教養のある人が「知らない話題が出たとき」にさりげなくやっていること

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「相手の名前を覚えること」「自分の名前を覚えてもらうこと」は、関係性を築くための第一歩。会話のなかで名前を呼びかけるだけで、相手に好印象を持ってもらえる。さらに、いかに「聞き上手」に徹するというのも大切なポイントだ。そのメソッドを解説する。※本稿は、一木広治『人望という技術 カーネギーに学ぶ人に好かれる習慣』(主婦の友社)の一部を抜粋・編集したものです。

名前を呼ばれることの

「特別感」を知る

 もらった名刺を整理しながら「この人、どこで会った人だっけ?」と遠い記憶を探ったことはありませんか?名刺交換はして、何度かメールのやりとりもしたはずなのに、どうも顔が思い出せない。よくあることではないかと思います。

 名刺交換しただけでは、それは人脈とはいえません。しばらくすると顔と名前が一致しなくなってしまうようでは、知り合いとも呼べないかもしれません。

「相手の名前を覚えること」「自分の名前を覚えてもらうこと」は、関係性を築くためのはじめの一歩です。カーネギー(編集部注/本書の軸となる名著『人を動かす』の著者、D・カーネギー)も『人を動かす』のなかで、「名前は、当人にとって、最も快い、最も大切な響きを持つ言葉である」と述べています。これは、相手の名前を正確に呼ぶことが、信頼関係づくりの基本であることを示しています。

 たとえば、メールで相手の名前を間違えて機嫌を損ねてしまったり、何度か会っている相手なのに名前が思い出せなくてしどろもどろになったり……そんな苦い経験の1つや2つ、誰しもあるのではないでしょうか。

 名前は、その人にとって特別なものです。

 その名前を覚え、親しみを込めて呼ぶことは、「あなたに関心があります」「あなたは私にとって大切な人です」というメッセージを届けることでもあります。

 反対に、名前を間違えたり、「あのー」「すみません」といった曖昧な言葉で済ませたりすることは、「あなたには興味がない」「あなたは私にとって覚えるほどの存在ではない」というメッセージを送ることにほかならないのです。

名前を呼ぶ機会は

自分でつくること!

 しかし、とくにビジネスの場においては、私たちはたくさんの人と出会い、その関わり方にも濃淡があります。毎日のように顔を合わせる相手もいれば、数年に一度しか会わない人もいるでしょう。

 何度も顔を合わせる関係であれば、名前を覚えることはわけもないことです。しかし、滅多に会わない相手の名前を覚え、また相手に覚えてもらうためには、ちょっとした工夫が必要です。

 私が「名前を覚え、覚えてもらうスキル」を身につけたのは、東京生まれ東京育ちから一転、大阪に本社がある大広(編集部注/広告代理店)で新人時代を過ごした経験によるものだと思います。

 配属されたのは、官公庁を担当する部署。社内では戦略的ポジションとされており、コンペ案件があるたびに、クリエイティブ、マーケティング、セールスプロモーションなどの各部署のエース社員が招集され、プロジェクトチームが組まれていました。私の部署は、その調整、取りまとめ役も担っていたのです。

 当然、メンバーはそれぞれ本業を抱えており、日程の調整ひとつとってもひと苦労でした。当時は、まだインターネットもメールも普及していない時代、1980年代後半の話です。日程調整は、1人ひとりに電話や対面でスケジュールを聞き、決まった日程はメモに書いて各自のデスクへ配って回る。そんなアナログな日々でした。

 けれど、その“ひと手間”が、思わぬ副産物を生んでくれました。連絡のたびに相手と顔を合わせて話す時間があるので、他部署のほかの先輩たちにも自然と顔と名前を覚えてもらえたのです。

業務の効率化が進んだ

今できることは?

「一木、また来てるね」「ごくろうさん!」と声をかけてもらえば、私も「佐藤さん、おつかれさまです!」「高橋さん、昨日も遅かったですよね。ちゃんと寝てくださいよ!」といった具合に、なるべく名前を呼んで返すように心がけていました。

 名前を呼び、ほんのひと言、ふた言でも言葉を交わす。ただの事務連絡でも、名前や顔が見えれば、自然と仲間意識が芽生え、その積み重ねが社内人脈へとつながります。

 最近では、メールやチャット、スケジュールアプリなどで、どんどん業務の効率化が進んでいます。しかし、その一方で、「相手を知り、自分を知ってもらう」という機会は、確実に減ってきているとも感じます。

 たとえば、社内であれば「前田さん、スケジュール入力、ありがとうございました」「山本さん、今度の会議、よろしくお願いします」など、ちょっと顔を出して声をかけるだけでも、相手に残る印象はぐっと変わります。

 大切なのは、便利なツールを使いこなす一方で、意識的に「名前を呼ぶ場面」を自ら積極的につくっていくこと。これは現代のビジネスパーソンにとって欠かせない、“見えないスキル”のひとつかもしれません。

会話を盛り上げたいときは

小さな共通点をきっかけにしよう

 自分が話すより、相手の話を聞くほうが簡単そう、と思われるかもしれません。

 けれど、ただ相づちを打つだけでは、相手は「聞いてもらえた」という満足感にはつながりません。本当に聞き上手な人は、話し手に「自分ばかり話している」と感じさせずに、「会話が盛り上がった」という実感のなかで、自然と自分の話ができるような聞き方をしているものです。

 では、どうすればそんな聞き方ができるのでしょうか。

 そのコツのひとつが、共通点を見つけることです。

 出身地や趣味、家族構成、最近食べたおいしいものや感動した映画、どんな些細なことでもかまいません。地元が一緒だと知るだけで、なんだか急に親近感が湧いてくる。そんな経験を持つ人は多いのではないでしょうか。

「ご出身はどちらですか?」と尋ねたとき、自分とは違う出身地だったとしても、「実は母の田舎が東北で、青森にもよく行きました」「大学時代の親友がその地域の出身で、何度も遊びに行っています」など、何かしらの共通点を見つけることができれば、会話や関係性を発展させるきっかけになります。

 少しでも共有できるものがあるだけで、不思議と安心感が芽生え、そのつながりが会話の種となって、自然と人間関係が広がっていくのです。

 共通点はつくり出すものだと教えられ、今も強く心に刻まれているのは、大広時代に出会った建設省(現国土交通省)の官僚、竹村公太郎さんの言葉です。

「教養ってなんだか知ってるか?」

 当時、河川局長だった竹村さんにこう問いかけられ、私は答えに詰まりました。

 そんな私に、竹村さんは「どんな人とも馬を合わせて会話ができることだよ」と教えてくれたのです。

知らない話題が出た時は

どうすればいい?

 馬を並べて歩かせるように、相手の歩調に合わせる。それを可能にするのが、教養だというわけです。竹村さんが教えてくれたのは、ただのうなずき上手ではなく、相手が切り出してきたどんな話題にもついていける力を身につけること。

 教養とは単なる知識ではない、相手との共通点を見つける引き出しなのだと、目が覚めるようだったことを思い出します。

 そう考えれば、教養を身につける手段は、学校や書籍で学ぶばかりではありません。漫画、映画、音楽、スポーツ、釣りに手芸に料理、それから世界のニュースを知ることも、あらゆることが教養に結びつきます。

 私は、新聞の切り抜きをスクラップすることを習慣としていました。新聞に目を通すと、自分の関心分野以外の情報についても知ることができる。新しい興味を持つきっかけにもなる。ネット配信のニュースにはない、新聞のよさだと感じています。

 サイバーエージェント社長の藤田晋さんも、毎朝、新聞を読むらしく、「世の中の動きを知るために、自分の興味のないジャンルが目に入ってくることが大事」と言っていました。

 もちろん、すべての話題に精通している必要はありません。しかし、相手の話に対して、「それについては不勉強なのですが、ぜひ教えてください」と素直に関心を寄せることもまた、大切な聞く力であり、教養のある人の姿です。

 会話とは知識の披露ではなく、関係を築くためのもの。

 たとえば釣りの話になったとき、自分が釣りを知らないからと話題を変えてしまうのではなく、「海釣りと川釣りって、どう違うんですか?」と聞ける人が、会話の糸口をつかめるのです。

人がいちばん興味が

あるのは自分自身

 ちなみに、竹村さんは「人とのコミュニケーション」や「教養とは何か」といった話のなかで、よく「海釣りと川釣りの違い」を例えに出されています。

 海釣りとは、場所を決めて“待つ”スタイル、川釣りとは、流れの中を“探って動く”スタイル。この例えを通じて、竹村さんは「教養とは、“川釣り”のようにどんな相手にも合わせて会話ができる力だ」と語られていました。

 相手が、自分に興味のあることを話してくれるのを待つのではなく、自分から歩み寄る。そうして、少しずつ対話の流れを探る姿勢が、会話の深さを生み出し、相手に「この人と話せてよかった」という満足感を与えられるのです。

 カーネギーは、「人に好かれる6原則」のうち「聞き手にまわり、相手に話してもらう」の項を、次のような一文で締めくくっています。

「あなたの話し相手は、あなたのことに対して持つ興味の百倍もの興味を、自分自身のことに対して持っているのである。中国で100万人が餓死する大飢饉(ききん)が起こっても、当人にとっては、自分の歯痛のほうがはるかに重大な事件なのだ。首にできたおできのほうが、アフリカで地震が40回起こったよりも大きな関心事なのである。人と話をする時には、このことをよく考えていただきたい。」

同書より転載

 なぜ聞き上手になると、人に好かれるのか。それは、人は何よりも自分自身のことにいちばん関心があるからです。

「ちゃんと聞いてもらえた」は

相手からの信頼につながる

 相手が自分の話に興味を持ち、心からの賛辞や感心を示してくれることほど、うれしいことはありません。

 つまり、聞き上手とは、話題の引き出しを多く持ち、相手との共通点を探す努力を惜しまない人のこと。そして何より、「あなたに関心があります」という姿勢を、言葉と態度で伝えられる人である、といえるでしょう。

 私自身の経験を振り返っても、「また会いたい」と感じた相手の多くは、聞く力に長けた人たちばかりでした。私の話に真剣に耳を傾け、ときにうなずき、ときにメモをとり、ときに笑いながら受け止めてくれる。その姿勢が、話す意欲を引き出してくれるのです。

『人望という技術 カーネギーに学ぶ人に好かれる習慣』 (一木広治、主婦の友社)

 人は「ちゃんと聞いてもらえた」と感じた相手には、安心して本音を語ります。そうやって語られた本音は、ときにその人自身にとっても「自分はこんなことがしたかったんだ」という気づきになることも。「あの人と話すことで、自分が本当にやりたいことがわかった!」という経験ができたなら、それは相手への最上級の信頼に結びつくでしょう。

 たとえ知識が乏しくても、素直な興味と敬意を持って相手の話に耳を傾ける。その姿勢こそが、会話を深め、人間関係を育てる土壌になるのです。

 今日からできることとして、まずひとつ、知らない話題に出会ったら、話題を変えたり、受け流すのではなく、何かひとつ質問をしてみることを実践してみましょう。そんな小さな一歩が、聞き上手への大きな入り口になるはずです。