「工場へ入ると人が木に引っかかっていた…本当に地獄だ」97歳が語る“名古屋空襲”の記憶から高校生が“怖くない絵本”づくりに挑戦 #戦争の記憶

高校生が挑戦したのは…“怖くない戦争の絵本”

名古屋に住む“おかちゃん”という少年を主人公にしたこの絵本。“おかちゃん”が生きたのは…戦禍の日本です。

この絵本を作ったのは、東邦高校「平和実行委員会」の生徒たち。

なぜ、東邦高校の生徒が戦争を伝える絵本を作ることを決めたのか。その背景には、惨劇の記憶がありました。

B29による工場への爆弾投下で生徒と教員合わせて20名が亡くなる

中京テレビNEWS ©中京テレビ

当時、戦闘機や兵器を作る工場が集まっていた名古屋。東邦高校の生徒たちは工場などで、勤労学徒として働いていました。

こうした中、1944年12月13日午後1時ごろ。零戦のエンジンを作っていた、三菱発動機の工場へアメリカ軍のB29が181トンの爆弾を投下。この空襲により330人が亡くなり、動員されていた、東邦高校の生徒18名と教員2名の命が犠牲となりました。

(「旧制商業学校からの百年 語り継ぐ東邦学園史」より)

「工場へ入ると人が木に引っかかっていた…本当に地獄だ」

東邦高校OB・岡島貞一さん(97) ©中京テレビ

当時の惨状を「地獄だった」と話すのは、東邦高校OBの岡島貞一さん(97)。当時16歳だった岡島さんも、「三菱発動機」の工場で働いていた1人です。その日は、たまたま夜勤で工場にはおらず、被害を免れました。

岡島貞一さん(97):

「爆弾がドーンって音が2つか3つくらい大きな音がした。12月13日ね。夕方の5時ごろに僕は、工場に行った。工場へ入るととたんに、人が木に引っかかってんの。遺体なんか見えなかったもんな、爆撃でやられちゃって…ほんで食堂の方では棺おけの中に人が入っちゃってる。もう地獄みたい、本当に地獄だ」

太平洋戦争の間、アメリカ軍は、名古屋に63回もの空襲を行い死者7858名、負傷者10378名の甚大な被害をもたらしました。(総務省より)

岡島さんの“戦禍の記憶”を絵本に…

岡島さんから話を聞く東邦高校の生徒(今年2月) ©中京テレビ

こうした“名古屋空襲”を、子どもたちにも伝えたいと考えた東邦高校の生徒たち。岡島さん(97)をモデルとした絵本を作ることを決めました。

柴山艶吉さん:「防空壕の中で…」

岡島貞一さん(97):「防空壕の中ね、下に水がたまっとるんだわ。そうそうこの辺まで水がたまってな」

生徒たちは岡島さんの自宅を訪れ、写真には残されていない、当時の細かな情景を教えてもらいました。

金子和香奈さん:

「私たちが生きてきた時代とは違うということでどうしても “おかちゃん”の生活というか人間性をちゃんと追い切れていなかったと思うんですけど、岡島さんに話を聞いて、それが確固たるものになったと思います。人物像が固まったというか」

目指すのは“怖くない絵本”

絵を描く金子さん(今年3月) ©中京テレビ

美術科の2年生・金子和香奈さん(16)。金子さんがこの活動に参加したのには、空襲被害の研究をしていた祖父の影響がありました。

金子和香奈さん:

「幼いころから祖父にいろんな話(戦争の話)を聞いてきたので戦争とかに興味があったんじゃないかなと思います。名古屋空襲を知らない人たちに存在を知ってほしいですし、戦争が奪うものについて色々考えてほしい」

金子さんたちが目指すのは、“怖くない戦争の絵本”です。まだ戦争を知らない、幼い子どもが初めて戦争を知る「最初の入り口」となる絵本にしたいと考えています。

さっそく、学校で3年生の先輩を中心に絵を描き進めますが…

柴山艶吉さん:「この場面は工場が燃えているという場面。この状態が怖くみえるかどうか…」

青木健人さん:「ここはむしろ怖く映したほうがいいかもね」

柴山艶吉さん:「(子どもは)工場が燃えている状態が理解しづらい…」

青木健人さん:「それが分かるように描くということか…」

空襲によって、街が一変してしまう恐ろしさを伝えたい。しかし、「怖い表現は避けたい」というジレンマを感じていました。

外国の子どもにも“名古屋空襲”を知ってほしい

文の英訳をする大谷さん(今年4月) ©中京テレビ

絵本を作り始めてから半年ほど。3年生の大谷美優さん(18)が行っていたのは、文を英訳する作業です。

大谷美優さん:

「日本語にしかない言葉のニュアンスとかもあるから英語に訳した時にそのまま伝わらないかもしれないけど、できるだけそれに近い意味で伝えるようにはしたい」

同じ言葉でも、意味やニュアンスが変わる難しさ。“外国の子どもたちにも伝えたい”とひとつひとつの言葉を丁寧に訳します。

大谷美優さん:

「どこかで家族や友達同士で読んだ時に何か『平和ってなんだろうね』『平和な世界ってどんな世界だろうね』って話してもらえる絵本にできたらいいなと思います」

きれいな青空は“戦争のないことの証し”

絵本を持つ金子さん(今年7月) ©中京テレビ

7月になると、約1年かけた絵本づくりも完成に近づいてきました。絵を担当した金子さんには、たくさんあるページの中でも大切な1枚があると話します。

金子和香奈さん:「私が特に頑張ったなって思えるのは一番最初の表紙絵です」

何度も描き直して仕上げたという、絵本の表紙。

金子和香奈さん:

「戦争があるとこういう感じのきれいな青空ってないと思うんですよ。戦闘機が飛んでいたり、煙があがっていたり。だからこの青空は戦争がないことの証しで、絵本の世界というかこの表紙では『平和だよ』っていう意味で描きました」

絵本のタイトルは「おかちゃんとピース」。平和への願いをこめてみんなで決めました。

97歳の記憶を繋ぐ“怖くない戦争の絵本”

保育園で読み聞かせを行う様子(今年7月) ©中京テレビ

待ちに待ったこの日。

金子さんと大谷さんたちは、完成した絵本を保育園で読み聞かせしました。

制作:東邦高校 平和実行委員会 ©中京テレビ

制作:東邦高校 平和実行委員会 ©中京テレビ

制作:東邦高校 平和実行委員会 ©中京テレビ

制作:東邦高校 平和実行委員会 ©中京テレビ

制作:東邦高校 平和実行委員会 ©中京テレビ

制作:東邦高校 平和実行委員会 ©中京テレビ

保育士:「みんなどうだったかな?」

子どもたち:「いみわからなかった~」

子どもたちにはまだ難しかったみたいですが、「たのしかった」「(絵が)きれいだった」という、嬉しい声も。

保護者:

「私は祖母から戦争の話を聞いてきたけど、やっぱこの子たちには直接話してくれる人がもういないので。絵本を読みながら場面も伝えながら『どう思う?』ということ を子ども達に聞ける、いいきっかけになる」

中京テレビNEWS ©中京テレビ

絵本を通して伝えた岡島さんの、戦禍の記憶。

戦後80年の今年、「メッセージ」は次の、次の世代へ受け継がれていきます。