学習塾が少ない津南町の大学進学率が上がっている理由とは? 現役ママ町長が考える教育【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.34】
人口約8,300人の新潟県津南町。地域の産業、その担い手と連携した探究的な学びを軸に、独自の教育改革が進められ、町内にある県立の中高一貫校は、全国規模の高校生の様々な大会で常連校となるなどの成果が出ています。桑原悠町長のインタビュー第2弾は「教育、産業で人が集まってこそ、子育て支援もできる」という考えから進めてきた、津南町の教育についてお聞きしました。

学習塾が少ない津南町の大学進学率が上がっている理由とは? 現役ママ町長が考える教育【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.34】
お話を聞いたのは…
新潟県津南町 桑原悠町長
1986年8月4日生まれ。新潟県津南町出身。2009年 早稲田大学社会科学部卒業 (2007年から1年間、米国オレゴン大学に単位交換留学)。2009年 東京大学公共政策大学院入学、2012年 東京大学公共政策大学院修了(公共政策学修士)。2011年、長野県北部地震を機に、津南町議会議員選挙に出馬し、25歳にして初当選。2018年に津南町長選挙に出馬 し、31歳で第6代津南町長に就任。
>>新潟県津南町 桑原悠町長 公式ページ(https://www.town.tsunan.niigata.jp/site/mayor/chocho-profile.html)
―津南町には高校がない中で、どのような道筋を持った教育を行っていくのか、難しいと思いますが、特色ある教育はどのように進められましたか。
桑原町長:高校がないので、中学卒業で、町外にある高校に行くか、中学進学時に町内の県立の中高一貫校に行くか、という選択になるのですが、町全体で、一時は募集停止の検討があった県立の中高一貫校である津南中等教育学校を応援してきました。ここでは産業との連携による総合・探究的な学びが進んでいて、探究学習「津南妻有学」で、全国規模の「クエストカップ」や「高校生国際シンポジウム」などの成果発表会の常連校となっており、大学進学率では県内トップクラス。県内外で知る人ぞ知る学校となっているんですよ。
―町全体ということですが、具体的にはどのようなことをしているのですか。
桑原町長:生徒たちは地域産業の人たちと自分たちでつながって、学びを深めて、イベントに参画したり、商品開発をしたり、町役場とか小学校を巻き込んで防災訓練を行ったりするなど、実社会を変えるという実践もしています。教育と産業をつなげるコーディネートするOB・OGや学校支援の会などの地域人材も揃っているんです。
―高校のOB、OGですか?
桑原町長:そうですね。連動して、町立の津南中学校も熱心で、地域企業の協力を得て生徒の3日間の職場体験や、県立校と合同での発表会をします。教育と産業の連携がより大きい動きになっていきそうだなと思っています。
―地域産業というと、例えばどのようなものと連携しているのでしょうか。
桑原町長:農業や行政、観光などです。産業の皆さんと連携するということは、教員の働き方改革にもつながります。多様な人材が教育に関わって、先生方の負担を少し軽減していくことにもなると思っています。加えて今、いろいろなお子さんがいますけども、個々の生活や環境に応じて学ぶことをサポートする重要性が増していると感じています。町独自で学習支援員や支援員、不登校対策スクールサポートスタッフなど、学校に多職種がいるという状態で、子どもの成長過程をきめ細やかにサポートしています。教員の負担軽減にもつなげています。
―町に学習塾が非常に少ないと伺いましたが、その中でも、大学進学率も上がっているとか。
桑原町長:中高一貫校の影響が大きいと思いますが、魅力ある教育が提供できているということだと思いますし、探究や総合学習を頑張ることによって、英語や数学などの各教科の学習意欲も上がっていく傾向もあるといいます。何より先生方の努力、付け加えて地域の協力でここまで中高一貫校の志願者数が復活してきたのでありがたいと思っています。
―3つの小学校が統合を2年後に控えていますが、教育環境の整備についてはどのようにお考えですか。
桑原町長:すでに3校の交流の機会が多くあって、町有のバスなどを柔軟に使えるようにしたり、校外に出てジオパークに関する学習や合同で発表し合う会などを行ったり、交流は自然な形で活発になっています。先ほどお話しした教育と産業の連携や、デジタルの活用、教員の働き方改革の3つをセットで進め、町独自の魅力ある教育環境をつくり出せたらと思います。魚沼コシヒカリや、アスパラガス、雪下にんじんをはじめとした農業が盛んな町として、食育や給食の充実にも力を入れたいですね。農業は人類が生きる糧をつくる産業ですし、命をつくる仕事、自然が相手なので、良い時もそうでない時もある、など感じて育ってほしいです。
―子どもの先々をどう見るというのは、必ず親の視点にあると思うんですよね。この先、どういうふうに子どもたちの進学先を決めていくかというところに、この町の中にいて、地域とつながり、高校まで、あるいはその先もつながっていくっていう道筋が見えると、すごく安心して子育てができるのではないかと思います。
桑原町長:ありがとうございます。ですので、惹きつける魅力ある教育や産業など、しっかりとしたまちをつくることで、人が集まってきて、子育て支援の充実にもつながると考えているんです。特に私は、教育で人が集まるようにしていきたいんです。
―その点は、町長になられてから特に力を入れられたのですか。
桑原町長:町長に就任後、中高一貫校が募集停止になりそうだったとき、県に要望に行ったり、支援する団体を立ち上げていただいたり、大変なこともありました。地域の皆さんは、元々良い教育をしている学校であり、子どもたちにとっての選択肢を残してあげたいという思いがあったので、学校を残すためにどうするかというのはとても理解がありました。学校現場が思いきり頑張れるように、サポートしてきた感じですね。
―探究活動や地域との連携といっても、形式的にやっているところもあるので、それに比べると地域の方々の子どもたちのことを心底考える愛情を感じますね。
桑原町長:小学校から地域を学ぶ活動はやっているので、その後の中学でのキャリア教育ですとか、高校での実践探究につながるような取り組みも実践できていることも大きいかなと思います。
―町長ご自身もお二人のお子さんがいらっしゃいますが、これからの世代に必要な教育はどのようにお考えですか。
桑原町長:今年度「人も産業も育つまち予算」というテーマで進めてきています。産業を盛り上げるとともに、産業だけじゃなくて、それを引っ張っていく人も大事で、両方やらなきゃいけないという思いでやってきたんですが、その産業を引っ張っていく次世代の育成はとても大切だと思っています。若い世代が若いうちから社会を良くする、変えることができるという手応えを感じ、力を発揮していけるようにしたいと思っています。
第3弾では、「産業を引っ張っていく次世代の育成」の具体的な取り組みと、25歳で地元に戻って議員に、31歳で町長になった、桑原町長のライフストーリーをお伝えします。乞うご期待!
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生

聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
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