今も人々の心に…沈没の「スカンジナビア号」 「ふね遺産」に決定 沼津沖、ホテルやレストランで活躍
静岡県沼津市沖に1970~2005年、洋上ホテルやレストランとして営業した豪華客船「スカンジナビア号」があった。スウェーデン企業に買い取られ、2006年に修理のためえい航される途中に和歌山県沖で沈没。年月はたったが、今も人々の心の中に生き続けている。沼津の人らの熱意もあり、今年の日本船舶海洋工学会による「ふね遺産」の一つに決定した。(佐藤大)
◆優美な「白い女王」 上海へ向かう途中で
スウェーデンで建造されたこの船は1926年に進水した。第2次大戦時にはドイツ軍に接収されたという歴史もある。優美な船体で世界各地の海を巡り、「7つの海の白い女王」とも呼ばれた。
沼津市沖に係留されていたスカンジナビア号(同市提供)
1970年に伊豆箱根鉄道が買い取り、富士山を望む沼津市西浦木負沖に係留され、洋上ホテル、レストランとして利用された。瀟洒(しょうしゃ)なしつらえや高級感のあるサービスで多くの人に愛された。2005年にスウェーデン企業に買い取られ、ストックホルムで洋上ホテルとして再び活躍するはずだったが、2006年に中国・上海での改修へと向かう途中、和歌山・串本沖で沈没した。
海底に眠るスカンジナビア号=和歌山県沖で(スティングレイ・ジャパン提供)
◆語り継がれる記憶 5月にもトークイベント
沼津の人らの受けた衝撃も大きかったが、記憶は今も語り継がれている。スカンジナビア号が係留された場所の近くのカフェ「海のステージ」内には「スカンジナビア資料館」があり、最後の航海日誌や沈没時に浮き上がった木片が展示され、熱心なファンが訪れる。スカンジナビア号は、市民投票などで選ばれた「ぬまづの宝100選」の1つに選ばれている。
5月17日には内浦地区センターで、地元の人らによって「スカンジナビア号の物語」と題したトークイベントが開かれ、約170人が集まった。
伊藤稔・信州大名誉教授はスカンジナビア号の歴史を詳しく紹介。幼魚水族館(清水町)の鈴木香里武館長は幼少期に家族でスカンジナビア号に泊まり、近くの海で幼魚を採集した思い出を振り返り、自らの原点だと語った。
◆「楽しい思い出が残っている」
潜水調査をしている「スティングレイ・ジャパン」(神奈川県伊勢原市)の野村昌司代表は約3年前から、水深約72メートルの海底に眠るスカンジナビア号の調査を進めていると報告。少しずつ船体は崩れ始め、たくさんの魚のすみかになっているが、マストの一部が残るなどしっかりとした船の面影が残っているとした。
ふね遺産は、日本船舶海洋工学会が2017年から毎年、歴史的で、学術的・技術的に価値のある船や関連設備などを認定。2020年には太平洋ビキニ環礁での米国の水爆実験で被ばくした焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」が認定されたこともある。
スカンジナビア資料館の資料について説明する前島さん=沼津市で
沼津の人らの念願もかなったふね遺産の認定に、スカンジナビア資料館館長の前島希久也さん(85)は「認定は皆さんのおかげ。スカンジナビア号には皆さんの楽しい思い出が残っている。今後も『海の文化』を伝えていきたい」と話した。
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