【スパイスを知り尽くした三賢人が大激論】「令和最強のレトルトカレー」を決めよう!

都内にある無印良品のレトルトカレー売り場。約50種類が販売され、インバウンドにも人気
電子レンジや湯煎で温めるだけで食べられるレトルトカレー。実は日本生まれだ。’68年、大塚食品工業(現大塚食品)が発売した『ボンカレー』が世界初となる。その後、レトルトカレーは絶え間ない進化を続けた。味は専門店のように本格化し、種類は欧風カレー、キーマカレー、スープカレーなど多岐にわたる。そんな今、安くて旨い″最強のレトルトカレー″はどれなのか。カレー総合研究所代表の井上岳久氏、カレー研究家のスパイシー丸山氏、レトルトカレー研究家の目取眞興明(めどるまこうめい)氏の3名が激論を交わした。
噂の名店vs.選ばれし人気店
――エスビー食品はいかがですか?
丸山 イチ押しは『噂の名店 南インド風チキンカレー』(432円)です。シナモン、カルダモンなどのスパイスの香り高さが抜きん出ています。レトルトカレーは加圧加熱殺菌の過程で香りが飛んでしまいます。それを補うため、後入れ用の別添スパイスをつけた商品も少なくありません。本商品は別添スパイス″なし″にもかかわらず、あれほど香りを残している。エスビー食品の一つの到達点のような商品です。
目取眞 今では珍しくない、名店の味を再現したレトルトカレーは、エスビー食品が走りでしたね。僕のイチ押しも『噂の名店』から、『噂の名店 湘南ドライカレー』(432円)。マッシュルームがゴロッと入っていて、自宅でイチから作るのは難しいカレーです。
丸山 『湘南ドライカレー』は’22年のリニューアルで、一段とクオリティが上がりましたね。レトルト臭が消え、神奈川県の七里ヶ浜にある実店舗の『珊瑚礁』独特の乳製品の香りの再現度が高まりました。
――『噂の名店』と似たシリーズにハウス食品の『選ばれし人気店』がありますが、どういう関係ですか。
丸山 エスビー食品が’17年夏に発売した『噂の名店 大阪スパイスキーマカレー』(432円)のヒットを受けての対抗策と見ています。『選ばれし人気店』をハウス食品が立ち上げたのは’18年。翌’19年にはエスビー食品が『神田カレーグランプリ』シリーズを立ち上げ、″名店モノ″というジャンルが定着しました。
――『選ばれし人気店』のオススメは?
井上 『180g 選ばれし人気店 スリランカカリーチキン』を推したいですね。実売価格は400円ほど。インドカレーとは少し異なる香辛料を使っていて、マイルド。スリランカにはカレーをビーフンにかけた「ストリング・ホッパー」という伝統料理があります。ご飯にも合いますが、ビーフンと合わせて現地のカレーを再現するのもオススメです。
目取眞 ビーフンは米粉ですから合うんでしょうね。僕の推しは『150g 選ばれし人気店 牛豚キーマカレー』です。下北沢(世田谷区)の実店舗『旧ヤム邸』は人気店ですが、安いと400円ほどでその味を体験できます。
――『神田カレーグランプリ』では?
丸山 オススメは『神田カレーグランプリ 欧風カレーボンディ チーズカレー』(432円)。ボンディの濃厚な味わいが再現されています。
目取眞 僕は『神田カレーグランプリ お茶の水 大勝軒 復刻版カレー』(432円)が好きですね。つけ麺店『大勝軒』の魚介スープがベースで、″蕎麦屋のカレー″のような懐かしい味わいです。
――中村屋のレトルトカレーも大人気ですが、注目の商品はありますか?
丸山 ’01年に『インドカリー』シリーズで市場に参入。″スパイスの香り重視″のレトルトカレーであったことが革新的でした。それまで多くのレトルトカレーは、家庭料理の延長線上にある欧風カレーでした。インドカレーやタイカレーは専門店に行かないと食べられない。そんな常識を打ち破りました。
井上 同社の最強は『インドカリー ビーフスパイシー』(416円)でしょう。インドでは宗教の関係で牛肉を使ったカレーはほとんどありません。そんななか、中村屋が独自のレシピを作って、『インドカリー』シリーズを売り出しました。中村屋のスパイスカレーは口の中で踊り、鼻に抜けるようで、ハウス食品ともエスビー食品とも風味が異なります。
目取眞 バターチキンと悩みましたが、最強は『ビーフスパイシー』に同意です。しっかりとしたスパイスで、レストランでサーブされる味が再現されています。
丸山 バターチキンであれば、成城石井とコラボした『成城石井&新宿中村屋バターチキンカリー170g』(387円)が秀作ですよ。オリジナルブランドよりも上品です。余談ですが、成城石井はレトルトカレーの品揃えが素晴らしいですよね。
――食品専業ではありませんが、無印良品のレトルトカレーも人気です。
丸山 無印は’02年にグリーンカレーを販売したことで、タイカレーを広めました。’09年に大ヒット商品のバターチキンカレーを発売したのが決定打でしょう。業界に欠かせない存在になりましたね。
井上 バターチキンは現在6代目ですが、初登場時のインパクトはすごかったですね。現在は、『素材を生かしたカレー 6代目バターチキン』(350円)、『素材を生かしたカレー グリーン』(350円)、『素材を生かしたカレー スパイシーチキン』(350円)が3本柱でしょうか。
目取眞 無印のカレーの大半は宮城県のにしき食品が手掛けているんですよね。3年に1回くらいのペースでマイナーチェンジを続けています。無印、にしき、両社の担当者がインドに行って、現地の流行をブラッシュアップしているそうです。個人的に『6代目』は歴代最高のデキだと思っています。ビッグカルダモンを加えたスモーキーで奥行きのある味わいは、日本人が食べても美味しいし、インド人が食べても、本格的と納得するでしょう。お米はもちろん、ナンにも合うし、パスタに絡めても美味しい。
150円で驚きのクオリティ
丸山 僕はあえて『焙煎スパイスのごろり牛肉カレー』(490円)を勧めたいですね。昨年11月発売と比較的新しい商品ですが、一時入手困難になるほど人気を博しました。まろやかなイメージのある欧風カレーをベースとしながら、ガツンとしたスパイスを感じられます。
目取眞 無印のカレーはローソンやファミリーマートでも買えるので、手軽に入手できる点もポイントが高いですね。
――その他メーカーの注目商品は?
丸山 ヤマモリの『タイカレー グリーン』(453円)は外せない。クオリティが高過ぎて、そのままレストランで出しても、レトルトとは思われないでしょう。ヤマモリは一時期『タイカレー』の上位シリーズを出しましたが、現行品でかなりの満足感を得られるので、上位シリーズは定着しませんでした。それほど『タイカレー』の完成度は高い。
目取眞 『タイカレー』はタイで作っているんですよね。本場の味を追求するためにタイ工場を建設したと聞いています。
――結論に参りましょう。
目取眞 味、価格、家庭で作るのが難しいが、簡単に入手できる。などを考えてエスビー食品『噂の名店』の『湘南ドライカレー』を推したいと思います。
丸山 僕のイチ押しも『噂の名店』から『南インド風チキンカレー』。ただ、今回の議論を経て、ハウス食品の『プロクオリティ』の総合力の高さに惹かれてきました。井上さんはブラック推しでしたが、私は中辛を推したい。
井上 トレンド性も重視して、シリーズではブラックをオススメしたいところですが、中辛も十分美味しいと思います。
目取眞 具材なしの『プロクオリティ』はアレンジも楽しみたい商品。変化球的なブラックより、中辛のほうが使い勝手が良い印象があります。僕も中辛に一票。
3位
噂の名店
湘南ドライカレー(エスビー食品)

神奈川県・七里ヶ浜の名店が監修。挽肉の旨味とスパイス、バターが調和する
2位
噂の名店 南インド風
チキンカレー(エスビー食品)

東京駅八重洲地下街に本店を構える名店『エリックサウス』が監修した逸品
侃々諤々の議論の末、3名のカレーマスターが選んだ逸品は、ハウス食品の『プロクオリティカレー4袋入り中辛』だ。そのまま食べても旨いが、具材を加えたり、ソースとして料理に添えるなど自由度の高さが決め手となった。今回の激論を参考に、さまざまなレトルトカレーを楽しんでみてはいかがだろう。
1位
プロクオリティカレー
4袋入り 中辛(ハウス食品)

一袋あたり約150円の安さ。コク深い味わいに複雑なスパイスの香りがマッチ
『FRIDAY』2025年9月5日号より