フランス人は散歩するように美術館に行く。幼い頃から美しいものを観て「心を整える」習慣
フランス人流の美術館の楽しみ方を紹介します。パリ観光で、美術館を訪れる人は多いと思いますが、楽しみ方や子連れでもよいか悩むことも。そこで、フランス文化について詳しいエッセイスト・ペレ信子さんに、気軽に散歩に出るように美術館に訪れているというフランス人の美術館の楽しみ方についてレポートしていただきました。
フランス人流の美術館の楽しみ方
【写真】美術館を楽しむ人々
美術館=特別ではない。初めてデートする相手の相性を知ることも
観光でパリに行くからには「ルーブル美術館でモナリザを見なければ」と、有名な作品を目指すことも多いはず。でも実際には有名な作品は、あまりの観光客の多さにゆっくり鑑賞することは難しいようです。
私がフランスに住んでいた頃も、今でも、時間があってだれかとゆっくり時間を過ごしたいときにフランス人はよく美術館に行きます。
カップルの場合は混雑する美術館に有名な作品を目指して行く、ということはほとんどなく、人が少なくて居心地のよいこぢんまりとした美術館を選びます。
ゆったりと時間を過ごしたいということもありますが、大切なのはどんな作品かより、作品を観てお互いに感想を交換すること。なので、どんな作品でもよいのです。
初めてのデートで美術館に行くと、相手との相性がどうかを知ることができるとも聞きます。
静かにしなければならないこそ、子どもを連れて行く
日本の美術館で小さな子ども連れの人を見かけることはあまりないように思います。フランスでは小さな子どもを美術館に連れて行って、親が丁寧に作品の説明をしたり、鑑賞マナーを伝えたりしている姿をよく見かけます。
平日の昼間によく見るのは、学校の課外授業の子どもたち。みんな先生からもらった課題の紙に答えを書き込んだりしながら、わりとじっくりと作品をながめています。
美術館側が用意したアクティビティも結構あり、飽きやすい小さな子には美術館内に隠されている小さなネズミの絵を探して歩くという課題も見たことがあります。美術品に興味がなくてもその場所でなにかをながめて静かにしていられればそれでよいという考えなのでしょう。
わが家の子どもたちも、美術館に連れて行くと面倒くさそうにしている時期もありました。ですが、大人になってからは知らない街に行くと、必ずその土地の美術館を訪れているそう。
美術館に行くことは「Education silencieuse(無言のしつけ、その場の空気から学ぶ)」とフランス人が呼ぶ、効果を感じます。
日曜の午後、高齢になった親と美術を楽しむ
フランス人にとって、日曜日は家族で過ごしたり、高齢の親を訪ねる日です。日曜日はお店も休みのことが多いため、普段は離れて暮らしている高齢の親の家を訪れてゆっくり昼食を取ります。食事が終わったら連れ立って午後に美術館に行くのもよくある光景です。ショッピングセンターは閉まっているし、だからといってテレビの前で時間を過ごすでもなく、美術館に行くのです。
考えてみれば、私もいつ最後に自分の両親と美術館に行ったのか思い出せません。それなのにフランスの義父母とは会うたびに一緒になにかしら美術の鑑賞をしています。
そう気づいたら、昔、美術館や博物館に連れて行ってくれた両親を自分が誘い、美しいものを一緒に観に行きたくなりました。
美しいものを観て「心を整える」習慣は人生に影響する
フランス人が美術館によく行く理由は、フランス人にとって美術や文化が大切だということ。国立美術館・博物館は26歳以下の入場は無料だということもあると思います。
意外に高齢者割引はありません。美術を愛する大人はサポートするために料金を払うことを惜しまない、ということなのではないでしょうか