過去54年で年平均約8.8%上昇! 史上最高値を更新し続ける「金」が、それでも「バブルではない」といえる“これだけの理由”
過去54年で年平均約8.8%上昇! 史上最高値を更新し続ける「金」が、それでも「バブルではない」といえる“これだけの理由”
金価格は今後も上がり続ける可能性が高い
――ここ数年、金価格が大きく上昇しています。その背景にはどのような要因があるのでしょうか?
チャン 「有事の金」と呼ばれるように、金は非常事態が起きた際に逃避先としてニーズが高まる傾向にある資産です。近年は、ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢、トランプ関税などの影響で、市場の不透明性が続いていますが、その資金の逃避先として金価格が大きく上昇しました。
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント ゴールドストラテジスト アーロン・チャン氏
稲 さらに金の需要を細かく分類すると、主に①宝飾品需要、②工業用品需要、③投資需要、④中央銀行からの需要の4つに分けられます。このうちここ数年で特に伸びが大きいのが、④の中央銀行からの需要です。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアが保有する米ドル資産が凍結されました。これを受け、米国と対立する可能性のある中国などが、外貨準備における米ドルへの依存を減らし、代わりに金を購入する動きを加速させています。特に2022年からの3年間は、毎年1000トンを超える、過去に例のないペースで購入が続いています。
世界の情勢が不安定で、米ドルの信任が揺らぐ局面では、自国の通貨価値を守るための資産として金の重要性が高まります。この流れは、世界各地の紛争が解決し、米ドルへの信頼が回復しない限り、大きくは変わらないと考えています。
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント 常務執行役員 金融法人営業部長 稲寛彰氏
――一方で、これほど価格が急騰していると「バブルではないか?」「一過性のものでは?」 といった懐疑的な見方もひろがっています。その点はいかがでしょうか?
チャン バブルではないと考えています。需要については、世界情勢が改善しない限りは下がることは考えにくいです。また、供給については、金は希少性の高い資産です。地球上に残された採掘可能な金の埋蔵量には限りがあります。供給が先細りしていくことを考えれば、価格は上昇していくのではないでしょうか。歴史的に見ても、金取引が自由化されてからの54年間、金の価格は年率平均で8.8%ほど上昇し続けています。
稲 金は、株式と違って企業価値の評価(バリュエーション)のような概念が当てはまりません。価格は純粋に需要と供給のバランスで決まります。希少性が高く、需要も底堅いうえに人類の長い歴史において価値を認めてきた特別な資産であることも踏まえると、株価のように暴落することは考えにくい資産です。
金は長期で高いリターンを期待できる
――NISAで全世界株式や米国株式にインデックス投資することがスタンダードな手法として確立されつつあります。その中で、金への投資を行う意義について教えてください。
チャン まずは、分散効果です。金は株式や債券との値動きの相関性が低いため、株価が大きく下落するような局面でポートフォリオ全体の下落を和らげる効果が期待できます。ほとんどの資産がマイナスになる中で金だけがプラス、ということもあり得ます。さらに、守りの資産というだけでなく、実は長期的なリターンも期待でき、長期で見ると株式に近い水準です。最もリターンが高い米国株と相関が低く、これほど効率的な分散投資先はなかなかありません(下図)。
稲 株式しか持っていないと、相場が急落した時に不安が募り、慌てて損切りしてしまう方もいらっしゃると思います。そうした場合でも、金にも分散投資していれば、資産全体の下落の幅を抑えられるため、精神的な支えにもなるでしょう。
――全世界株式や米国株式で資産形成を行っている人の場合、金をどのくらいの割合で組み入れるのが効果的でしょうか?
チャン ポートフォリオが全て株式であれば、金の割合は10〜15%以上あっても良いと思います。リスク資産の割合が大きければ大きいほど、分散効果を高めるために金の割合を増やす、という考え方が有効です。
稲 われわれのシミュレーションでは、例えばS&P500のインデックスファンドに100%投資する場合と、S&P500と金を50%ずつ保有する場合を比較すると、後者の方が投資パフォーマンスの結果が良くなりました(下図)。個人の投資家ごとに考え方も違うと思いますが、S&P500やオール・カントリーの次に何を買うか検討する際、金は非常に有力な選択肢になると言えるでしょう。
投資信託とETFはどちらが良い?
――金への投資を始めるにあたり、身近な投資手段として、投資信託とETFという選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを教えてください。
稲 投資信託はこれから投資を始める方や、毎月決まった額を自動で積み立てたい方におすすめです。いわゆる「ほったらかし投資」に適しています。
ETFは、取引所の取引時間中であれば、リアルタイムの価格を見ながらいつでも売買できるので、自分の投資を細かく実現したい方に向いています。
一般的に、投資信託から始めた方が経験を積むにつれてETFに移っていく傾向があります。ご自身の投資スタイルに合わせて選んでいただくのが良いでしょう。
――最後に、個人投資家が金に投資する上での注意点があれば教えてください。
チャン 金価格は一本調子で上がり続けるわけではなく、当然、一時的に下がる場面もあります。ですから、一度にまとまった資金を投じるのは避けた方がよいでしょう。基本的には投資信託などを活用して毎月コツコツと積立投資を行い、価格が大きく調整したタイミングでETFを使って買い増す、といった方法が資産を効率的に積み上げていく上で有効だと思います。
ただし、全ての資産を金にするのはおすすめしません。金への投資は、分散効果に加え、インフレへの備えや長期的な価値の保存手段としても有効ですので、一定程度組み入れるべきだと考えています。
稲 金の価格は、株式のように企業業績や経済指標だけでなく、世界の地政学リスクの動向に大きく影響されるという点を意識しておく必要があります。ただ、短期的なニュースに一喜一憂して売買するのではなく、中央銀行の動向など、大きなトレンドを捉えることが重要です。
Finasee編集部
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。