE UP!プロジェクトへと広がっていったのです。
旗印のもと、志を同じくする人が集まれば、不思議と次にやるべきことが見えてくる。コンセプトには、そんな目に見えないパワーがあると実感しています。
コンセプトとは、資料や会議の冒頭に掲げるだけのものではありません。それはむしろ、人がともに動き出すための共通言語であり、信頼と共感を育てる土壌なのです。
なぜ自分が信頼されないのか?
そのように悩んだら……
「自分は、誰からも信頼されていないし、評価されていない」
「自分の真意が周囲になかなか伝わらず、よく誤解される」
そう悩んでいる方もいるかもしれません。
二十一世紀倶楽部で、当時、厚生大臣を務めていた小泉純一郎さんに登壇いただいたときのこと。
講演のなかで、小泉さんは、相手に評価されなかったり誤解されたりしたときの考え方として、孔子の『論語』の一節を引用して、次のように話しました。
「『人の己を知らざるを憂えず。人を知らざるを憂う』という言葉があるんです。」
「自分を理解してくれなかった人、評価してくれなかった人に対して、なんでその人を俺は理解できないんだろうか、評価できないかを憂え、ということなんです。」
(二十一世紀倶楽部『人間図書館 リバティ・オープン・カレッジ講演録』より)
つまり、相手から理解されないのは、自分が相手を理解できていないから。相手から評価されないのは、自分が相手を評価していないからかもしれない。
そうやって視点を逆転させてみると、きっと新しい視界が開けてくるはずです。
相手に足りていないものを
考えることが大切
カーネギーは、『人を動かす』のなかで、洒落っ気たっぷりに次のように語っています。
「私はイチゴ・クリームが大好物だが、魚は、どういうわけかミミズが好物だ。だから魚釣りをする場合、自分の好物のことは考えず、魚の好物のことを考える。イチゴ・クリームを餌に使わず、ミミズを針につけて魚の前に差し出し、『1つ、いかが』とやる。」
また、こんな例えも挙げています。
「自分の息子に煙草を吸わせたくないと思えば、説教はいけない。自分の希望を述べることもいけない。その代わりに、煙草を吸う者は野球の選手になりたくてもなれず、百メートル競走に勝ちたくても勝てないということを説明してやるのだ。」
この2つの例え話が示しているのは、「人を動かすには、自分の望みではなく、相手の望みに焦点を定めよ」ということです。
「そんなの当たり前じゃないか」と思う人も多いでしょう。けれど、実際にはどうでしょう?
頭ではわかっているつもりでも、私たちはつい自分の望みやメリットを前面に出して、相手を動かそうとしてしまいがちです。
カーネギーの例を、自分事として考えてみましょう。愛する子どもが隠れて煙草を吸っていたと知ったとき、多くの親は「そんなことをしてはダメだ」と正論で責めたくなるはずです(私もそうしないという自信はありません)。
でも、それは自分の気持ちをぶつけているだけで、おそらく子どもの心には届きません。
大切なのは子どもの視点に立ち、どうすれば本人が自分からやめたいと思えるかを考えること。「野球選手になりたい」「運動が得意になりたい」「美肌をキープしたい」、そんな願いがあるのなら、「煙草を吸うと、その夢や願いに近づけなくなるかもしれないよ」と伝えるほうが、はるかに響くのです。
「参加したい」と
思える企画になっているか
これは、ビジネスでもまったく同じです。自分のアイデアや提案について興味を持ってもらいたいなら、まず考えるべきは「この人は今、どんな目標を持っているのか?」「何に悩んでいるのか?」ということ。
そのうえで「この提案が、あなたの力になれるのでは」と差し出すことができたなら、それは“ミミズを差し出す釣り”と同じく、相手の心に届く力を持つはずです。
『BEYOND 2020 NEXT FORUM』を企画したときにも、この考え方が活かされました。
企画の立ち上げは、2019年。2020年以降の日本の活性化を目的に、ダイバーシティ、イノベーション、スタートアップ、エンターテインメントなどのテーマのもとに、多様なフォーラムを実施するプロジェクトで、私は代表幹事を務めました。
このプロジェクトには、さまざまなジャンルで活躍する20~50代の著名人が参加。アソビシステム代表の中川悠介さんや、ドワンゴ取締役の横澤大輔さんも、そのメンバーです。彼らから「同世代との横のつながりはあるけれど、上の世代との縦のつながりがあまりなかったので、この機会にネットワークをつくれてありがたい」という言葉をもらったときには、まさにこのプロジェクトの意義がかたちになり始めていることを感じました。
ただ「協力してほしい」とお願いするのではなく、世代を超えて自然に関係性が生まれるようなコンセプトを持った場を用意すること。それが結果として、プロジェクトに賛同してくれる人たちにとっても魅力的な参加する理由となったのです。
そして、そうした想いで集まった人たちが中心となったからこそ、分野や立場を超えて「未来に何を残したいか」を本音で語り合える場が生まれたのです。
相手の“光”に気づいて
きちんと言葉にすること!
人との関係を深めるうえで、カーネギーが大切にした原則が、「素直な感謝を伝え、誠実に褒める」ことです。
褒めるといっても、上辺だけのお世辞やご機嫌取りでは意味がありません。
カーネギーが説くのは、相手の努力や美点を見つけ、心からの敬意を持って言葉にすることです。カーネギーは、人にとって「自己の重要感」を満たすことは、食欲や睡眠欲と同じくらい大切で、それでいてなかなか満たされることのない欲望だと述べています。
私たちはつい、相手のいいところや共感できる部分については、「あえて言わなくても伝わるだろう」と思ってしまいがちです。一方で、意見の違いや直してほしい点など、自分が伝えたいことばかりを口にしてしまう傾向があるように思います。
それによって、せっかくの関係にしこりが残ってしまったり、議論が思わぬ方向にこじれてしまったりした経験がある人も、少なくないのではないでしょうか。

『人望という技術 カーネギーに学ぶ人に好かれる習慣』 (一木広治、主婦の友社)
たとえ志を同じくしていたとしても、私たちはそれぞれ異なる背景や価値観を持つ存在です。ましてや、これから関係性を築いていく初期段階であれば、違いや相容れない部分に目を向けるなんてナンセンス。なぜならば、違いがあって当然だからです。
もし10%でも20%でも共鳴できる部分があるなら、そこに光を当て、それをちゃんと言葉にする。すてきなところ、評価しているところも、惜しまず心からの賛辞を贈る。
たったひと言の共感や敬意が、相手の心を開き、関係を次のステップへと進めてくれる鍵になります。