なぜ中国は「EVバッテリー」を大量廃棄するのか? 非正規業者「18万社」の現実とは

電池廃棄の逆説

 中国では電気自動車(EV)の普及が進む一方で、使い終えたバッテリーの廃棄が急増している。

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 脱炭素社会をめざすなかで、環境にやさしいはずの電気自動車が新たに環境負荷の課題を生んでいる。

 国は廃棄物を管理したいと考えるが、思うように仕組みが機能せず、現実とのずれが浮き彫りになっている。そこには表に出にくい事情がある。

都市鉱山争奪戦と環境リスク

都市鉱山争奪戦と環境リスク, 廃電池急増が迫る資源循環の試練, 廃電池市場を脅かす地下リサイクル構造, EV普及が迫る日本の回収網試練

中国でのNEV(新エネルギー車両)保有台数の推移(画像:日本貿易振興機構)

 筆者(中嶋雄司、自動車ライター)が上海を訪れたとき、街を音もなく走る緑色ナンバーの車が目に入った。中国で急速に普及しているEVだ。通常の青色ナンバーとは異なり、緑色ナンバーは税制面で大きな優遇を受けている。

 この数年で、中国の都市風景はEVによって大きく変わった。政府の手厚い補助金と環境意識の高まりを背景に、中国は世界最大のEV市場へ成長した。しかし今、新たな課題が迫っている。

 それが、膨大な「廃バッテリーの波」である。中国のEVシェアは年々拡大し、2015年前後に生産された第一世代の車が、5~8年とされるバッテリー寿命を迎えつつある。これからEV由来の廃バッテリーが爆発的に増えるのは避けられない。

 廃バッテリーの増加は同時に巨大なビジネスの芽でもある。レアメタルを取り出すリサイクル産業は「都市鉱山」と呼ばれ、今後の成長市場として多くの企業が激しい競争を繰り広げている。

 ただし処理は容易ではない。リチウムやコバルトなど価値ある金属を含む一方、誤った方法で解体すれば環境を汚す危険な廃棄物となる。実際に不適切な処理による発火事故や汚染は各地で問題化している。

廃電池急増が迫る資源循環の試練

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EVに搭載されるタイプのバッテリーセル(画像:PowerFord)

 中国で廃棄される車載電池は年々増え、2025年には100万個、重量にして80万tに達すると見込まれている。電池の回収と再利用をめぐる市場は急速に拡大し、2030年までに1000億~2000億元、つまり日本円で

「約2~4兆円」

の規模になるとの予測もある。自動車情報サイト「蓋世汽車」の2024年リポートによれば、廃バッテリーの回収量は2023年に62万3000t、2025年に120万t、2030年には600万tへ膨らむ見通しだ。

 中国政府はこうした事態を早くから想定し、2015年以降、次々と制度を打ち出してきた。2015年にはEV用廃バッテリーの利用に関する業界基準を定め、翌2016年にはメーカーの責任を広げる制度を導入。さらに2017年には回収と利用を管理する暫定措置を施行し、2018年には電池の流通経路を追跡できるトレーサビリティ規定を整備した。

 近年では、2021年に公表された「循環経済発展に関する第14次5ヵ年計画 」で、電池リサイクルが重点テーマに位置づけられた。この計画では、自動車メーカーとリサイクル企業の協力を促し、電池のライフサイクル全体を管理できるシステムの構築を掲げている。さらに2022年には政府8部門が連携し、

・サプライチェーン全体の協働体制の確立

・三大地域での実証プロジェクトの推進

・性能測定や金属回収に関する国家基準の策定

を含む施策を発表した。

 制度の枠組みだけを見れば、中国は資源を循環させる責任ある仕組みを整えつつあるように見える。しかし理想と現実の間には、いまだ大きな隔たりが残されている。

廃電池市場を脅かす地下リサイクル構造

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中国国旗(画像:Pexels)

 中国は廃バッテリーの回収と再利用の仕組みを整えているが、問題が深刻化する最大の理由は

「非正規業者」

の存在にある。政府の基準を満たす正規業者は全国で約150社にとどまる一方、非正規業者はおよそ

「18万社」

にのぼるとされる(2024年時点)。使用済みバッテリーの多くが非正規ルートに流れる背景には、単純に「高く、早い」という要素がある。正規業者は厳しい環境基準や処理工程に従うためコストが高く、査定にも時間がかかる。これに対して非正規業者はコストを無視できるため、利用者から手軽に、かつ正規より高値でバッテリーを買い取れる。その結果、多くのバッテリーが非正規市場に吸い寄せられているのだ。

 非正規業者の処理はずさんで、目的は価値あるレアメタルの回収に限られる。残された有害物質を含む部材は不法に投棄され、土壌や地下水の汚染を招いている。さらに近年は、コバルトやニッケルを使わないLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーが主流になり、レアメタル価格が不安定化していることから、非正規業者の収益性も低下している。

 過去には補助金頼みのEVメーカーが相次いで撤退し、大量の車両が放置される事態も起きた。廃バッテリー市場でも同じような混乱が再現される可能性は否定できない。制度の枠組みを整えるだけでは不十分であり、非正規業者の取り締まりと正規ルートを選ぶ動機付けを強化しなければ、「廃バッテリーの波」を制御することは難しいだろう。

EV普及が迫る日本の回収網試練

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2025年8月25日発表。主要12か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)

 中国の課題は、日本にとっても無関係ではない。政府の方針やメーカーの戦略を背景に、日本でもEVの普及は確実に進む。これは、いずれ日本も廃バッテリー問題に直面することを意味する。

 現在、日本では自動車メーカーやJBRCが連携し、回収体制が比較的整っている。しかし、EVの台数が急増し、中古市場や個人間取引が広がれば、すべてのバッテリーが正規ルートで回収される保証はない。中国と同様に、利便性や利益を優先する非正規ルートが生まれる可能性は十分にある。

 中国の事例が示すとおり、最終的にバッテリーをどう処分するかはユーザーの判断に委ねられる。制度や技術が進化しても、最後の担い手はひとりひとりのモラルだ。

「高く売りたい」

「手続きが面倒だ」

という心理が、環境負荷を拡大させる現実を見なければならない。未来のクリーンな交通社会を築くには、制度やインフラだけでなく、ユーザーの意識の成熟が欠かせない。