光宗薫 モデル・アイドルを経て「摂食障害」でひきこもり…「人間を見るのもつらかった」日々を支えたもの

■人生のレールから外れたように, ■何を頑張ればいいのか, ■何もない自分を隠さなきゃ, ■うまくできなかったら失望される, ■自分の形を感じたくなかった, ■母とも話さなかった, ■絵を描くことが日記がわり, ■「この絵を人前にだしたらどうなるんだろう」

 画家・俳優として活動する光宗薫さん。モデルとしてキャリアをスタートし、AKB48に加入した際は「スーパー研究生」として注目された。現在にいたるまでの半生を聞いた(全2回の1回目)。

*  *  *

■人生のレールから外れたように

――芸能界入りのきっかけは、「憧れ」ではなかったのだという。

 昔から、集団行動が得意じゃなかったんです。気を使いすぎてしまうところがあって、中学校くらいから学校に毎日通うことができなくなり、高校も1週間で不登校になって、そのまま辞めてしまった。人生のレールから外れたように感じて、「この先どうしよう」となっていたとき、友達が「モデルオーディションに出るけど、一緒に出ない?」と誘ってくれて、「じゃあ行ってみようかな」って。

 自分の居場所みたいなものを探していた時期でした。学校に行けなかったことへの焦りもあったと思います。

■何を頑張ればいいのか

――2011年、神戸コレクションのモデルオーディションでグランプリを獲得する。飛び込んだモデルの世界は、「簡単」ではなかった。

 当時、モデル界は現在よりスタイル重視の世界でした。私、身長が168cmなんです。でも、上海公演のランウェーに並ぶと、周囲はほとんど170cm以上で、等身も私とまるで違う。ウェイトやポージングは努力できても、骨格はどうにもならない。「これは何を頑張ればいいんだろう」って思ってしまって。

 お仕事に面白さはあったんですけど、もともとそこまで自分の見た目に興味があるわけではないし、「向いていないんじゃないか」と悩んでいたところ、AKBのオーディションの話を聞いて、「活動の幅も広いし自分の内面も出せるのでは」「向いているかもわからないけれど」と思って受けた、という流れでした。

■人生のレールから外れたように, ■何を頑張ればいいのか, ■何もない自分を隠さなきゃ, ■うまくできなかったら失望される, ■自分の形を感じたくなかった, ■母とも話さなかった, ■絵を描くことが日記がわり, ■「この絵を人前にだしたらどうなるんだろう」

――オーディションは合格、「スーパー研究生」として注目された。

 研究生としてAKB48に加入することになったときが、一番話題になった記憶があります。

■何もない自分を隠さなきゃ

 前歴がモデルで、他のメンバーと比べると背が高くて今よりボーイッシュで、当時グループにはいないタイプのビジュアルでした。

 知名度だけが突然あがったようで、当時は戸惑いが大きかったですね。自分が何も持っていないということを一番わかっているのは自分だったから、「何もない自分をどうにかして隠さなきゃ!」「バレないようにしなきゃ!」と必死でした。

 今思えば、世間の話題も注目も一過性だからそこまで気にしなくてもよかったと思うんですが、当時の私にとっては大ごとだったんですね。

――真面目だったからこそ、周囲の期待をプレッシャーに感じてしまった。

■人生のレールから外れたように, ■何を頑張ればいいのか, ■何もない自分を隠さなきゃ, ■うまくできなかったら失望される, ■自分の形を感じたくなかった, ■母とも話さなかった, ■絵を描くことが日記がわり, ■「この絵を人前にだしたらどうなるんだろう」

■うまくできなかったら失望される

「期待してるよ!」「頑張ってね!」とポジティブにかけてくださる言葉を、100%真面目に「かしこまりました」と受けていました。そして、「うまくできなかったら失望される」「価値がないと思われる」という錯覚に陥っていた。

 今思えば、楽しいことも貴重な経験もたくさんあったのですが、当時はピリピリしていました。学校も辞めたし、きっと私は会社に入ってもうまくいかないだろうから、「芸能の世界でもダメだったらどうしよう」という切迫感もありました。

――活躍の場は広がっていくなか、加入から約1年で活動を辞退した。体調不良が原因だった。

 芸能活動を始める前からあった摂食障害の症状がひどくなって、生活を立て直さないと、もう後戻りできないところまできていたんです。摂食障害は拒食と過食、それに付随する自発的嘔吐、全てを経験することも多いと思うんですが、私もそうでした。

 モデルとして活動していた時期は、厳格に食事制限をしていました。毎日10キロ走り、摂取カロリーは1日1000キロカロリー以下に抑えていました。

 そんな拒食症に足を踏み入れたような状態でAKBに加入したんですが、私だけ浮いてしまう。グラビアのお仕事もありますし、「ちょっと太ってもいいんじゃない?」と言われて、私はまたそれを100で受けてしまって、「一気に太らなきゃ」と2カ月で7キロ増やしたんです。そして、そこから適切な食事量がわからなくなり、過食が止められなくなってしまったんです。

――ひとり暮らしの限界も感じ、母が住む大阪の家に戻った。

 摂食障害を明かしていなかったので、ほかに行き場がなかったんです。自治体主催の当事者会に行った際もタレントとバレてしまって、悩みを共有する場をつくれない。施設に入ったこともあるんですが、施設を出るとまた際限なく食べてしまう。先生からは「自分の心の不安を取り除く環境をつくらないと」と言われました。

■自分の形を感じたくなかった

 私の不安の大本は仕事からきているというのはわかっていたので、人前に出ずに家にいる、という形をとりました。

――その間、テレビなどメディアの情報も遮断した。

 テレビで人間を見るのもつらかったし、知り合いに連絡を取るのもつらくて、携帯も解約しました。人の目も気になるし、鏡を見るのも嫌で、外には出ませんでした。自分の形を感じたくなかったんです。

■人生のレールから外れたように, ■何を頑張ればいいのか, ■何もない自分を隠さなきゃ, ■うまくできなかったら失望される, ■自分の形を感じたくなかった, ■母とも話さなかった, ■絵を描くことが日記がわり, ■「この絵を人前にだしたらどうなるんだろう」

■母とも話さなかった

 自分の人間性を感じるのが嫌でした。会話をするって一番自分を感じますよね。誰ともしゃべりたくなくて、母とも1年間一言も話さなかった。母が起きたら寝て、母が仕事に行ったら起きる。そんな生活をしていました。

 食べ物は母に徹底的に管理してもらいました。冷蔵庫に食べ物を入れないようにしてもらって、常温で保存できる食材は金庫に入れて鍵をかけて、食べられない状況をつくってもらいました。

 母は心配もしたし、大変だったと思います。私を責めずにやってくれたことに感謝しています。

■絵を描くことが日記がわり

――絵を描き始めたのは、そんな生活の最中だった。  

「自分は何をやっているんだろう?」という気持ちはずっとあって、絵を描くときだけはその状況を忘れられたんです。日付の感覚がなくなっていたので、日記がわりでもありました。絵を描く習慣は昔からあったんですが、毎日何時間も描くようになりました。

 はじめに描いた絵は、食べ物。「食べたい」という欲求が強くて、ハンバーガーやピザの写真を見ながら模写しました。食べ物を見つめたかったんだと思います。

 自分の顔も描いていました。ひきこもっている間も感情の起伏があって、不安に襲われたり涙が出たりすることもある。涙が出たら自分の顔の写真を撮って、描いていました。

 自分の存在が消えていきそうななかでの存在確認だったかもしれません。絵にすれば、対象を客観的に「ただの形」として認識できて少し楽になる、というところもありました。「自我」から解放されたかったんだと思います。

■「この絵を人前にだしたらどうなるんだろう」

――描くという行為は、心の安定にもつながった。

 絵を毎日描くようになって、精神的に安定するようになりました。絵が完成した瞬間の、「今日も描けた!」という達成感の積み重ねが、自己肯定につながったんだと思います。

 1年くらいして、ふと、「この絵を人前に出したらどうなるんだろう」と思ったんです。それまでは「自分」を取り繕って隠そうとしていたのに、日記のような絵や自分の泣き顔まで出したら、どんな反応がくるんだろう。活動している間はあんなに怖かったことを、やってみたくなっちゃったんです。

 もしかしたら私は破滅するかもしれない。「自滅行為」みたいな、私にとっては自爆するようなギリギリの思いでした。それでもその先を見てみたかったんです。

■人生のレールから外れたように, ■何を頑張ればいいのか, ■何もない自分を隠さなきゃ, ■うまくできなかったら失望される, ■自分の形を感じたくなかった, ■母とも話さなかった, ■絵を描くことが日記がわり, ■「この絵を人前にだしたらどうなるんだろう」

光宗薫(みつむね・かおる)/1993年4月26日生まれ、大阪出身。画家、俳優。2011年、モデルとして活動を開始。同年、研究生としてAKB48に加入。体調不良により、12年活動を辞退。2011年頃より独学でボールペン画を描き始める。近年は鉛筆や水彩絵の具、油絵の具など幅広い画材を用いて夢幻的な昆虫や空想の生物等を描く。8/20-9/1 阪急メンズ大阪 Contemporary Art Gallery「ArtSticker SELECTION」にて作品出展中。今冬には全ページ描き下ろしの作品集を出版予定、銀座ヴァニラ画廊にて個展も開催予定。

(構成・ライター 小松香里)