「北朝鮮」わずか5万円の"裏技旅"で私が見た光景

「北朝鮮」を渡航費5万円で体感。衝撃の光景(筆者撮影)
ずっと行ってみたかった「日本から近くて遠すぎる国」
40カ国以上を旅してきた筆者だが、実は28歳になるまで海外渡航経験は1回のみ。しかもその1回は自発的なものではなかった。17歳のときにクラス全員で、カナダに2週間のホームステイをする(しなければならない)高校だったのだ。
【写真を見る】筆者が見た北朝鮮の風景はこんな感じ。
カナダではホストファミリーと口喧嘩、学校問題になった。お腹を壊して3日間寝込んだこともある。異国でメソメソと「日本に帰りたい」と泣いていた私が、「もう二度と海外なんて行くか!」「日本は素晴らしい国だ!」となったのは自然な流れだったのかもしれない。
社会人になってからはお金もないし、時間もないし、英語も話せないし……。円安や物価高などを含め、海外旅行にハードルの高さを感じていた。そんな私に、フィンランドでオーロラを見たことのある友人は言った。
「韓国なら1泊2日で全然楽しめる。渡航費用は数万円あれば大丈夫だよ。英語もスマホがあれば何とかなる。必要なのは勇気だけ。もしよかったら今度一緒に行こうぜ」
平々凡々なサラリーマンライフ、人生の流れが大きく変わった瞬間だった。韓国旅行をキッカケに「もっと世界を見てみたい」と強く思った私は、以降毎月1回ペースで有給を取得。バックパッカーとして、世界中を旅するようになった。
そんな私がずっと行ってみたいと願っている国がある。
日本から近くて遠すぎる国、朝鮮民主主義人民共和国。通称「北朝鮮」だ。
北朝鮮をたった5万円で体感する方法
私が北朝鮮に渡航したい理由は、世界60カ国以上を旅した「ひろゆき」氏がオススメの国に挙げていたから。YouTubeなどの動画を見て(なんとドングリで造られた焼酎があるらしい!)、自分の中の冒険心が大きく育っていった。
日本と北朝鮮は正式な外交関係が確立されていない。北朝鮮に渡航するためには旅行代理店を通して、個人で観光ツアーに申し込む必要がある。ここでビザの取得や、誓約書の提出などを行う。渡航費用は1人あたり30万円前後。なお日本から北朝鮮への直行便はないため、一度中国に入国してから、飛行機か鉄道を使って移動する。
2020年のコロナ発生以降、現在まで北朝鮮の首都「平壌(ピョンヤン)」への旅行は本格再開されていない。しかし「北朝鮮を格安で体感する方法」ならある。韓国と北朝鮮の国境沿いから、北朝鮮を目視あるいは望遠鏡で眺めるという方法だ。これはもう、行くしかない!

北朝鮮の見える展望台(著者撮影)

著者は関空~韓国の仁川国際空港まで、諸税込みで2万7020円で予約したが、タイミングによっては1万円代での予約も可能(著者撮影)
往復航空券は「スカイスキャナー」という神アプリで検索した。このアプリに渡航先と日程を入力すると、A社は3万円。B社は5万円といった具合に、国内外の航空会社や旅行代理店の航空券を、一括で価格比較。最安値の航空券を提示してくれる。
今回私は渡航日程1泊2日。関空を11時50分に出発して、韓国に着くのが13時50分。翌日は21時発の飛行機に乗り、関空に22時50分に到着する便を予約した。
旅の1日目は、前述した友達と現地で合流。韓国グルメを食べ歩いた。ちなみに韓国の物価は筆者の体感値で、日本の物価と同じか気持ち程度安い。よって食費は全部で1万円も使わなかった。ホテルは1部屋2万円だったが、海外のホテルは「1名」単位ではなく「1部屋」単位での料金体系が多い。今回は友達と割ったので、1万円の負担で済んだ。
そして迎えた旅の2日目。仕事のため先に帰国する友達を見送った後、私は13時過ぎにソウル駅から電車(京義・中央線)に乗り、北朝鮮の見える烏頭山統一展望台(鰲頭山統一展望台)を目指した。
国境沿いの「川」は浅くて狭い?
途中同じホームで乗り換えが1回あったが、トータル50分ほどで金村駅に到着。Uberタクシーを呼び、20分ほどタクシーに揺られると、お目当ての展望台が見えてきた(電車代とUber代は、あわせて片道2000円ほどだった)。
展望台は小高い山の上に位置していた。到着後、真っ先に目に飛び込んできたのは「大きな川」だ。この川が韓国と北朝鮮の国境であることは、直感ですぐわかった。川底はところどころむき出しになっており、水深はかなり浅そうだ。川の幅は狭いところで500メートルくらい。これなら徒歩で渡れそうだが……それが叶わない事情があることは、誰もが知っての通りである。
この川を挟んだ向こう側に、推定人口約2600万人。本物の北朝鮮があると思うと、なんだか不思議な気持ちになった。恐怖と興味がブレンドされたような感情に加え、「あ、北朝鮮って本当にあるんだ」といった驚きや、呆気にとられたような感覚もあった。

展望台入り口から見えた景色(著者撮影)

展望台入り口(著者撮影)
ドキドキした気持ちで、私は施設内に入った。受付にいたお姉さんに「展望台のチケットはどこで売ってますか?」と質問したところ、「入場料は無料よ」と回答があったので、そのまま階段を上ると、全面ガラス張りになった講堂のような空間に出た。
ちょうどニュース番組の撮影をしていたようで、スーツを着た女性が北朝鮮を背景に、何かを一生懸命しゃべっている。当たり前の話かもしれないが、おそらく韓国は日本以上に、北朝鮮の動向に神経を尖らせているのだろう。
ニュースの邪魔にならないよう気を付けて移動した後、私は屋外(展望台)につながる扉を開けた。

川を挟んだ向こう側に北朝鮮がある(著者撮影)
本物の北朝鮮。展望台から見えた衝撃の光景
外に出ると、目の前に北朝鮮の国土が広がっていた。国土の8割くらいは緑色と茶色(山や木や土の色)で覆われており、のどかな雰囲気と言うべきか、「かなり田舎だな」という感想を抱いた。民家のような建造物もパラパラと確認できる。韓国側も北朝鮮側も、見張り台のような棟が立っている。
「すげぇ、これが本物の北朝鮮なのか……」
おもむろに上空を見上げると、灰色の雲が広がっていた。
展望台には10名くらいの人がいた。みんな興味津々で、固定式双眼鏡をのぞき込んでいる。どうやら双眼鏡は無料で利用できるようだ。いったいどんな景色が見えるのか……。生唾を飲みながら、私は接眼レンズに顔を近づけた。

展望台からの景色。川の向こう側が北朝鮮(著者撮影)

双眼鏡をのぞき込む観光客(著者撮影)

双眼鏡から見えた景色(著者撮影)
「おー、日本の団地みたいな建物があるぞ!」「あれは一軒家、あっちは学校的な感じなのかな?」「あ、あそこに人がいる! 5人くらいで農作業してる! あ、牛もいる!」「車だ! アスファルトで塗装されてない道を、1台だけ車が走ってる!」
まだ足を踏み入れたことのない未知の世界に、私は釘付けになった。現地の人の表情まではわからなかったが、全部で20名くらいの北朝鮮国民の姿が確認できた。
いったい彼らはどのような生活を送り、どんなことを思いながら毎日を過ごしているのだろうか。私が今立っている建物、高層ビルばかりが立ち並ぶ韓国側の景色を、どのような気持ちで眺めているのだろうか……。
複雑な気持ちを抱えながら望遠鏡を覗いていたとき、偶然、近くにいた日本人男性2名の会話が耳に入ってきた。
「なんだか言葉にならないですね。この川を挟んで、どっち側に生まれるかで、その人の運命が大きく変わっちゃうなんて……」
パスポート保有率17%。国外に出たがらない日本人に筆者が伝えたいこと
異国を旅する度に、いつも思うことがある。それは「日本の常識は世界の非常識」ということだ。
先進国で暮らす私たちは、今日も当たり前のようにエアコンの効いた家で、お腹いっぱいにご飯を食べている。好きな時に好きな場所へ行く自由があり、表現の自由も保障されている。ハッキリ言って、圧倒的に恵まれている。
幸せとは厄介なもので、それが当たり前の環境になると、だんだんと幸せを感じなくなる、そんな傾向があるように私は思う。
2024年末時点で、日本人のパスポート保有率は17%。おおよそ6人に1人の割合でしか保有していない。日本には魅力的な観光地がたくさんあるので、国外に出なくても楽しめるという意見に対して、私は理解もするし共感もする。その上で、国外に出なければ味わうことのできない刺激や感動、学びがあることを、私は本記事を通じて日本国民に届けたい。
人生は経験の合計だ。世界を旅する日本人が増えてほしいと願いながら、私は展望台を出てUberタクシーを呼び、大好きな日本を目指した。
*本記事の内容は、2024年に著者が韓国渡航した経験をまとめたものです。