養老乃瀧「居酒屋じゃない事業」で復活のワケ

業績の25%近くが“非・居酒屋事業”, 5年で120近いブランドを展開, ゴミ処理を請け負うことも, 原価率を30%近くに圧縮, “安かろう悪かろう”からの脱却, コロナ禍を経て構造改革を進める老舗企業

川崎競馬場内にあるからきち屋・GRAZYPOTATO(グレイジーポテト)(筆者撮影)

かつて1990年代後半に、1800店舗まで規模を拡大し、一世を風靡した養老乃瀧。
一方で、現在は約180店舗と、最盛期の10分の1にまで縮小したものの、ここ2~3年で業績はV字回復を見せる。
2021年度は社全体の業績が約52億円と底冷えしたが、2023年度には約130億円にまで回復。その背景には、コロナ禍で本腰を入れ始めた“非・居酒屋事業”の成長があった。
この記事は後編です。⇒前編:≪養老乃瀧≫30年前は居酒屋で「店舗数日本一」だったが… 副社長が激白する“首位陥落”を招いた意外な要因

業績の25%近くが“非・居酒屋事業”

養老乃瀧、一軒め酒場、だんまや水産など、居酒屋事業を展開する養老乃瀧グループ。1956年に居酒屋事業に参入してから、最盛期で1800近くまで店舗数を広げ、現在も息長く親しまれている。

【写真を見る】唐揚げやポテトをウリにした新業態のフードや、「安かろう悪かろう」のイメージを大刷新した一軒め酒場

ところが現在、これら居酒屋事業の売り上げは、社全体の業績の75~80%ほどに着地するという。では、残るおよそ20~25%は何で稼ぎ出しているのか――。

真相を確かめるため、足を運んだのは川崎競馬場だ。日本有数の歓楽街や飲み屋街が隣接するエリアで、ナイターが開催される最中、場内では生ビールやケータリング片手に、グルメコート周辺でレースを観戦する中年男性も目立つ。

この一角に位置するのが、唐揚げやポテトをウリにした「からきち屋・GRAZYPOTATO(グレイジーポテト)」だ。

実は養老乃瀧グループ、約5年前から、コントラクト事業(委託先の施設内で展開する売店)に本腰を入れている。コロナ禍で居酒屋業態が壊滅的なダメージを受け、同社の業績は2019年度の約192億円から、2021年度の約52億円にまで落ち込んだ。そこで社の存続をかけて新事業に肩入れを始めたわけだ。

実際に、店員におすすめされた、唐揚げの「極旨タレもも(税込700円)」、ポテトフライの「アンチョビマヨ(税込700円)」を頼んでみた。大きめな唐揚げを齧ると、肉感のあるもも肉に、味噌とガーリックが効いたタレがよく合う。アンチョビマヨはソースがこってりとしているが、ポテトの表面に刻んだ大葉がまぶされており、くどさが抑えられている。どちらもクオリティが高く、味付けに工夫が施されているのがわかる。

業績の25%近くが“非・居酒屋事業”, 5年で120近いブランドを展開, ゴミ処理を請け負うことも, 原価率を30%近くに圧縮, “安かろう悪かろう”からの脱却, コロナ禍を経て構造改革を進める老舗企業

ポテトフライの「アンチョビマヨ」(筆者撮影)

そしてなにより、“ザ・居酒屋メシ”といった感じで味が濃く、アルコールが欲しくなる。思わず追加注文したビールで、揚げ物を流し込む瞬間がたまらない。まさに居酒屋事業で培ってきた知見が凝縮されている。

現在コントラクト事業は、川崎を含む5つの競馬場に、セ・パ12球団のうちの8球場、苗場やニセコなど観光エリアのレストラン、ショッピングモール内、大学や企業の食堂などに、計120近くの事務所を展開しているという。

業績も好調で、2025年度の売り上げは30億円を超える見込みだ。2023年度の養老乃瀧グループ全体の業績が約130億円であることを鑑みれば、直近5年で社の売上構成比の約25%を占める概算となる。2024年には、飲食店運営や施設の受託事業を行う企業を完全子会社化し、コントラクト事業の大半を集約して腰を据える構えだ。

5年で120近いブランドを展開

“非・居酒屋事業”が、成長ドライバーとなっている養老乃瀧グループだが、なぜここまで短期間で事業を拡大できたのか。

いち消費者からすれば、坪数も商材もある程度限られているため、オペレーションが回しやすい印象を受ける。それゆえに参入障壁が低く、短期間で全国各所に展開できたのではないか――。

そうした先入観をぶつけると、養老乃瀧取締役副社長の谷酒匡俊氏は、「実情はまったく異なる」と説明する。

「コントラクト事業は、居酒屋のチェーン展開のように、オペレーションを均一化できない。正直なところ、効率が良いか悪いかで言えばあまり良くないんです。

一例を挙げると、ある野球選手が、引退を発表しておらず、明日の試合で引退すると急に告げられるケースがあります。そうした場合、我々は球場側から、引退選手にちなんだお弁当を用意するよう求められことがあります。すると社内で、どのようなメニュー構成にするか、食材は何百人分調達すればいいのか、前日から急ピッチで企画から仕込みまで進めないといけないわけですね。

それから当社は、とある球場で15ほど売店を構えているのですが、それぞれコンセプトや商材を微妙に変えて運営するよう求められます。コントラクト事業は、スポーツ観戦やフェスなど、ハレの日を飾る出店のようなものです。ファンビジネスとしての側面もあるなか、そこでチェーン店のような均一感が透けてしまうと、日常感が出て来場者の気分が盛り下がってしまう。

そのため各店舗で、オリジナリティーを醸し出す必要がある。現在120近いブランドを抱えていますが、各ブランド原則2〜3店舗の展開にとどめています。夏期にシャーベットを提供する際は、店舗ごとで具材の配合を0.1g単位で調整したり、地産の食材を優先的に使用したりしています」(谷酒氏)

いわばコントラクト事業とは、来店客に満足してもらいつつ、球場など委託先の要望もくみ取ることが求められる。

「大手チェーン店の規模で展開をしながら、各店舗が個人店に近い対応を求められる業態は、他社がなかなかやりたがらない」と谷酒氏。あえて効率が悪い領域に参入したポジショニングが奏功し、一気にコントラクト事業が拡大したと言えそうだ。

ゴミ処理を請け負うことも

一見、120近いブランドを展開するのは骨が折れるよう思えるが、オペレーションを確立してうまく効率化させている。

「一例を挙げると、ホテル内のレストランを複数運用する際、料理のだしは共有しつつ、味付けや盛り付けを微調整することで、うまくオリジナリティーを感じられるよう、別メニューとして提供しています。

あるいは委託先から『地産の食材を使ってほしい』という要望も多いため、物流を他社に委託するとコスパが悪い。一見、効率が悪いように映るが、あえて自社トラックを走らせているのもポイントです。そうすればある店舗で出た余剰の食材を、周辺の売店に回してさばくこともできる。うまくノウハウとリソースを共有して出店網を広げています」(谷酒氏)

また、地道な要望に応え続けることで、生産者をはじめ土着のネットワークも強固になった。

直近で取り沙汰されたコメ高騰時は、コメ農家と取引する機会が増えた。JAしか出荷先がなかった生産者と、養老乃瀧グループが直接仕入れ交渉を行うことで、生産者はJAに出荷するよりコメを高値で出荷でき、養老乃瀧は流通価格より安価に調達できる、双方でウィンウィンの関係が生まれた。

また、何店舗も売店を運営する球場では、一帯から出るゴミ処理を一括して請け負うようになった。その事例が耳に留まり、地元企業から「社食を展開してほしい」と依頼が来たこともあった。薄利ながら手間がかかる要望に応えることで、委託先や生産者との連携も強くなり、出店の機会に恵まれるようになった。

原価率を30%近くに圧縮

コントラクト事業で得られた知見は、水面下で居酒屋業態にも生きている。

その顕著な好例が「原価率の削減」だ。前述した通り、コントラクト事業では、金太郎飴のような均一化した展開が敬遠される。そのためブランド毎に、味付けや盛り付けを工夫するよう求められる。こうした調理技術の手数が増えたことが、居酒屋事業での原価率の圧縮に貢献している。

「実はいま、当社が展開する『一軒め酒場』で、仕入れた加工品をそのまま提供しているのは、きゅうり一本漬(税込319円)など数品目しかありません。なぜかというと、加工品をそのまま仕入れると原価率が上がってしまうので、店舗で仕込みや味付けを行って利益率を上げているのです。

唐揚げを引き合いに出すと、粉や味付けの配合を徹底的に研究しています。例えば醤油でも、1本1000円と1200円のものでは味わいが異なります。鶏肉そのものの価格を上げるよりも、調味料の質や調理技術を高めるほうが、味が良くなるうえに原価の上昇を抑えられる。もちろん食材の選定は慎重に行いますが、それ以上に最適な仕込み方法を追求して、全体の原価率を抑える工夫を凝らしています。

一軒め酒場はリーズナブルなぶん、薄利多売と勘違いされがちですが、ふたを開ければすべての料理で粗利を取れている。かつてはウニやイクラなどを使うメニューもありましたが、高価な素材でなくても美味しくなるよう日々刷新を続けることで原価率を抑えているのです」(谷酒氏)

業績の25%近くが“非・居酒屋事業”, 5年で120近いブランドを展開, ゴミ処理を請け負うことも, 原価率を30%近くに圧縮, “安かろう悪かろう”からの脱却, コロナ禍を経て構造改革を進める老舗企業

リニューアルした一軒め酒場の外観(筆者撮影)

一軒め酒場はかつて2008年のリーマンショック前後、不景気でも気軽に入れる激安の業態を作ろうと開業した。税抜190円の酎ハイやサワーを筆頭に、大半のメニューを350円以内に設定することで、当初は客単価1500円と幅広い酔い客に喜ばれた。

一方で、原価率が40%近くまで膨らむ店舗もあった。当時はまだ宴会需要も盛んだったが、その後コロナによる打撃で経営も苦しくなり原価率を見直した。結果、コントラクト事業の知見もあり、当時店舗によっては40%弱にまでかさんだ原価率が、現在30〜33%にまで減少したという。

一見、価格を抑えて料理を提供するには、加工品に頼ってオペレーションを簡潔にするやり方が浮かぶ。一方で、養老乃瀧グループでは、あえて手間暇をかけることで原価率を圧縮しているわけだ。

もちろん創業当時から、養老乃瀧グループでは原価率削減に注力してきた。ただ、コントラクト事業により素材を生かす引き出しが増えたことで、コスト削減に大きく寄与した。

一例を挙げると、コントラクト事業で人気ブランドのグレイジーポテトは、ポテトフライ専門店として、「明太子マヨネーズ」「アンチョビマヨ」「コンソメ」「はちみつ」など多彩なフレーバーを揃える。こうしたバリエーションの展開が、居酒屋業態の調理技術にも生かされている。

“安かろう悪かろう”からの脱却

一軒め酒場では、メニューを改良する一方、顧客には企業努力が伝わりづらいジレンマを抱えていた。特に、一軒め酒場は、創業当初に激安を打ち出していたことで、消費者から“安かろう悪かろう”の先入観を持たれていた。

そこで2022年に行ったのが、外観とメニューの刷新だ。一軒め酒場といえば、赤字で190円と大々的に描かれた看板が印象的だが、リニューアル後は価格表示を撤廃し、のれんに「おやじが喜ぶこだわりの酒と肴だけの店」とうたい文句を掲げる仕様に変更した。

また、メニュー表も冊子状に改良して、掲載する飲食物の表示を全体的に大きくした。ドリンクメニューをめくると、見開き1ページかけて、ビールの提供方法や日本酒の生産地の歴史がつづられている。フードメニューも同様、1ページにわたり焼売や煮込みの写真がシズル感満載に掲載され、味付けや調理工程のこだわりが記載されている。

業績の25%近くが“非・居酒屋事業”, 5年で120近いブランドを展開, ゴミ処理を請け負うことも, 原価率を30%近くに圧縮, “安かろう悪かろう”からの脱却, コロナ禍を経て構造改革を進める老舗企業

一軒め酒場のフードメニュー。味付けや調理工程のこだわりが記載されている(筆者撮影)

看板ではあえて破格であることを隠し、メニューでは誌面を割いてこだわりを伝える――。刷新の背景には、“安かろう悪かろう”という先入観からの脱却と、表からは見えづらい企業努力が伝わってほしいという意図が隠れている。

以前、さくら水産を取材した際も、過去に提供していた500円ランチの格安さが強烈ゆえ、高価格帯路線に踏み切ると客離れが発生したという逸話があった。

一軒め酒場も同様に、一度リーズナブルな業態として認知されてしまえば、ブランドイメージの上書きは難しい。企業としては日々、調理技術を凝らしているにもかかわらず、旧態依然のまま映ってしまうのはもったいない。

「外観やメニューからわかりやすく発信して、日々ブランドが生きていると伝える必要があった」と谷酒氏。結果的に、リブランディングを行った翌2023年には、売り上げが前年比140%近くまで上がった店舗も見られた。

コロナ禍を経て構造改革を進める老舗企業

総括すれば、コロナ禍以降、養老乃瀧グループは大きく体制を変えている。

元々は総合居酒屋を主軸に発展してきた同社は、近5年でコントラクト事業に肩入れを続ける。そして新事業で得た知見が、居酒屋業態の料理のクオリティを底上げし、一軒め酒場のリブランディングにも貢献した。

消費者からすれば、「養老乃瀧グループ=風化した老舗企業」と捉えがちだが、企業内部の努力は見えづらいものだ。居酒屋業態の草分け的な存在として知られる養老乃瀧グループだが、裏側では構造改革と成長の芽が着々と育っているのだ。