昭和7年創業の果物店が手がける、まっすぐでやさしいケーキたち。国分寺「多根果実店」

JR国分寺駅から歩いて3分。賑やかな駅前通りから少し外れた路地裏に、ふと現れる一軒のケーキ屋さん「多根果実店(たねかじつてん)」。素朴な佇まい、手書きの黒板、ほのかに香る甘いにおいに、「あ、きっとここ、おいしい」と胸が高鳴ります。どこか懐かしいような、そんな安心感が広がります。

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「多根果実店」は、昭和7年(1932年)に創業した、国分寺の老舗果物店。以前は駅の北口すぐにお店を構えていましたが、駅周辺の再開発を機に今の場所へ移転して、フルーツパーラーとして営業しています。 「駅ビルの中に入る選択肢もあったけれど、地元の人がふらりと立ち寄れる“路面店”でありたい」というこだわりから、あえてこの場所を選んだのだとか。その言葉どおり、ここはふらりと訪れるたびに、ほっとするようなぬくもりに満ちています。

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現在は3代目の店主さんがパティシエとして切り盛りしていて、昔ながらの「いいものを、いい状態で」という想いを今も大切に守っています。 ショーケースに並ぶケーキは、作りたてを一番おいしいタイミングで届けるために、1日に何度も焼いています。厨房には大きなオーブンも冷凍庫もなく、その分ひとつひとつ手作業でていねいに。派手な装飾はないけれど、どのケーキからも「まっすぐなおいしさ」が伝わってきます。

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2階は小さなカフェスペースになっていて、季節の光を感じながらケーキを味わうことができます。築60年を超える木造アパートを改装した店内は、アンティーク調のインテリアで統一されていて、まるで時間がゆっくり流れているよう。晴れた日はテラス席に出て食べることもできますよ。

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かつて果物店だったからこそ、やっぱり食べておきたいのはフルーツ系のケーキです。この日いただいたのは、栃木県産のとちおとめを使った「苺のタルト」(1200円)。ツヤツヤの苺がたっぷり並んでいて、見るだけでテンションが上がります。 スペイン産アーモンドの香ばしいタルト生地に、甘さ控えめの自家製カスタード、そして瑞々しい苺。このバランスが絶妙で、甘すぎない分、いちごの酸味と香りがしっかり引き立ちます。 季節によってシャインマスカットやブルーベリー、イチジクなども登場するそう。これは季節ごとに通いたくなりますね。

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お店の看板メニューとも言えるのは「国分寺チーズ」(900円)です。ひと口食べた瞬間、なめらかな口当たりと濃厚で深いコク、ふわっと香るやさしいハチミツの風味が広がります。 使われているチーズは、デンマークの山岳地帯で自然放牧された牛のミルクから作られているそうで、ミルクの甘みがしっかりと感じられます。濃厚なのに、食べ終わったあとも軽やか。不思議とまた食べたくなる、そんな魅力を秘めています。

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フランス産ヴァローナ社の高級チョコレートをたっぷりと使用した「延命堂テリーヌショコラ」(1500円)。一見、控えめなビジュアルですが、フォークを入れるとその密度にびっくり。口の中でとろけていく濃厚さは、チョコ好きなら思わずうなってしまうほど。上質なカカオの香りが鼻に抜けて、後味にはほのかなビター感が残ります。

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実は「延命堂」という名前は、店主さんの珍しい苗字からとったオリジナルブランドなんです。「延命堂」シリーズのケーキはいくつか種類がありますが、どれも材料に糸目をつけず徹底的にこだわったものばかり。ちょっと贅沢したい日や、自分へのご褒美にぴったりのケーキです。

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フレッシュな生ケーキだけでなく、焼き菓子やパウンドケーキなども豊富に揃っています。「渋皮付和栗のケーキ」(2000円)は、日持ちする手みやげとして人気の一品。しっとりとしたアーモンド生地の上に、丹波産の大きな和栗がどーんとのっていて、その姿だけでもう贅沢気分。栗は渋皮ごと焼かれているので、風味が濃厚で、ほろっとした甘さが口いっぱいに広がります。生地にはアーモンドの香ばしさとほのかなバターのコクが感じられて、どこかホッとするようなやさしい味わいです。

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地元の人々に長年愛され続ける「多根果実店」。どのケーキにも共通するのは、「素材を信じて、余計なことはしない」というまっすぐな姿勢でした。それがこんなにおいしくて、やさしいケーキになるんだときっと感動するはずです。週末のお散歩ついでに、日常のごほうびに訪れてみませんか。