大学入学者の6割が推薦の時代「付属校に進学すれば確約」は本当か?揺れる生徒や保護者の思い 内部進学のための塾通い、希望する学部がなく外部受験を望むケースも

付属校で内部進学を狙うか、進学校で大学受験に挑むか(写真:イメージマート)
大学入試で推薦が全体の6割を占める時代が到来しつつある今、私立大学の付属校への注目が高まっている。中学受験や高校受験で「大学進学の確約」を得たいと願う保護者も増える一方で、外部進学を考えると「本当に付属校が有利なのか」という疑問も根強い。が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする「“推薦6割”時代の付属校進学という選択」。【全3回の第1回】
【表】私立大学では6割超、大学全体でも5割超が総合型選抜、学校推薦型選抜に
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3月におこなわれた早稲田アカデミーの入試報告会では、志望校選びで「大学の入試が6割推薦という時代を意識する保護者や受験生が増えている」という旨が語られた。
実際、2024年度の大学入学者数別で見ると、私立大学では6割超、大学全体でも5割超が、総合型選抜あるいは学校推薦型選抜という、いわゆる推薦入試で入学していることが明らかになっている(文部科学省委託調査「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」より)。そしてその割合は、近年ますます増加傾向にある。
近年、推薦入試に関する報道が増えているが、実際、これから大学入試は推薦が拡大していく流れになっているのは間違いないだろう。東北大学は2050年までにすべての入試を総合型選抜にするとしているが、すでに国立大学の入学者の24%が推薦入試を経ている。私立大学でも、早稲田大学は今後は推薦入試を増やしていくと公言している。
文部科学省は推薦入試の拡大をさせていく方針で、各大学はそれに対応している。そのため、中学受験の保護者たちも「早稲田や慶應はほとんど推薦になっていって、一般選抜で入学するのがどんどん難しくなっていく」と不安を口にする。
高校受験では早慶、MARCH、そして、日東駒専といった私立の付属校は志願者の数が高止まりだ。そして、中学受験では慶應普通部が志願者を増やし、話題になった。しかも、従来なら難関進学校に進学して、東大を目指すような学力上位層が慶應普通部を受験しているという。その背景としては、「東京大学を目指すよりも、中学入学の段階で慶應義塾大学への進学の確約がほしい」という家庭が多いからではないだろうか
今年、慶應普通部に入った生徒の母親はいう。
「夫は駒東(駒場東邦)や浅野といった進学校に入れて、大学受験をさせる方が本人のためになるといいましたが、それだとあと6年間、私が気が抜けない。私が仕事に頑張るためには付属校に入れた方がいいと判断しました」
働く母親が増えていることも付属校人気に影響しているかもしれない。
一方で、推薦入試も多様化している。進学校には多くの指定校推薦が割り当てられているし、総合型選抜や公募制といった「指定校以外の生徒も応募できる推薦入試」も増えている。
かつてなら、偏差値上位の高校はどこも「一般選抜しかあり得ない。推薦入試なんて甘えだ」などと推薦入試に否定的だったが、最近は姿勢が変わってきている。国立大学や医学部の推薦入試が拡大しているからだ。
この「推薦入試が6割」の時代に、果たして、付属校は大学進学において最善の選択なのだろうか。
まずはそのリスクから見ていこう。
付属校は「勉強せずに大学に進学できる」という幻想
ある生徒は、3年間中学受験に取り組み、憧れの付属校に入学した。
「付属校に入れば勉強せずに大学に行ける」と期待して入学したが、厳しい現実に直面する。学校側からは「ちゃんと勉強をしないと高校から入ってくる生徒たちと同じ学力にならない」と説明をされ、宿題はしっかりと出る。
つまり、高校入試も突破できるぐらいの学力をつけろというわけだ。
高校に入学したら、高校受験組と同じ授業を受けるし、内部進学の競争で負けないためには、中学のうちからしっかり勉強をしなければならないというのだ。
付属校や系列校からの内部進学の枠は広がっているが、希望する学部となるとまた話は別だ。早稲田の付属校や系列校からは政治経済学部や理工系の学部への進学を希望する学生は多いが、一定以上の成績でないとそれらには進学できない。
ある中学受験生の保護者はいう。
「合同説明会で早稲田中学校から『政経学部に進学するためには東大に受かる学力が必要』といわれました。中学受験であれだけ難しい早稲田中高で、トップクラスの成績となるとそうなるのかなと」
学校側は少し大げさにいっているのかもしれないが、保護者は不安になるので、入学後も子どもを塾に通わせる。
そのため、早稲田大学高等学院や立教池袋の内部進学のサポートをする専門塾も存在する。個別指導塾を見ていても「立教女学院の内部進学のサポートをします」「明大中野、中大杉並の内部進学のサポートをします」と具体的に学校名を出して宣伝しているところもある。
ある付属校の保護者はこう苦笑する。
「学校で使っている教科書を持って大手個別指導に相談に行ったら、『中高一貫の進学校と同じテキストなので、うちで指導できます』といわれました。付属校も、進学校と同じテキストを使って本格的に勉強させるんだなと思いました」
内部推薦の拡大の中で中学受験偏差値が上がった学校も
一方で、「学部を選ばなければ大学へ内部進学できる」率が高まっている。
あるYouTuberは「早慶もMARCHも金持ちの子どもを入学させたいから内部進学を増やしている」と煽っているが、もちろんそれは事実ではない。注目を浴びるためにそう言っているのか、単に情報を持ってないからそう言っているのかは謎だ。
なぜ、付属校や系列校からの内部進学が増えているか。推薦入試を拡大していく中で、総合型選抜や公募制は書類審査や面接、小論文などが必要で手間がかかるから、そうそう増やせない。一方で、内部推薦ならば高校側が優秀な生徒を送り込んでくれるからだ。内部進学の枠が全員分あっても、もちろん進学させてもらえない生徒は出てくる。付属校や系列校は生徒を教育すると同時に選抜もする。
この内部推薦の拡大の中で、中学受験偏差値を上げているのが品川区にある香蘭女学校だ。
立教大学の系列の女子校だ。1学年160名の少数制で、きめ細かい教育をしている。一昔前は香蘭から立教大学への内部進学は80名であったが、2020年度に97名、2024年度は160名になった。つまり、1学年の生徒数とイコールとなったわけだ。その効果もあってか、中学受験偏差値が上がっている。2017年は四谷大塚偏差値51だったのが、2025年現在は59と上がっている。
香蘭の2024年度の進学実績を見ると、64%が立教大学へ進学。残りは他大学に進んでいる。外部への進学者の29%が理工系、医療系学部が24%。国立大学の合格者が6名(現役のみ)、東京理科大の合格者が7名、芝浦工大の合格者が4名。女子の理系進学が増えているが、香蘭の生徒たちも同様のようだ。
香蘭の生徒の母親はいう。
「親としてはどこの学部でもいいから立教に行ってほしいと思います。ただ、本人は立教に希望する学部がないから、外部受験をしようかなと言い出しています」
今、高校生は大学を偏差値やブランド力、就職などで選ばず、「やりたいことができるかどうか」を選ぶ。
そのトレンドの中で、選択肢が狭まる内部推薦は、生徒たちにとって、使い勝手がよくない入試にもなっている側面もあるのかもしれない。高校受験の段階ならば「どの大学のどの学部に行きたい」とある程度、決めることはできるだろう。しかし、中学受験をするのは小学6年である。その段階で大学のどの学部で何を学びたいかなどを決めるのは難しい。
今回は大学受験で推薦が6割の時代に付属校へ進学するリスクについて言及した。次回は系列の大学には存在しない学部に進学したくなったり、希望する学部に進学できない場合について見ていきたい。
■第2回記事:《医学部や理工系を目指すのに付属校は有利なのか?「慶應医学部に内部進学するのは化け物です」と塾講師》に続く
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。著書に『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、週刊誌や月刊誌で記事を書いている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote()のエントリーも日々更新中。最新刊は『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)。