「ブスはひっこんでろ」と言われたバービーが声を大にして言いたいこと

フォーリンラブのバービーさんが芸人として、ひとりの女性として、モヤモヤしたことや疑問に思ったことなどと向き合い、自らの言葉で本音を綴っているFRaUweb連載「 本音の置き場所 」(毎月1回更新)。今回は、幼少期から容姿コンプレックスを抱え、芸人として活躍するなかで容姿いじりや自虐ネタに違和感を持ったバービーさんが、本連載でも何度か触れている「見た目」に関する話をお届けします。先日開催されたFRaUのイベントでも、見た目をテーマに子どもたちに向けてお話しされたバービーさんが、改めて考えるルッキズム(外見至上主義)との向き合い方、そして容姿に悩む人たちへいま伝えたいことを綴っていただきました。

「ブスはひっこんでろ」

「外見ひとつで、しゃしゃり出ちゃいけないと思われる社会なんだなって。だけど、それはこの場所での価値観であって、私は違う価値観で生きてるから、別にいいやって。だから、我慢しない。出したいときに出す。」

──2017年11月13日、バービーX(旧Twitter)より

あの頃はルッキズムなんて言葉は知られてなくて、自分は過激にお下劣『日本代表ブス』としてたくさんお仕事をしていたまっ最中。いじってもらえてありがたいし、おいしいと思っていた。

でも、美醜によって敬われたり蔑まれたりするのは違うと思っていた。

目立てば「出すぎ」、しゃべれば「勘違い」、オシャレすれば「イタイ」と言われるような空気。

「ブスはひっこんでろ」にモヤモヤが最高潮になってしまっていた2017年11月、当時33歳の私。

この時期には珍しく、わたしは真面目なツイートをしていた。トイレの前で悶えている写真を添えて。

女芸人が見た目について真面目に語れなかった

いま思えば、あれは本音がこぼれかけた瞬間だったのかもしれない。

この連載『本音の置き場所』が始まったのは2019年12月27日。その2年前はまだ、“いち女芸人”が外見について真面目に語るなんて許されない空気が漂っていたとき。

わたしは、トイレにも流せない本音を抱えていた。

「出したいときに出す」なんて言ってはみたけれど、ほんとうは出したくても、どこに置けばいいのかわからなかった。

だから、感情を便意みたいに抱えたまま、出す場所もなくて、トイレの前で悶えていた。出したくて、出せなくて、詰まったまま。

笑いに包んでも誤魔化しきれない、悶々としておどろおどろしい感情が、いまもあの写真を見ると蘇る。

この頃が、外見や見た目にまつわる違和感と向き合いはじめたスタート地点だったのかもしれない。 

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写真提供/バービー

心地よさの裏でザラつくような感覚

なんとなく感じていた「見られ方へのざわつき」が、この頃から少しずつ、輪郭を持ち始めた。

だからこそ、最近よく耳にするフレーズに、ひっかかりを覚えるのかもしれない。

「かわいいは正義」

「かわいいは才能」

たしかに耳障りがよくて、ポジティブで、誰かを肯定しているように聞こえる。そして、シンプルだからこそ、脳みそにダイレクトに刺さる。一瞬で信じたくなるような力がある。

でもーー。

その“心地よさ”の裏で、わたしはどこかザラつくような感覚があった。

「じゃあ、かわいくなければ不正義なの?」

「かわいくなければ、才能がないの?」

誰かを持ち上げる言葉のはずなのに、その反対側にいる誰かがそっと切り捨てられている気がする。

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写真提供/バービー

言葉の力が、無防備な心にこびりついてしまうのでは

なぜ、ざらつくのか。

それは、この言葉の力が、無防備な心にこびりついてしまうような強さがあるからだ。

まだ判断力が育ちきっていないティーンの子たちの心に、麻薬のように染み込んでしまうんじゃないかと感じる。

正義なんて、人それぞれ違っていいはずなのに、そう思える前に、「これが正義なんだ」と思い込んでしまったら、違う形の美しさや自分らしさに出会う機会を手放してしまうかもしれない。

それが、わたしには少し怖い。

小1から中3に「見た目」の話

先日、講談社で開かれたFRaU×KANEBO こどもコンテストワークショップに僭越ながら講師として登壇する機会をいただいた。2022年から開催している「FRaU SDGs eduこどもプレゼン・コンテスト」の審査員を4年目の今年からつとめることになり、ワークショップの講師として声がかかったのだ。

あの頃、トイレの前で悶えていたわたしが、いまはこうして、“見た目”や“好き”について子どもたちに語る側にいる。なんだか、不思議な感覚だった。

授業のタイトルは、「自分の見た目が嫌い」って思ってない?バービーと考える「見た目の話」。子どもたちは、小学1年生から中学3年生までと幅広い。

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撮影/神谷美寛

親子で一緒に参加されている方が多く、全体としては和やかな雰囲気だったけれど、小さな子から高校生くらいの子までが一緒に聞いているという状況は、やっぱり難しい。

どんな言葉なら届くんだろう?

どこまで噛み砕けば伝わるんだろう?

もっと真剣にNHK教育を見ておくんだった!

そんなことばかり考えて、ちょっと焦っていた。

一旦、自分の過去の写真のスライドショーを駆使して、ひたすら“画力”でごまかした。

どうしても伝えたかったこと

でもその中で、どうしても伝えたかったことがあった。

たとえば、こんな話をした。

「もし、“ぽっちゃりのほうがかわいい”という時代だったら?」

「もし、“一重まぶたが流行りで、整形広告も全部一重だったら?”」

そういう例えを出しながら、わたしはこう伝えた。

“かわいい”や“キレイ”って、時代や文化、社会によってコロコロ変わる“概念”なんだよ。だから、今ある“正解”みたいなものに、自分を必死に合わせる必要なんてない。

逆に言えば、合わせすぎると、あとから変わったときに、自分を見失ってしまうかもしれない。

そしてもうひとつ、どうしても伝えたかったのは、「好き」って、本当はもっとピュアなものだということ。

赤ちゃんの「好き!」から気づいたこと

いま、わたしは1歳の赤ちゃんを育てている。

彼女はまだ言葉を話さないのに、光るものやふわふわしたものを見つけると、「好き!」って顔をする。嬉しそうに手を伸ばして、ぎゅーっと抱きつくこともある。

この世に生まれて、たった1年。それでも彼女はもう、“好き”という感情で、世界を選び取っている。

お気に入りの絵本には片付けても片付けても手を伸ばすし、お風呂の時間には「来た!」って顔でテンションが天井を突き抜けるほど上がる。その判断にはSNSのバズも流行ランキングも一切関与していない。

誰とも比べていない。ただ、全力で自分の感覚を信じてる。

そんな姿を見ていると自分の「好き」ってなんだったっけ……とぼんやりしてしまう。

「ウケがいいから好き」

「評価されそうだから好き」

「かわいいと思われたいから着たい」

わたしたち大人の“好き”って、もしかして“よごれちまったかわいさ” なのかもしれない。

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写真提供/バービー

「好き」を貫くのはけっこう大変だ

赤ちゃんの、あの純度100%の「好き」を目の前にすると、つい笑ってしまう。そして、ちょっと泣きそうにもなる。

そういう「好き」が、大きくなるにつれて、だんだん消えてしまうことがある。

「それ変って言われるかも」

「こんなの好きって言ったら浮くかな」

そんなふうに、“こうあるべき”という先入観が、自分の「好き」を押し込めてしまうことがあるんだと思う。

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撮影/神谷美寛

そして、わたしはこうも伝えた。

「その“好き”、どうか守ってほしい」

「変だと思われるかも」「笑われるかも」って気にして、“好き”を貫くのは、実はけっこう大変だ。トライアンドエラーもするし、まわりに合わせたほうが、ずっと効率的に見えることもある。

でも、それで“好き”を諦めてしまうほうが、もったいない。だからこそ、こう伝えたかった。

「“好き”を守るって、自分の心にとっての居心地のよさを守ることでもあるんだよ」と。

◇後編【「かわいいは正義」に疑問。バービーが小中学生に伝えた「見た目」の話】では、バービーさんがさらにどのように伝えていったのか、ワークショップに参加した子どもたちからの声とともに紹介します。