不愛想に見えるのは病気のせい?まぶたを閉じられず、笑顔が作れない…顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーと生きる23歳の日常と“伝わらない悩み”

担任の観察眼で「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」が判明, 猛暑で体調を崩して「特別支援学校」へ転校, 真面目ゆえに、就職先では「お願いする罪悪感」に苦しんだ, 「できない」を解決する“少しの工夫”を考える日々, 「表情が作りにくくて不愛想に見える」と悩む当事者の想いを知ってほしい

「私の中には感情がたくさんあるのに..」当事者の想いを発信するなぎささん

顔や肩甲骨周りの筋肉が弱くなり、「笑えない」「まぶたを閉じられない」「腕を高く上げられない」などの症状が現れる「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)」は、あまり見聞きしない病名。だが、当事者は人間関係を育む中で深く悩むことも多い。

この病気と向き合う、23歳のなぎささん(@nagisa__fshd)は「障害がある自分を好きになる」という目標を掲げ、日常の中での工夫やできたことを記録として、SNSに投稿している。

担任の観察眼で「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」が判明

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは、筋肉の弱り方が左右で違うケースもあるそう。病気が進行すると、指や太ももなど他の筋肉も弱くなり、車椅子が必要になることもある。

なぎささんは小4の頃、担任から「階段の上り下りの仕方に違和感がある」「大縄跳びで跳ぼうとしない」と指摘された。

「自分では違和感はなかったように思いますが、今振り返ると、足が思うように動かず、歩くのがしんどかったし、階段もキツかったように感じます」

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小学生のなぎささん

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの発症メカニズムは、解明されていないことも多い。現段階では、通常では現れない遺伝子の発現が原因だと考えられている。

担任から指摘を受けた母親は、すぐ顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーを疑った。なぜなら、自身が顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーを発症していたからだ。当時、母親は無理をしながら健常者と変わらない生活を送っていた。

なぎささんはすぐ、母親の主治医のもとへ。検査の結果、遺伝性の顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーと診断された。

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小さな頃からディズニーが大好きだった

病名を聞かされた時、なぎささんはこの先、できなくなることが多いことを知り、混乱。実際に病気が進行していき、階段の登り降りや登下校が難しくなると、悲しみや悔しさで胸がいっぱいになった。

猛暑で体調を崩して「特別支援学校」へ転校

中学生になると、病気の影響でより歩きにくくなり、苛立ちを母にぶつけたことも。校内では、冷たい向けられる視線を向けられたこともあった。

もともと季節の変わり目(特に夏が近づく時期)に体調を崩しやすく、毎年、初めて気温が30度を超える日は熱中症のような倦怠感や眩暈に悩まされていたという、なぎささん。中2の頃、体が暑さについていけず、急に体調を崩した。

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中学生の頃

この体調不良を機に歩くことが難しくなり、特別支援学校へ転校。特別支援学校では各々の障害を考慮して授業が受けられる仕組みだったため、なぎささんは遅れていた分の学習を取り戻すことができた。

また、体育も障害者スポーツなどの“できるもの”。普通学校の時とは違い、全ての授業に参加できることが嬉しかった。

高校は、別の特別支援学校へ入学。だが、環境の変化に心身がついていけず、体調不良で学校を休むことが増えた。高校は「辛いこと8割、楽しいこと2割」のスクールライフだったという。

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高校生の頃

「私は、なんでもそつなくこなすように見えていたようで、助けが必要な場面でもなかなか先生から支援を受けられませんでした。自分自身も、『頼ってはいけない』と我慢していたので、見た目では分かりづらい困難を抱えながら毎日を過ごしていました」

真面目ゆえに、就職先では「お願いする罪悪感」に苦しんだ

高校卒業後は、障害者雇用枠で就職。職場の人たちは障害への理解があり、さりげない気遣いや優しさで、なぎささんをフォローしてくれた。だが、周囲が優しいからこそ、なぎささんは“できないこと”を頼む時、罪悪感を覚えるようになる。

「私は重いものを持つことができないので、最初の頃は周りの方にお願いしていましたが、みなさんもお仕事があるので、何度も頼むことに申し訳なさを感じて…」

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20歳の時に撮影した前撮り写真

迷惑をかけたくない。そう感じたなぎささんは、無理をして荷物を持ち運ぶようになった。

そうした責任感の強さや真面目さが評価され、入社3年目には色々な業務を任せてもらえるようになる。だが、託される仕事量は、膨大。真面目でHSP(※生まれつき感受性が強く、敏感な気質を持った人)であるなぎささんは「全部、自分でやらなきゃ」と思い、毎日、夜中まで働いた。

だが、ある日、体調を崩して病院を受診。「適応障害」と診断されたことで働き方を見つめ直す。

「できない」を解決する“少しの工夫”を考える日々

心の限界に気づいたなぎささんはまず、2カ月間、休職。復帰時、上司からは働き方の改善を約束してもらえたが、実際には何も変わらなかったため、退職を決意した。

「今はリモートワーク。自分のペースで無理なく働けてありがたいし、通勤の負担がなくなって、心も体も楽になりました。ただ、反り腰の影響で長時間、同じ姿勢で作業をしていると体に負担がかかるので、適度に休憩をとるようにしています」

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日常生活では、コルセットを着用

なぎささんは顔の筋力低下により、瞼をしっかり閉じることや表情を作ることが難しい。腕があまり上がらないため、重いものを持ったり、高い場所のものを取ったりすることも困難だ。

また、顔の筋力低下により、表情が伝わりにくい。頑張って話しても口が上手く動かないことから活舌が悪く聞こえ、相手に話が伝わりにくいと感じることもある。

「外出時に、私ではなく一緒にいる人に話しかけられると切なくなります。障害があるからだとは分かっていますが、『私はここにいるのに…』と思えてしまって…」

ただ、もどかしいことやできないことに直面しても、なぎささんは“できるようになる方法”を見つける探求心を大切にしている。過去には練習を重ね、卵焼きが作れるようになった。今は、ヘアアイロンとコテの練習に励んでいるという。

「障害によってできないことが増えても、『今日はこれができた』『こんなことに気づけた』という小さな成功や喜びを意識するようにしています」

「表情が作りにくくて不愛想に見える」と悩む当事者の想いを知ってほしい

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは、現代の医療では根治法が確立されていない。そのため、なぎささんは足の筋肉が硬くならないよう、毎日マッサージをするなど、自分にできるケアを日常に取り入れ、進行を遅らせようと励んでいる。だが、自力では限界があるため、いつか、専門的なリハビリやマッサージを気軽に受けられる制度やサービスが充実することを願っている。

また、「表情が作りにくくて不愛想に見える」という、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの当事者の葛藤も知ってほしいと話す。

「これは病気の症状なので、性格や気持ちとは関係ありません。顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは、自力ではできないことも多く病気。理解や優しさを持って接してもらえると、とても助かります」

なぎささんは自身のYouTubeでも日常を配信中。障害があってもできたことや行けた場所、その時の喜びなどをリアルに公開している。

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コテの練習風景も公開

「温かいコメントをいただくことが増え、励みになっています。これからも、自分のしたいことやできたことを発信し続けて、もっと自分を好きになっていきたい」

病気を受け入れ、自分の人生を彩っていくことは容易ではない。だからこそ、なぎささんの前向きな生き方は似た境遇の方に深く刺さる。顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの当事者が「無愛想」という言葉に傷つくことがないよう、病気に対する正しい理解を広めていきたい。

(まいどなニュース特約・古川 諭香)