光宗薫「はやく帰ってこい!」に今も涙 「ダメな人間だと思われたくない」から解放された大きな転機

■60センチ四方の箱の中に, ■自分に対して言いたかったこと, ■「オンエアを見てください」, ■体調が悪くても絵は描ける, ■うまく付き合っていくには, ■絵を描く原動力は純粋な「描きたい」, ■「自分の好きな世界」追いかけたい

人生の一番の転機は、初の個展「スーパー劣等生」だった。そして相次いで、もう一度芸能活動に復帰する「きっかけ」となる出来事が起こる。そのとき、彼女に何が起こっていたのか(全2回の2回目)。

*  *  *

■60センチ四方の箱の中に

――会場を探し始めた。元はキャバレーなどがあった大阪のビルの中の、「味園Galaxy Gallery」に惹かれ、「展示させてほしい」とアタックした。半年ほど、何度も足を運んだ。

 私のゴリ押しだったと思います(笑)。でも、そのタイミングで世に出ないと、自分が先に進めないと思ったんですね。自分の人生のための、生きるための活動。だから、必死だったんです。

――2013年10月、初の個展を開く。タイトルは「スーパー劣等生」だ。

 個展の期間の68時間、会場に設置した60センチ四方の箱の中にずっと在廊していました。そこで私の影だけを映す。約1年間ひきこもっていた自分を表現する意図もありました。

 聞き耳を立てた透明人間みたいに、来場者の足音や話し声を聞いていました。よくも悪くもすべてが聞こえることが楽しくて、多くの人に見ていただけたことで、ひきこもっていた時間も肯定されたような感覚になりました。

 最終日、ギャラリーの照明を落として、私が入っている箱の中を光で照らして、影だけを映しながら、影を映していた半透明のアクリル板に絵を描いたんです。描き終わったら、お客さまが拍手してくれて……。拍手と同時に、これまで抱えていた焦燥感や不安も手離せた感覚がありました。これまでの人生で一番満ち足りた瞬間でした。

■自分に対して言いたかったこと

――個展は多くの気づきをもたらした。

 自分の底の部分を出したのに、誰に攻撃されるわけでもなく、ポジティブな意見も多かったんです。「自滅行為」のつもりで開いたのに、いい意味で何も起こらなかったし、変わらなかった。「本当の自分を隠す必要はないんじゃないか」と初めて思えて、だったら「もっと自分を出していろいろなことをやりたい」と思えるようになりました。

「スーパー劣等生」というタイトルもよかったと思っています。「頑張らなければ自分には価値がない」「ダメな人間だと思われたくない」という気持ちが、自分への攻撃になっていた。自分で「劣等生」とラベリングすることで、「できません!」と自分に対して言いたかった。言えたことで、すごく楽になりました。

――もうひとつ、活動を再開するうえで、大きな転機もあった。グループ活動中に出演したドラマ「ATARU」が大ヒットし、スペシャル版や劇場版が制作されたときのことだ。

■60センチ四方の箱の中に, ■自分に対して言いたかったこと, ■「オンエアを見てください」, ■体調が悪くても絵は描ける, ■うまく付き合っていくには, ■絵を描く原動力は純粋な「描きたい」, ■「自分の好きな世界」追いかけたい

■「オンエアを見てください」

 スペシャルに声をかけてくださったのですが、体調的に断らざるを得ない状況で、「私は何をやっているんだろう」とずっと罪悪感がありました。その後、劇場版にもお声がけいただいて断るつもりだったんですが、スタッフの方から「スペシャル版のオンエアを見てください」と言われて、久しぶりにテレビをつけたんです。

 私の役は警視庁の鑑識課の職員だったんですが、私の写真を使ったポスターに、田中哲司さん演じる上司が「はやく帰ってこい!」と呼びかけるシーンがあったんです。

 本当にうれしくて、涙が出て……今でもその話をすると、泣いちゃうんですけど……。

 その恩を受けて、この話を受けないと、自分は終わってしまう。「どうしても出たい」と思いました。当時、体重が70キロ近くあったんですが、放送の後に早朝と深夜に走るようになりました。自分の中でストレスなく世に出られるような姿になるまで、頑張りましたね。

■60センチ四方の箱の中に, ■自分に対して言いたかったこと, ■「オンエアを見てください」, ■体調が悪くても絵は描ける, ■うまく付き合っていくには, ■絵を描く原動力は純粋な「描きたい」, ■「自分の好きな世界」追いかけたい

■体調が悪くても絵は描ける

――「劇場版 ATARU THE FIRST LOVE & THE LAST KILL」に出演し、芸能活動を再開した。初の個展開催と、ほぼ同時期だった。活動再開後も体調には波があり、時折、休養を挟んでいる。

 公表している2017年の活動休止以外の期間も、何カ月か休むことが何度かありました。20代半ばまでは芸能活動を休んでいる期間のほうが長いと思います。10代のころと違うのが、絵があるということ。摂食障害の症状が悪化すると、絵はすごく描けるんです。

 体調が悪くても絵は描ける。体調が良ければ仕事ができる。だんだん、自分でバランスをとって、切り替えができるようになってきました。

■うまく付き合っていくには

――摂食障害との付き合い方も変わった。

 10代のころは「治さなければ」という焦りがありました。でも、徐々にこれも自分の性質から出るもののひとつ――0か100かみたいな性格の私がプレッシャーを感じたり、見られる仕事をしたり、いろいろな要素が重なって出てきたもの。治す治さないではなく、うまく付き合っていくにはどうすればいいかだ、と考えるようになってから、症状が出ても心のダメージにつながらなくなりました。

――摂食障害を題材に絵を描いたこともある。

 自分自身を家だとした際、ある日突然、怒りや悲しみといったネガティブな感情を司る怪物が家の中をぐちゃぐちゃにし始める。最初は力づくで追い出す作業をしていたけれど、そうするとより一層暴れるから、仕方なく居場所を与えるようになっていく。実はその怪物は私が生まれたときからずっとその家にいた。摂食障害との付き合いは、私にとってそういうものではないかと思っています。

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■絵を描く原動力は純粋な「描きたい」

──ボールペンで描き始めた絵も、油絵やオイルパステル画のほか、水彩と塩を使ったりしながら、多彩な作品を生み出している。

 画材の知識もなく、家にこもっていたので、最初はボールペン1本で描いていました。ボールペンで描くのはとにかく時間がかかるから、当時の私にとってはありがたかった。画家として活動をスタートしてからは、いろいろな画材を試すようになりました。活動を初めてしばらくは、上手く絵が描けるということを見せたい気持ちも強かったんですが、やがて絵を描く原動力は純粋な「描きたい」という気持ちに変わっていきました。

――バラエティー番組「プレバト!!」に出演し、水彩画の特待生第1号となるなど、画家・俳優として活動の幅が広がっている。今の状況を尋ねると、「理想的かもしれない」と答えた。

 私にとって絵画は評価関係なく、好きなことを好きにできる場所。昆虫を描くのが大好きですが、ただ自分が描きたいから描いているだけで、ウケが悪いかどうか気にしないようにしています。自由に表現できる場所を見つけられてとても幸せですし、今の画廊で展示が続けられて、人に作品を見ていただける状態が、私にとって最高なんです。

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■「自分の好きな世界」追いかけたい

――かつての自分を振り返って、「無駄なことは一つもなかった」と言い切る。

 20代半ばまで右往左往して回り道をしてきたと思います。自我と激しくぶつかって苦しかった当時を思うと、懐かしく愛おしい感覚です。多くの人に言えることかもしれませんが、自分に慣れてくるんですよね。期待に応えられなかったり、自己嫌悪に陥ったりする状況や、摂食障害にも慣れてきて、対応できるようになっていく。人生のすべてに意味があったと思っています。

――自分を見せることを恐れていた日々は終わった。今、「表現者」としてどんな思いを抱いているのだろうか。

 はやりや評価や肩書きに左右されることなく、「私はこれが好き」「自分はこれがしたい」と活動しているアーティストや、作品を見るとすごくワクワクするし、幸せな気持ちになります。私も、自分の好きな世界を真っすぐに追いかけて、表現していきたい。私を見て、「こんなふうに表現していいんだ」と思ってくれる人がいたら、元気になってくれる人がいたら、すごくうれしいです。

■60センチ四方の箱の中に, ■自分に対して言いたかったこと, ■「オンエアを見てください」, ■体調が悪くても絵は描ける, ■うまく付き合っていくには, ■絵を描く原動力は純粋な「描きたい」, ■「自分の好きな世界」追いかけたい

光宗薫(みつむね・かおる)/1993年4月26日生まれ、大阪出身。画家、俳優。2011年、モデルとして活動を開始。同年、研究生としてAKB48に加入。体調不良により、12年活動を辞退。2011年頃より独学でボールペン画を描き始める。近年は鉛筆や水彩絵の具、油絵の具など幅広い画材を用いて夢幻的な昆虫や空想の生物等を描く。8/20-9/1 阪急メンズ大阪 Contemporary Art Gallery「ArtSticker SELECTION」にて作品出展中。今冬には全ページ描き下ろしの作品集を出版予定、銀座ヴァニラ画廊にて個展も開催予定。