“わきまえない女”稲田朋美議員「LGBT法案」に賛成で批判も「変わることは恥ずかしくない」 めざすは首相?
2005年に初当選し、防衛相や政調会長などを歴任してきた自民党の稲田朋美衆院議員(66)。過去には森喜朗元首相の女性蔑視発言に対し、SNSで「私は『わきまえない女』でありたい」と発信したこともある稲田氏は、現在の自民党の女性議員をめぐる状況や、結党70年を迎える党自体をどう見ているのだろうか。
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■減った女性の衆院議員
――安倍晋三首相(当時)は女性活躍を打ち出しましたが、自民党自体に、女性議員が少ない印象があります。
参院議員は女性の割合が高いですが、衆院議員に限ると男性が177人に対して女性が19人と野党に比べても少ない。そのため自民党女性議員の議連である「女性議員飛躍の会」を立ち上げ、さまざまな提言をしましたが、なかなか受け入れられていません。例えば、衆院の北海道や東北といった11の比例ブロックのうちの3つくらいに「純粋1位」の新人女性候補者を入れると、新人女性が3人増えます。党内の比例の新人候補を選ぶときに、迷ったら女性候補者を選ぶ方法も模索しています。
――小泉純一郎首相(当時)による郵政解散後の総選挙では、稲田さんをはじめ女性26人が衆院議員になりました。
小泉さんの意思で、女性候補の多くを必ず当選できる比例の上位に入れたからです。しかし09年に自民党が下野したとき、多くの女性議員が落選し、先の選挙でも回復していない。私の政界入りから20年が経ち、自民党の女性衆院議員は増えるどころか、減っています。女性が候補者になれるのは、党が危機的な状況、または異常事態というときが多い。私も小泉政権時、郵政民営化に反対した福井1区の松宮勲氏への「刺客」として選ばれました。平時で、弁護士として活動しているだけでは、候補者に選ばれなかったでしょう。
――それなら、当選し続けるのは難しいですね。
「取って代わろう」という勢力との闘いも始まります。そもそも女性は男社会の暗黙の空気をくみ取ろうとはしません。私も何度も「なんでそんな古いことを言っているのだろう」と思って、口にしてしまうこともありました。突出したり、思ったことを言ったりすると「わきまえていない」と言われ、「あいつはダメだ。取って代わろう」となってしまう。私もようやく、自分の行動が男社会では受け入れられなかったとわかるようになりました。しかし、それは時間が経たないとわからない。ほとんどの女性議員はそれまでに落選してしまいます。
――性的少数者に対する理解を広めるための「LGBT理解増進法」に賛成されたことで、「自民党らしくない」という批判も受けました。
大変でしたよ。つらい思いをたくさんしましたし、誤解されたり、強いバッシングや落選運動を受けたりと、あらゆることをされました。これが男性だったらここまでされたかなとは思います。女性だから目立つというのもあり、「ここぞ」とばかりたたき潰そうという勢力がいます。
■「型にはまるつもりはない」
――中道派やタカ派などを内包する政党だった自民党が変質したことで、稲田さんの意見が「自民党らしくない」「リベラル」としてバッシングを受けるようになったようにも感じます。
国民政党であるべき自民党は、幅広い意見を包括し、寛容で温かい政党でした。違う意見にも耳を傾け、党内で政策が違っても人格否定まではしませんでした。しかし今は、異なる意見の持ち主を排除したり、「もっと右に行かなきゃ岩盤支持層を失う」といった方向に傾いたりで、らしさを失っている気がします。今年11月に結党70年を迎える自民党とは何者で、何を守り、何を変え、保守政党としてどうあるべきか……。良識を取り戻さなければ、極端な主張を掲げる政党に票はどんどん流れていくと感じます。
――男性政治家が古い保守思想を強く打ち出すよりも、女性の保守政治家を登用し、「女性も言っているからよいのでは?」と世間に旧来の価値観を訴える戦術があります。しかし、選択的夫婦別姓といった課題では価値観が一致しない。女性の保守政治家としてどう考えますか?
私はブレていません。選択的夫婦別姓についても、家族のファミリーネームや戸籍を守る立場です。ただ、95%の女性が姓を変えている現状は平等とはいえません。旧姓を通称ではなく法的に使えるようにし、単記でパスポートのICチップにも登録できるようにすべきだと訴えてきました。私は安倍元首相に見いだされた保守政治家として、歴史認識や憲法改正などに取り組んできました。そのことと、困っている人や不公平に扱われている人を救うことは矛盾しません。一方で、強い批判を受けます。極端に走れば拍手喝采を浴びるかもしれませんが、それは政治家としてどうなのでしょうか……? 私は型にはまるつもりはありません。
――しかし、自民党内でうまくやっていくには、「わきまえる女」でなければならない。
バランスが難しいです。昔は正しいことを言えば、ついてきてもらえると思っていましたが、人間社会では相手の気持ちも考えなければなりません。女性議員は男性議員と比べて早く登用されることもあるため、「あいつは生意気だ」という見方をされます。その気持ちには共感はしませんが、「そういう考えもあるのか」と受け止められなかったのは反省点です。
■女性が首相になることで…
――政治家としてのキャリアが長くなると、より多くの人と会い、見えていなかった現実を知るようになります。それを政策に反映することは「成熟」だと思いますが、稲田さんの場合は「変質」と言われることも。
守るべきものは守っています。ただ、20年前と今では会っている人も、経験もまったく違います。その中で考えが変わることは恥ずかしいことではありません。変えなければ進歩はなく、社会も変わります。守るべきものを守るためにも、変えるべきことは変える。目の前の困っている人をなぜ救わないのか? おかしいでしょ。
――もし、違う人生で政治家になるとしても、自民党から出馬しますか。
私の原点は戦後レジームからの脱却であり、憲法改正や歴史認識の問題に取り組むことです。それは自民党でなければ達成できません。ただ、今のあり方は変えたいと思います。そのためには、女性議員にももっと発言してほしいですね。例えば夫婦別姓の議題でも、女性議員たちは、なかなか自らの意見を発しません。発言すればたたかれたり、仲間を失ったりすることもあるからでしょう。しかし、女性ならではの考えがあるはずです。意見を言うべきときに、言える政治家であってほしい。
――今後、日本で初の女性首相が出る可能性もありますが、稲田さんは?
気持ちはありますよ。ただ、そんな簡単な話ではないこともわかっています。それでも、これから女性首相が出る可能性は十分あります。高市早苗さんは、先の総裁選では非常に近いところまでいった。女性が首相になることによって、見える景色も違ってくるでしょう。
(聞き手・構成/AERA編集部・古寺雄大)