医学部や理工系を目指すのに付属校は有利なのか?「慶應医学部に内部進学するのは化け物です」と塾講師

大学進学への確度が高い付属校の人気が高まっているが…

 大学入試における推薦枠の拡大が進む中、付属校に進むことで早期に進路を確定させたいという考え方が広がっている。しかし、医学部などの進路を志望する場合には付属校ゆえの不利な面もあるという。が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする「“推薦6割”時代の付属校進学という選択」。【全3回の第2回】

【表】私立大学では6割超、大学全体でも5割超が総合型選抜、学校推薦型選抜に

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 前回(第1回記事)から「推薦入試が6割の時代」に付属校への進学は本当に大学進学に有利なのかを検証している。文部科学省は推薦入試を拡大する方針で、大学もそれに対応をし、東北大学は2050年までにすべてを総合型選抜にすると発表し、早稲田大学も推薦の比率をあげるとコメントしている。そのため、中学受験や高校受験で付属校に入って、大学進学の確約を得ようという保護者や受験生も増えている。

 一方で今、高校生たちは大学を偏差値やブランド力だけで選ばない。「自分がやりたいことができる大学に進学をしたい」という傾向が強まっている。そうなると、ミスマッチも起きてくるのだ。

慈恵医大の合格者に慶應付属高校出身者

 中学受験の段階では将来、どんな仕事に就こうかなど具体的に考えてないのはごく普通だ。中学高校と過ごしていく中で医療系の専門職に就きたいと思うケースもあろう。

 中学受験や高校受験で早稲田や慶應義塾大学の付属に合格するのは相当な学力が必要だ。首都圏トップクラスの学力の生徒たちが集まっているため、医学部への進学を志すケースも出てこよう。

 慶應には医学部もあるが、一般選抜の医学部受験では東大や京大に次ぐ難易度のため、内部進学はハードルが非常に高い。

 慶應の付属の生徒を指導していた、ある個別指導塾の講師はいう。

「慶應の医学部に内部進学するのは『化け物』ですよ。5教科の成績だけではなく、体育や音楽もできないとなりません。ですから、医学部を狙う子たちは休み時間にバスケのシュートの練習をしたりして体育の成績を上げようとするわけです。一般選抜で合格する方がまだ楽だとはよく言われています」

 そのためか、東京慈恵会医科大学の2024年度の入学者には、慶應義塾高校と慶應女子高校の出身者が2名ずついる。医学部への内部推薦がとれなかったので他大を受験したと推測できよう。慈恵医大は私大医学部では慶應に次ぐ難関だ。

 また、慶應女子のサイトによると2024年の合格先として、北里大学、秋田大学、帝京大学、千葉大、福井大、順天堂大学の各医学部も掲載されている。学費の安さを求めて国立大学の医学部を受験するのは別として、私立大学の医学部を受けるのは内部進学に手が届かなかったからかもしれない。

 それならば、中学受験や高校受験で付属校より進学校に通っていた方が、医学部進学に有利なようにも思える。進学校ならば基本、塾なしで一般選抜対策の基礎となる学力をつけられる。学校の勉強をしっかりやって、高校2年や3年から予備校や塾に通えば十分に医学部受験に間に合う。一方、付属校は「大学進学以降に役に立つ学び」を優先するので、一般選抜とは相性はよくはない。

 もちろん、医学部進学だけではない。理系学部は国立の方が研究や教育の環境がいいのは私立大学の教授たちも素直に認めるところだ。地方の国立大学の農学部の広大で充実した設備を見たら、農学を希望する生徒は「進学したい」と思って当然だ。

 その場合、国立大学はまだまだ一般選抜が主流なので、一般選抜の対策をする必要が出てくる。そうなると付属校はやはり不利になるといえるのではないか。

一般入試のハードルが下がる中での選択をどうすべきか

 また、付属校は総じて学費が高い。慶應義塾高校の年間学費(授業料や設備費など)は103万円ほどで、早稲田大学高等学院は134万円ほどだ。一方で、開成高校ならば67万6200円。都立高校はさらに安いし、大学受験対策にも力を入れている。高校だけならまだしも中学から付属校に通わせるとかなりの経済的な負担が生じる。今、都立中高一貫校は志願者が減っているが、このところ入試問題が変化し私立との併願がしやすくなっている。都立中高一貫校ならば学費を抑えることもできよう。

 大学受験自体は全体的にハードルが下がっている。その中で、進路の確約を早期に得るために、中学受験や高校受験で付属校に入ることは、必ずしも安心とは言えないのかもしれない。

「推薦6割の時代に付属校に入学することは、大学受験で有利なのか」という問題をここまで考えてきた。この第2回記事では医学部や国立理系に進学したいと思い、一般選抜を選択するケースも考慮に入れてレポートした。

 推薦入試が拡大しているが、少子化の影響で一般選抜は競争はゆるやかになっている。その流れの中でそうそう早くに大学進学の確約を求めることはメリットばかりではない。しかし、実は付属校には新たなメリットも生まれつつある。次回記事では、それについてご紹介しよう。

■第3回記事:《女子大不人気の中、日本女子や聖心の付属校が“総合型選抜の強豪校”になっているのはなぜか 推薦入試で武器になる「国語と英語の読み書き」を鍛えるカリキュラム》に続く

【プロフィール】

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、週刊誌や月刊誌で記事を書いている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote()のエントリーも日々更新中。最新刊は『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)。