スペースワン、カイロス2号機の飛行中断について原因究明結果を報告

スペースワン株式会社は2025年8月31日、2024年12月に打ち上げを実施した同社の「カイロス(KAIROS)」ロケット2号機に関する説明会を開催しました。

カイロスとは

【▲ スペースポート紀伊で日本時間2024年12月18日11時0分に発射された「カイロス」ロケット2号機。公式ライブ配信から(Credit: スペースポート紀伊周辺地域協議会)】

カイロスはスペースワンが開発した全長約18m・3段式の固体燃料ロケットで、ペイロードの軌道投入制度を高めるための液体推進系キックステージを備えています。同社は契約から打ち上げまでの「世界最短」と打ち上げ頻度の「世界最高頻度」を目指すとしています。

2024年3月13日に打ち上げられたカイロス初号機は、発射約5秒後に自律的な飛行中断措置が行われて射場直上で爆発し、ペイロードを軌道に投入することはできませんでした。

原因は推進薬の燃焼速度を予測するプロセスに問題があったためとされていて、2号機以降は推進薬燃焼速度の予測プロセスの改善と、初号機では厳しめに設定されていた飛行正常範囲の設定見直しを講じたと発表されています。

【▲ 上昇する「カイロス」ロケット2号機。公式ライブ配信から(Credit: スペースポート紀伊周辺地域協議会)】

続く2024年12月18日に打ち上げられたカイロス2号機は、発射約3分7秒後に自律的な飛行中断措置が行われ、初号機に続いてペイロードの軌道投入には至りませんでした。

当日中に開催された説明会では、発射約1分20秒後に1段目ノズルの駆動制御(※)で異常が発生し、ノズルの角度が通常の状態よりも大きかったことと、その約1分後に1段目から分離・点火した2段目の飛行経路が西側へと逸れていき、計画飛行経路の限界線を越えたために飛行中断措置が行われたことが考えられると発表されていました。

※…燃焼ガスを噴き出すノズルの向きを変えて飛行方向を制御するための機能。

1段目ノズルの角度を検知する機能に異常発生

今回開催された説明会では、カイロス2号機の飛行中断原因究明の結果が報告されました。スペースワンによると、原因は1段目ノズルの舵角(ノズルの傾きの大きさ)を検知するセンサーからの誤った信号による事象であることが判明したということです。

飛行中のカイロスの姿勢は、燃焼ガスが通過するノズルの舵角で制御されています。ノズルには2本の電動アクチュエータが90度の間隔で取り付けられており、2本の動きを組み合わせることで舵角を上下左右に変更します。アクチュエータには対となるリファレンスロッドという部品がノズルの反対側に1本ずつ取り付けられていて、このリファレンスロッドの伸縮量をもとに実際の偏向角を検知することで、舵角を目的の角度にセットできる仕組みです。

【▲ カイロスロケット1段目ノズル部分の拡大図と、電動アクチュエータおよびリファレンスロッドの配置図。スペースワンの資料から引用(Credit: スペースワン)】

スペースワンによると、カイロス2号機は発射1分26.2秒後、1段目ノズルのリファレンスロッドの片方(図中の「1軸」側)で伸縮量の値が急変する異常が発生。実際にはノズルはそのように動いていなかったものの、1段目のシステム(姿勢制御コントローラー)はノズルが急に偏向して舵角が付いたと認識してしまいます。

正しい舵角に戻そうとしたシステムは電動アクチュエータを操作するものの、誤ったリファレンスロッドの情報をもとに操作をすることになったため、ノズルは意図しない舵角に偏向されてしまいます。すると、ノズルが誤った舵角に偏向されたことで、機体の姿勢が実際に変化してしまいました。システムは姿勢を修正するためにノズルを新たな舵角に偏向しようとしますが、リファレンスロッドから正しい値を取得できないため、どれだけ操作を繰り返しても正しい舵角にセットすることはできません。

こうしてカイロス2号機は1段目の飛行中にスピン状態に陥ってしまい、1段目の分離後に飛行を開始した2号機でも姿勢を立て直すことができなかったため、前述の通り発射3分7秒後(2段目の点火から45秒後)に経路を逸脱したと判断した自律飛行安全システムによって、機体が破壊されるに至ったと説明されています。

原因究明結果を受けて、スペースワンは1段目の姿勢制御に関わるセンサーの設計を一部見直し、3号機では対策を施したセンサーを搭載。信頼度を高めるため、ハーネス(配線の束)についても末端の処理や固定位置の追加・変更などの対策を行うとしています。

加えて、2段目と3段目の姿勢制御系機器についても1段目と同様の対策を行うとともに、開発・製造データの確認や組み立て・点検工程の確認といった総点検を実施していると述べられています。

カイロス3号機のペイロードも明らかに 打ち上げ時期は後日公表

なお、カイロス3号機にはペイロードとして、以下の人工衛星4機が搭載されることも発表されました。打ち上げ時期は改めて公表するということです。

・株式会社アークエッジ・スペースの超小型衛星「AETS-1」

・株式会社Space Cubicsの超小型衛星「SC-Sat1a」

・テラスペース株式会社の70kg級超小型衛星「TATARA-1R」

・広尾学園中学校・高等学校の超小型衛星「HErO(Hiroo Engineering for Orbit)」

文・編集/sorae編集部

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参考文献・出典

・スペースワン - 公式ウェブサイト