神楽坂限定「ペコちゃん焼」1日1000個売れる魅力

怖さもありつつカワイイ見た目が魅力の「ペコちゃん焼」(撮影:尾形文繁)
日本人なら誰もが知る永遠の少女、「不二家」のマスコットキャラクター・ペコちゃん。ペコちゃんは1950年生まれなので、今年2025年は誕生75年の節目にあたる。この記念すべき年に多くの人に手に取ってもらいたいのが、東京・飯田橋(神楽坂)でしか買うことができない、知る人ぞ知る名物「ペコちゃん焼」だ。
【写真24枚】これは確かにコワくてカワイイ! あつかりふわっな食感で多くの人をひきつける「ペコちゃん焼」を徹底解剖
「ペコちゃん焼」とは、ペコちゃんの顔をかたどった、焼きたての大判焼き(今川焼き)のこと。1910年に創業した不二家が、話題づくりの一環として販売を始めた、洋菓子店の手作りの和菓子だ。
かつては全国十数店舗の不二家で取り扱われていたが、「手間がかかる」「設備のための場所をとる」といった理由から次第に姿を消し、今は飯田橋神楽坂店だけがその味を守っている。
地元客はもとより、全国からファンが同店を訪れる。お花見シーズンなど、多い日は1日で約1000個を販売し、休日の午後には行列ができることも多い。55年以上も愛され続ける「ペコちゃん焼」の魅力と歩みをひも解いてみよう。
古き良き日本のケーキ屋さん
東京メトロ「飯田橋」駅B3出口から歩いて、ほんの数秒。不二家・飯田橋神楽坂店のアクセスは抜群だ。出口を出て右を向くと、すぐに「日本でここだけ」の看板と、かわいい店頭ペコちゃん人形が出迎えてくれる。

「日本でここだけ!」の看板が掲げられた飯田橋神楽坂店(撮影:尾形文繁)
店に入ると、昔ながらのロゴやポスターが飾られ、古き良き日本のケーキ屋さんといったたたずまい。8月のショーケースには、10種類のペコちゃん焼が並んでいた。
定番(現在)の「北海道十勝産つぶあん」「北海道十勝産なめらかこしあん」「カスタード」「チーズクリーム」「板チョコ」「ミルキークリーム」「カントリーマアムクリーム」など。夏限定の「まろやか豆乳クリーム」(8月末まで)もあった。

8月のショーケース。「まろやか豆乳クリーム」は8月末までの販売(撮影:尾形文繁)
川崎市麻生区から訪れたという女性は「ペコちゃん焼は以前から知っていてようやく今日初めて来ました。うれしい」とにっこり。家族6人分と予備を合わせて8個を購入していた。
どれにしようか迷うのが楽しい
「熱々でカリカリ、そしてふんわり──、あつかりふわっ、を目指しています」とほほ笑むのは、店長の平松潮さん。2004年から20年以上にわたって「ペコちゃん焼」を店内で焼き続けている。
「私が店長になってからは、原料や配合、焼成機や道具をすべて見直しました。神楽坂を代表する手土産として、自信の持てるものにしたかったのです」。生地をよりおいしくするために卵の比率を高め、小麦や油脂も見直したという。
特注した焼き台は、ペコちゃんの顔が6個ならんだ金型が9セット、つまり一度に54個を焼ける構造だ。焼き方は、まず左の「後頭部」にあたる焼き型に、生地を流し込んで中身(クリームなど)をのせ、右の「前頭部」には生地だけを注ぎ、約10分焼いてから両サイドをドッキング。
「ペコちゃんの耳に生地をしっかり入れるのも大事。ここがカリッとした食感になります」(平松さん)

ドッキング前に軽く押すことで凹みができると同時に、耳の部分に生地が入る(撮影:尾形文繁)
人気ベスト3は、1位「ミルキークリーム」(不二家の「ミルキー」をイメージしたクリーム入り)、2位「カスタード」、3位は「北海道十勝産つぶあん」または「北海道十勝産なめらかこしあん」だそうだ。ちなみに筆者はチョコやチーズが好きなので、「板チョコ」や「チーズクリーム」にもひかれてしまう。
これまでに50種以上が販売され、季節限定の「さくらあん」(春)、「マロンクリーム」(秋)、「カフェショコラ」(バレンタインデー)、「抹茶ショコラブラン」(ホワイトデー)、東京・丸の内で採れた蜂蜜にバターを合わせた「東京蜂蜜バターあん」のようなプレミアムタイプもある。
人気の秘密は味だけではない。ビジュアルのインパクトも魅力の1つだ。
「友人へお土産にしたら『日焼けしたペコちゃんだね!』と盛り上がり、気に入って自分でも買いに行ったそうです」(埼玉県から訪れていた男性客)。実際、筆者もかつて知人に差し入れたところ、「かわいい、ちょっとこわーい!」などと大いに盛り上がり、とても喜ばれた。

焼き上がった「ペコちゃん焼」。1つひとつ表情が微妙に異なる(撮影:尾形文繁)
「黒目はありますが、白目にも見えて『かわいい』『怖い』と盛り上がる力がすごい。楽しい会話が生まれます」と平松さん。
実は、2006年頃からペコちゃんのボーイフレンド「ポコちゃん」をかたどった「ポコちゃん焼」も登場。まれにランダムに交ざっているそうで、出会えばラッキーな気分になれそうだ。
「ペコちゃん焼」は家業
不二家は全国に約865店舗(2025年6月末時点)を展開し、フランチャイズ店もある。飯田橋神楽坂店もその1つで、1967年に店長・平松さんの祖父である小峰新一さんが加盟店を始めた。
のちに父親が経営を引き継ぎ、2004年には大学を卒業して建築会社に勤めていた平松さんが店を継ぐ決意を固めた。創業2年目から続く「ペコちゃん焼」は、一家が代々守ってきた家業でもある。

飯田橋神楽坂店の平松潮店長(撮影:尾形文繁)
平松さんの仕事は多岐にわたる。出勤日には必ず自ら焼き台に立ち、生地や中身を仕込み、接客もこなす。誕生日ケーキの名入れ作業も多い。
順風満帆なことばかりでなく、「もうだめかもしれない」と思った時期もある。コロナ禍には来店客が激減し、売り上げが大幅に落ち込んだ。店を運営する株式会社東京園の代表取締役でもある平松さんは、従業員を自宅に待機させ、1人ですべての作業を担いながら、なんとか資金をやり繰りして店を守った。
原料費の高騰などが影響し、現在も厳しい経営環境は続いているという。「スタッフの協力のもと、人員を絞って運営しています。将来に希望を持てる新たな一手を見いだすのが課題です」(平松さん)。
「どんなことがあっても『ペコちゃん焼』にこだわり続ける理由は?」と尋ねると、平松さんは迷わず、「お客様の笑顔が励みになっているからです。焼いているときは楽しいと思ったことしかありません」と答えた。
多くの人の思い出と共に
古き良き日本の面影を残す神楽坂周辺は、東京理科大学や法政大学がキャンパスを構える、学生の街でもある。「学生の頃、よく買いに来た。久しぶりの神楽坂、30年ぶりに来ました」「近くに住んでいて小さい頃から食べています。この店、ずっとあるよね。これからも買いに来るから頑張ってね」といった地元住民の声に平松さんが励まされることもある。
近くに住む子どもたちもやってくる。「ただ丸いより、ペコちゃんの顔がかわいいから、子どもが喜ぶんです」(小学生の女の子と訪れていた母親)。

店内にはお絵描きスペースがあり、子どもたちが描いた絵が飾られている(撮影:尾形文繁)
近年は、神楽坂に高級な飲食店が増え「大人の街」としての顔もある。ペコちゃん焼の詰め合わせギフト需要が増え、オリジナルボックスのデザインが好評だ。
「ペコちゃん焼の歴史は、お客様の思い出と共にあります。75年を迎えたペコちゃんと共に、これからもお客様を喜ばせたい。ペコちゃん焼は僕の人生です」と平松さん。焼き台を手際よく操る姿は頼もしかった。
多くの人を笑顔にしてきた「ペコちゃん焼」が、願わくはこの先も店頭に並び続けてほしい。